『日本ナンダコリャこれくしょん「対決!オドロキの日本絵画」』 (NHK BSハイビジョン)
やっぱり横綱は強くなくっちゃ(by 麻生総理)…本家大相撲は朝青龍の優勝。けっこう盛り上がってましたね、千秋楽。本割りで並んで優勝決定戦。まあ、どちらが優勝してもモンゴルか…。ちょっと複雑な気持ちです。
で、こちらはモンゴルに負けませんよ。これこそニッポンの底力。世界に誇るナンダコリャです。昨年冬の第1回、秋の俳句に続きまして、第3弾の「ナンダコリャ」です。今回はテーマごとに東西1作品ずつが対峙し、審査員(ゲストら)がナンダコリャポイントをつけて競うという形式でした。
まあ、ほとんどその採点たるや、御自身の趣味という感じで、その不真面目で真面目な八百長感が良かった。ちなみに採点していたのは、初回のゲストのお三人、ナンダコリャ研究家(?)の山下裕二さん、サックスプレイヤーにしてミジンコ研究家の坂田明さん、にっかつロマンポルノ…いや静岡市出身の大女優美保純さん、そして今回はなぜかオセロの白い方(?)松嶋尚美さんが加わっていました。あと、絶妙の司会進行をつとめるいとうせいこうさんも採点してましたね。
さて、実際に行われた取組七番とその勝敗をご覧下さい。それぞれに推薦者、すなわち部屋の親方みたいな人がいます。写真は左が東、右が西です(それぞれclickすると少し大きくなります)。
奇想天外むかし話対決
東 ○「浦島図」山本芳翠 (佐野史郎推薦)
西 ●「素盞嗚尊八岐大蛇退治画稿」 原田直次郎 (なぎら健壱推薦)
ウラシマはこれは「過剰」の典型ですね。こうなるとエロもエロではない。グロに近い。スサノオは、これは反則でしょう。犬が顔出すのはねえ。それも洋犬だ。遊びでしょうね。スサノオと洋犬の習作を同じキャンバスでやっちゃったと。
これでいいのかヘタウマ対決
東 ○「築嶋物語絵巻」 作者不詳 (南伸坊推薦)
西 ●「洛中洛外図屏風」 長谷川巴龍 (しりあがり寿推薦)
このヘタウマ対決はすごかった。なんでもわざと素人に描かせるのが流行ったのだとか。変態趣味の一種ですね。フィクションこそ萌えの対象であることがよく分かります。
そこまで凝るか対決
東 ○「五百羅漢図」 加藤信清 (山下裕二推薦)
西 ●「大花瓶色絵漆絵」 柴田是真 (安村敏信推薦)
むむむ、羅漢図は全部字で描かれている。法華経です。この文字絵は…つまりアスキーアートの元祖ってことでしょう。それにしてもなあ…どうしちゃったんだろう。これが50幅あるっていうんだから。花瓶の方は何が凝ってるかというと、この地の紫檀の板や額縁が全部絵だということです。つまりだまし絵。たしかにここまでやるかですね。
これが人間だ対決
東 ●「六道絵人道不浄相」 作者不詳 (松井冬子推薦)
西 ○「放屁合戦絵巻」 作者不詳 (松嶋尚美推薦)
六道絵は怖い。死が隣り合わせだったんですね。これを見ると煩悩がなくなると。現世が空しく感じられるらしい。おならは、これは去年実物見ましたね。たしかに面白かった。鳥獣戯画より人気あったもんなあ。
元祖マンガ対決
東 ○「道真天拝山祈祷の図」 小林永濯 (美保純推薦)
西 ●「仁王捉鬼図」 狩野芳崖 (いとうせいこう推薦)
この道真と仁王はたしかにちょっとマンガ的です。マンガの原点はもっともっと遡りますが、より現代漫画的な表現ですね。つまり大げさでダイナミックでユーモラスなわけです。
いったい何が言いたいんだ対決
東 ○「一つ目達磨」 白隠 (玄侑宗久推薦)
西 ●「○△□」 仙厓 (坂田明推薦)
これらについては何も語りません。「禅」ですから。意味なんてありません。ナンセンス。
世紀のスーパーモデル対決
東 ●「魚籃観音」 下村観山 (草薙奈津子推薦)
西 ○「赤穂義士報讐図」 安田雷洲 (岡泰正推薦)
これらはパロディーですね。観音はモナリザ、赤穂浪士はハウブラーケンの羊飼いの礼拝。問題はシャレなのか、まじめなのか、パクリなのかってことでしょう。こればっかりは本人に聞いてみないとわかりませんね。
ううむ、なかなかすごい取組が続きました。ちなみに全勝優勝(満点獲得)は山下部屋の「五百羅漢図」でありました。たしかにすごすぎる。
その五百羅漢に象徴されていますが、なにしろ、日本の「過剰」…「過剰な不足」を含む…の美の迫力はすごかった。これはまさにオタク魂です。虚構をきわめて真実を語るというか、いやそんな意識はないのです。いつも言うその一点に集中して固執してしまう「萌え=をかし」的思考と行動ですね。ある意味自閉的であります。ある意味子供的であります。
意味がどうこうではない。ただ技術に走ったり、瞬間のひらめきを固定したり、今知ったことを経験と融合させたり、ミーハー的なファン心理にまかせたり、とにかく世間の評価とかそういうことではなく、自分の世界の中にどんどん没入していってしまうんですね。
つまり社会的ではないから、たとえば西洋的写実なんていうのはクソ喰らえです。最初から、ありえないものを描く。どうせ作品は本来的にフィクションなんですから。現実にはない輪郭線を描き、遠近法を無視し、異時同図で時同や空間を飛び越える。すなわち、我々日本人にとっての「写実」とは、まさに「印象」を写し取ることであり、脳内のイメージこそが実存在だったわけです。
そういうフィクションどうしの対決ですから、こういう胡散臭い、トンデモな、しかし実に楽しい取組になるんですよね。素晴らしい。相撲も本来はそういう性質のものでした。
NHKさん、ぜひともこのシリーズ続けてください。美術に限らず、ナンダコリャなものは無数にありますし、そういうものたちに注目するのは、我々日本人の柱の部分を見直すことになりますので。そして、自らを世界に誇る日本人を育てることになりますので。ぜひぜひ。楽しみにしています。
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