『言葉の誕生~私たちはいかにして人間になったのか~』 (NHKハイビジョン特集 フロンティア)
ちょっと忙しいので気がついたことだけ書いておきます。
言語の起源に関していくつかの説が紹介されていましたが、まず面白い対照をなしていたのが、プロヴァンス大学ジャック・ウォークレアさんの「身振り起源説」と理化学研究所脳科学総合研究センター岡ノ谷一夫さんの「歌起源説」。
「身振り起源説」では特定の猿が右手を使って意志を伝達している様子が紹介されました。右手で地面を叩いていました。右手を使うということは左脳を使うということ。一般的には左脳は言語を司っていると言われていますから、これは面白い事実ですね。
一方「歌起源説」では、鳥の鳴き声やアフリカの原住民に伝わる歌の分析から、言語は歌から生まれたと主張されていました。一見(一聴)無意味なメロディーが何度も聴いているうちに、ある種の単語に分節されていく様子は実に興味深かった。音楽をやっているものにとって、これは常日頃言語との関係において意識されていることですから。ちなみに音楽的領域を司るのは右脳だと言われていますね。
で、思ったのは、この二つは両方ともある意味正しいなということです。
英語などの印欧語は基本、強弱(ストレス)アクセントですよね。一方、日本語や中国語などアジアの言語には高低(ピッチ)アクセントの言語が目立ちます。また、日本語はやや特殊で、言語でありながら右脳の関与が大きいとも言われています。
そうです。私は猿と鳥の映像を見ていて、あああっちは猿、こっちは鳥だなと思ったのです。右手でリズムを刻んでいたのが、声でリズムをとるようになり、そして強弱アクセントの言語に進化したと。そして、鳥のように歌っていたのが進化して高低アクセントの言語になったと。これで左脳、右脳の問題も解決しそうです。
こうしたことは、東西両方の音楽をやっている者としても、気になっていたことです。特に歌詞のついた音楽をやる時、両者の差異を意識することは避けて通れません。
ところで、番組中、北陸先端化学大学院大学橋本敬さんの興味深い研究が紹介されていました。言語が爆発的に進化するために、「リプレイス」が重要な鍵を握っているとのこと。すなわち、「青い空」「青い川」「青いくだもの」など実在するものだけでなく、「青い心」などという創造的・想像的な観念を表現できるようになることが、人間的な言語の発達に大きく関わっているのだそうです。なるほど、そういうフィクションを作り出す能力こそ人間と他の動物を画すものであることはたしたですね。ワタクシ的に言うと「モノガタリ」、「コト化」です。
ただ、一つ苦言を呈しておきます。橋本さんもナレーターも「シミュレーション」を「シュミレーション」と言い続けていたように思えるんですが…(笑)。私の耳がおかしいのでしょうか。ま、「あらたし(新たし)」が「あたらし」になっちゃったように、こういうふうに音韻の転倒(リプレイス?)によって言語は進化していくんですけどね(笑)。いや、冗談抜きで誤謬や失敗も進化のエネルギーであることは、言語だけではなく、科学や工業など他の分野でもフツーに見られることですからね。
ほかにも私の「モノ・コト論」的にも面白い発見がありましたし、相変わらずのチョムスキー節も聞けたし、けっこう面白い番組でした。
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