『偽善エコロジー』 武田邦彦 (幻冬舎新書)
「環境生活」が地球を破壊する
結局、昨日の話にもつながるのかなあ。古き良き時代と今と何が違うのか。そんな単純化できる話ではないというのも分かりますが、やはり今の私たちはちょっと狂っているような気がします。
著者の武田邦彦さんは、この本で単に「偽善リサイクル」はやめましょうということを述べているのではありません。世間で騒がれている「エコ」な生活、それが本当に偽善なのか、本当に意味のないことなのか、あるいは言われていることとは逆に環境に良くない行為なのかは、これは様々な立場から様々な意見を聞き、最終的には自己の責任において検証、判断すべきことであって、今ここでシロウトである私がすぐに是だ非だ言えることではありません。
しかし、ただ一つはっきりここで言えることは、武田さんの言うとおり、我々日本人が、誇りや、誠実な心や、謙虚さや、もの作りの魂や、感謝の心を失ってしまっているような気がするということです。
いや、それは昔も(たとえば昭和にも)、いくらでもそういう汚い心はありました。しかし、それが過半数を越えていたかというと、ちょっと違う気がする。昔は…ずいぶん曖昧な表現ですが…個人の心の中でも、家族の中でも、そして国家の中でも、もう少し善良な魂が力を持っていたような気がします。
お金もうけのためなら、平気で子供たちにウソを教える大人たち。そして、国やマスコミやいわゆる先生の言うことを鵜呑みにする大人たち。もちろん自分も含めてですが、そういう大人がたくさんいるような気がします。
偽装だの、捏造だの、あるいは金融危機だの何だの、みんな資本主義経済、あるいは市場経済が生むべくして生んだ人間の心の荒廃の現れです。特に市場が拡大して、しまいには極大化=グローバル化して、お客さんの顔が見えなくなってしまうと、どんどん人間はウソをついたり、人を陥れたりすることに無反省になっていきます。そんなことは子供でも想像できますよね。共感、すなわち思いやりが希薄になって、その結果、その裏に隠れていた醜い本性が表面化するんです。
本当は、そんな醜い自分の姿を、自分が一番よく見ているはずなんです。もしかすると他人は誰も見ていないかもしれないが、しかし、自分は間違いなく知っている。まさに、天知る、地知る、我も知るですね。
たしかに、真心というか、誠というものは、これは私たちの本来なのではないのかもしれない。フィクションかもしれない。偽善の努力が必要なのかもしれない。しかし、最後は人さまのためではなく、やっぱり自分のためなんじゃないでしょうかね。そうして「善」でいるというのは。
でも、今言った「独善的偽善」と、武田さんが糾弾する「独善的偽善」とは全く違うものですよ。前者は自分が不快にならないために善を生み出すのであって、後者のような単にカネ目的で他人をだます騙りとは正反対とも言えるものです。で、この本にも書かれていますが、結局前者の意味での独善的行為が、他者のためになったりする。
で、逆にですね、後者の偽善が厄介なのは、その騙りが、前者の偽善に働きかけるというところです。つまり、ほんのちょっと存在する、善意の萌芽を刺激して、それを利用して、大きく成長してしまうということです。人をだまして、人の善意を利用して金もうけするというのは、最も簡単に地獄に落ちる方法だと思うんですが。それを平気でやってしまっている人を、なぜか現世では「勝ち組」と言う…。
それにしても、この本に書かれていることは、たしかに驚愕に値しますね。我々の常識と真反対のこともたくさん書かれています。レジ袋、割り箸、ペットボトル、バイオエタノール、温暖化、ダイオキシン、古紙…本当に面白いほど覆されます。
最初に述べたとおり、私は今ここで筆者の意見に完全に賛同できる立場ではありませんが、しかし、こういう視点をも持っていたいと思うのは事実です。特に私は先生と呼ばれる仕事をしていますから、その思いは人より強いかもしれません。
最近、ちょっと辛いんですよね。自分は進学の担当ですから、教科書に書かれていることを信用して丸暗記していい大学に合格しろ!それで世間でうまいこと「勝ち組」になれ!みたいなことを、そんなに直接的には言いませんけれど、結局はそう教えてるんじゃないかって。
かといって、たとえば仏教的に正しいことを、若者に力説して、もし、もしですよ、それに彼らが共鳴して、今の社会システムに反旗を翻したとするじゃないですか。そうしたら、彼らは幸せなんでしょうか。彼らの親御さんは納得するんでしょうか。そんなことを考えると、自分の仕事が時々虚しく感じられるんですよね。昔はそんなことを考えなかったのになあ…。
いつかも書いたように、新入生に対する最初の授業では、このリサイクル問題も含めて、いくつかのショッキングな話をします。中学まで教わってきたこと、自分たちも信じてきたことを、根底から覆すような話をします。でも、そこから先が難しいんです。そんなこと知らなきゃ良かったという生徒もいるでしょうし、じゃあどうすればいいの?と悩む生徒もいるかもしれません。逆にそんなこと言ったってどうしようもない、それを知った上で自分はあえて現実的に金持ちになる生き方を選ぶ!というツワモノもいるやもしれません。
ただ、知らないで騙されるのだけは避けてもらいたいんですよね。そのあとは自分で考えて選べと。ちょっと無責任ですが、そういう気もするし、いや、実は、こんな悪意に満ちた騙し合いの世の中を根底から変えようという、そういう大人になってほしいと思っているのかもしれません。自分にはできそうにありませんので。
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コメント
>でも、そこから先が難しいんです。
大丈夫!
例え庵主様がヒトラーのように生徒さん達を意識的に洗脳しようとしても、そんなこと知らなきゃ良かったという生徒もいるでしょうし、じゃあどうすればいいの?と悩む生徒もいるでしょうし、逆にそんなこと言ったってどうしようもない、それを知った上で自分はあえて現実的に金持ちになる生き方を選ぶ!というツワモノも必ずだからです。
投稿: LUKE | 2009.01.04 20:51
あ、ミス。orz
>必ずだからです。
→必ず居るはずだからです。
投稿: LUKE | 2009.01.04 20:53
そう!そのとおりです。
私が悩んでもしょうがないし、
私にはヒトラーほどの影響力はありませんからね。
せいぜい生徒たちに勝手に悩んでもらいましょう。
てか、どう見ても悩んでないな、あいつら。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.01.05 07:31