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2009.02.09

『職業“詐欺”~増殖する若者犯罪グループ~』(NHKスペシャル)

090209_b 「分さえ良ければ、人はどうなってもいい」、「カネこそ全て」…そう言う上層部。「生きていくため」…そう言う下層部。暗澹たる気持ちにさせられた番組でした。
 オレオレ詐欺と呼ばれ、こうした形の詐欺が表面化したのは、今から7、8年前でしょうか。これだけ被害を防ごうと方策が練られ、啓蒙活動が盛んになっても、一向に減少する気配はありません。
 その背景に、景気の悪化による就職難、そして若者たちの意識の変化があるということを、この番組では強調していたように思われます。
 少し話がそれますが、大学入試の時期になりますと、いつも思うことがあるんですね。それは、こちらの記事にも書きましたが、若者や子どもが巻き込まれる社会問題の全ては、我々大人が用意しているということです。そして、その当人である大人たちは、それを若者自身のせいにしたり、あるいは、それこそ小論文の課題を無思慮に出す大学のセンセイのように、その解決を若者に押しつけたりします。
 またまた話がそれますけど、先日私も戦った(?)漢字能力検定協会の問題なんか、あれだって立派な大人の「詐欺」だと言えば「詐欺」です。公的な詐欺です。あんまり悪口言うと、この前みたいに露骨に仕返しされるので(笑)、これ以上言いませんが、まあ、しかし私の言ってることに間違いはないと思いますよ。
 ただ、そういう構造というのは昔からいくらでもあったわけで、今に始まったことではありません。では、なんで最近、振り込め詐欺のような問題が表面化しているか。もちろん、NHKさんが取り上げたような現状もあると思います。しかし、私はもっと違う視点も必要だと思うんですよね。
 そう、以前はそういう「詐欺」や「恐喝」などによる「富の再分配」は、ヤクザの仕事だったんですよ。「富の再分配」なんて、問題発言かもしれませんけど、しかし実際そういう機能も果たしていたんです。
 しかし、ヤクザが国家権力と市民によって、つまり、我々自身によって駆逐されてしまった今、こういう「貴い」仕事を「公的」にする組織がなくなってしまった。それをするのは、一般人になってしまったんです。
 以前なら、一般人がそういう「仕事」に手をつけようとすれば、すぐにヤクザの方々に思いっきり怒られたでしょう。命さえも危ない。だから、そういう貴い仕事は我々には回ってこなかったんです。
 今日の番組では、上層部の皆さん、だいたい高学歴の方々でしたね。有名進学校を出たとか、有名大学に通っているとか。まあ、それはそうでしょう。知能犯ですから。知能の使い道を誤れば、そういう仕事に手を染めますよ。誰しもそういう危険性があります。
 昔もそういう発想をする頭のいい人はたくさんいました。それは変わりません。根底にある若者の意識も何も変わっていません。でも、その業界には進出できなかったんです。それはヤクザの皆さんが目を光らせていたからです。そういうプロの皆さんのおかげで、我々はそういうことに手を染めないですんでいたんです。
 振り込め詐欺に限りません。ヒルズ族なんか、昔ならすぐに鉄砲玉が飛んできて、まじで命ありませんよ。
 最近、そういうヤクザに関する本を何冊か読んでいます。この前も『近代ヤクザ肯定論 山口組の90年』を紹介しましたね。そういうのを読んでいると、こういうことに気づくんですね。まさに「悪をもって悪を制す」。
 やっぱり世の中には必要悪というのがあるのだなと。そんなに単純化してはいけないことも分かりますが、しかし、一方で、自然界に無駄な生き物がいないのと同様、人間界にもいろいろな生き物が必要だということを痛感するのです。社会の病原菌だとか、ダニだとか、いろいろ言って駆除してみたら、さあこういうことになってしまった。寄生虫を駆除したらアレルギー(花粉症など)が激増したりとかね。
 つまり、ここ10年くらいで、日本は根底から変わってしまったんです。必要悪的な方法による「富の再分配」も含めた互助的な生活基盤はどこに行ってしまったのでしょう。
 若者の心の荒廃や深刻な雇用問題より以前に、そういう部分に対して、暗澹たる気持ちになってしまいました。

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コメント

富士山蘊恥庵庵主さんはじめまして。
一日一食生活のことについて調べてたら流れ着いてきました。

毎日先生のブログに楽しく笑い(思わずクスッとなってしまいます)、ときに(?)考えながら拝見させていただいております。

今回の掲載の冒頭部分、自分さえよければ、金がすべてという部分に私もそれでいいのかと疑問を抱きつつも、ではどうすべきかの具体案などなく戸惑う者の一人です。
というのも大学で今産業の戦略について勉強しているのですが、果たして会社は究極的にはどうあるべきなのかが分からないまま過ごしています。本当に自社のことだけを考えていくだけでいいのか、また利益だけがすべてなのか(今は社員を切り捨てて損を出さないようにしている会社が多々ありますが)。そんなことを考えながらもこのブログからはたくさんのことやものに出会い、学ばせていただいております。
このブログを書いていてくださってありがとうございます。これからも書き続けてくださいね。僭越ながら応援しております。

投稿: ニキータ | 2009.02.11 09:58

ニキータさん、はじめまして!
コメントありがとうございました。
今、プロレス観戦から帰ってきました(笑)。
いやあ、プロレス的互助世界はいいですよ〜。
資本主義、市場経済、それもアメリカ的ガチ勝ち負け世界とは違います。
本当に心から涙してきました(痛くてごめんなさい)。
私は本当に世界経済のアメリカ化、企業のアメリカ化には嫌悪感を持っています。
旧来の日本的経営だったら、今般の金融危機を、人員1割削減ではなく、全員の給料1割削減で乗り切るでしょうね。
実は、私も仕事上大いに悩んでいます。
受験自体勝ち負けですし、いい大学へ行って、いい企業に入って、というための毎日のような気がするからです。
しかし、疑問を感じながらも、なかなか現状から脱却できません。
自分も仕事を失いたくないし、多少のお金や名誉もほしいからですね。
考えていることと、書いていることと、言っていることと、やっていることが矛盾だらけで迷っています。
本当はマジで出家して仏道に生きたいんですけど、実際はそうは行きません。
辛いですね。
しかし、悩み、迷っているだけ、まだいいのかな、とも思うんですね。
産業の戦略…たしかに難しいと思います。
みんなが利己的になれば、世界は滅びます。
しかし、現状ではきれごとを言っていたり、正直にやっていては、企業はつぶれます。
生きていくためには、振り込め詐欺の末端の方々と同じく、自分や人をだましていかなければならないのですね。
そんな世の中を変えていくのは、それこそ教育に課せられた仕事だと思うんですけど、自分一人ではどうしようもありませんし、それ以前に、やはり自分も結局利己的に行動してしまうんです。
辛いですね。
やはり、第3の経済、利他、布施、知足を旨とする「仏教経済学」を広めるしかないかなあ…などと考えているところです。
しかし、それを実現するには、なんらかの世界的クライシスがないと無理です。
それもいやなんですよね。
ホント、いろいろ辛いです。
でも、頑張るしかないですかね。
頑張りましょう。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.02.11 21:19

2.11日の日記を拝見しました。そこからも先生のプロレス愛がにじみ出ていますね。私もプロレス的互助世界をライブで見てみたいです。

たしかに今のこの世界はアメリカ的な資本主義な人が満ち満ちていますね。一番になったとしても、それは幸福であるのと同等ではないと言うのに。しかし、そこから抜け出すことができない。誰しも自分の身の確保を優先してしまいますよね、そうゆう自分がいることを私自身も含めて知っている。。。そしてそこから一歩でも抜け出したいという自分とがもがいて苦しんでいます。先生の携わっている教育というものも果てしなく難しい道であるように思われますし、他者の私にさえそう感じられるのにまして当事者の先生の葛藤は計り知れないものだと思います。でもそうやってじたばたして悪あがきをして一歩一歩泥沼から足を出して前進することこそが正しいと私も信じていますよ。

本当に今の企業は困難な立場にあると思います。生き残るためには手段を選ばずなりふり構っていられない状況にある。自社にとって不要なものや人は切り捨てなければ潰れてしまうと。
しかし、日本の全部の会社がそうではないことも確かです。オフィスを移転縮小することによってコスト削減して、社員を一人として削らないというところもあるそうです。これは人を切るより遥かに難しいと思います。大企業であればあるほど困難でしょう。それでも何か新しい道があると信じたいです。今は時代の1つの変換点にさしかかっているのかもしれませんね。まるでマンガのナウシカの世界に自分がいるような気分がしてきます。


それにしても自分の文章構築能力が低すぎて思っていること感じていることが上手く書けず、なんだかまとまりのない文になってしまい申し訳ありません。

投稿: ニキータ | 2009.02.12 14:49

ニキータさん,おはようございます。
たしかにナウシカそのものですね。
私も希望を捨てていませんよ。
望みが捨てるということは自分をあきらめることになりますからね。
経営のカリスマと言われる人たちには宗教関係者が多いのですが、彼らがどういうふうに矛盾を乗り越えているのか、興味がありますね。
ま、単に「お客様の幸せのため」なんていう偽善ばかりの人もいますけど。
とにかく「われよし」「つよいものがち」の世界はいつか破綻しますね。
誰かが少しずつでも変えていかねば…。
お互いあきらめずにあがいていきましょう!

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.02.13 08:34

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