『対論 言語学が輝いていた時代』 鈴木孝夫・田中克彦 (岩波書店)
『対論 プロレスが輝いていた時代』 ジャイアント馬場・アントニオ猪木 (名古屋タイムズ社)…不謹慎にもマジでこんな本が思い浮かんでしまった。鈴木先生ごめんなさい。そしてお会いしたことありませんが田中先生ごめんなさい。
お分かりになる方はお分かりになると思います、この私の比喩。実に大真面目なんです(ただし一般的ではないかもしれない…パロール世界であります…笑)。いやあ、時代は変わりましたね。というか、あの頃はここでも遠くなってしまいましたね。ここのところそういう記事ばかりで辟易気味の方も多いのでは。蘊恥庵庵主も老けたなと。
でも、しかたありません。事実は事実なんですから。決して過去を美化しているわけでは…いや、してるかな。それにしても、「今」があまりにダメなために、こうして不倶戴天の二人が呉越同舟するというのは、ちょっと嬉しい反面、ちょっと哀しいかも。複雑な心境です。
そうそう、この前書いた、「両虎二龍の闘い」なんかもそうです。初代タイガーと二代目タイガーが仲良く相まみえるなんて、誰も想像しませんでしたからね。あまりに違う道を歩んできたわけですから。
そう、鈴木先生と田中先生、まさにそういう関係だったんですよね。まさにジャイアント馬場とアントニオ猪木ですよ。ある意味同じジャンルの二大巨頭だったわけですが、あまりにスタイルが違い、また、互いに激しく罵倒…とまではいかなけれど、非難し合った仲ですから。
その二人がこうして同じリングに上がって、そして仲良く、本当にある意味まったりと語り合っている。お互いの技も不思議と噛み合っている。相手の技を上手に受けて、そして自己主張もしっかりしている。プロレスの試合としては、本当に古典的な名勝負になっています。どういうことでしょう。
両虎の時も思ったんですけど、やっぱり道筋は違っていても、長い年月を経てきますと、結局同じ到達点に逢着するんでしょうかね。目指す頂上は一緒でも、コースが違っていたのでしょうか。
面白いのは、この対談のテーマです。「言語学が輝いていた時代」…そう、馬場と猪木が今対談したとして、力道山先生を改めて称揚し、往年の国内外の名レスラーの人柄、エピソードを懐かしむ。そういう感じなんです。井筒俊彦さん、亀井孝さん、服部四郎さん、村山七郎さん、そしてソシュール、チョムスキー…。たしかに懐かしいお名前が並びます。私も青春時代を思い出してしまいましたよ。
まあ、なんとなく気に入らなかった人が、実際会ってみたら案外いい人、面白い人で、大いに盛り上がったということは、誰しも経験することでしょう。意外な一面があったりしてね。また、意外な共通点があったり。今回の両雄もそういうことなのかもしれませんね。
たしかにお二人には共通点があると思いますよ。鈴木孝夫大明神については、それこそ実際にお会いしてお酒を呑んで、そうしてあの方のぶっ飛びぶりを目の当たりにしましたし、田中克彦センセーについては、こちらの番組でその動く姿に初めて接して、そうしてやはりぶっ飛びぶりを知りました。そう、まさに昭和の偉人に特徴的な、あの「ぶっ飛び感」ですね。スケールの大きさとユーモア。こだわりと好奇心。
そうですね、だいたいが、お二人には、生きてきた時代の空気という共通項がありますし、「言語」「言葉」に対する興味と愛情は言うまでもない根源的共通点ですよね。つまり、同じ女を愛するライバル同士だったんですよ。それがお互いアラウンド・エイティーになってですね、もうその女も自分のものではなくなって、いつのまにか同志になった。きっとふられたんですよ、言語に。それほど言語という女は不可解で不随意な「モノ」だったんです。「コトのは」なんていう名前、外見を持っていながら、その実態は「もののけ」だったと。
まあ、そういう感じで、とっても癒された読書でした。中には、この二人の対論と聞いて、バチバチのガチンコ勝負を期待した方もいらっしゃったことでしょう。でも、考えてみれば、両翁の殴り合いなんて見たくないですよね。私は結局これでいいと思いました。
人間と時間の関係、言語という魔物の魅力、それらを存分感じさせてくれる、素晴らしい「文学」でした。ああ、もののあはれ…。
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