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2008.12.05

シュトックハウゼン 『マントラ』

Karlheinz STOCKHAUSEN Mantra
Na025cd 年の今日、ドイツの現代作曲家シュトックハウゼン氏が79歳で亡くなりました。今日は氏を偲んでこの曲を聴きました。聴きましたというより、読書(観世寿夫の本)のBGMと言った方が正確でしょうか。
 普通に聴いていたら見事な子守歌になっていたんでしょうが、能の幽玄と案外にもマッチして心地よかった…かも。
 シュトックハウゼンを初めて意識的に聴いたのは、1980年のことだったと記憶しています。当時、高校生だった私は、ヴァイオリンを弾き始めた頃で、バッハの無伴奏に異様にひかれてまして、いろんなレコーディングを聴きあさっていたんですね。そんな時たまたまレコード屋さんで見つけたのがイスラエルのヴァイオリニスト、ロニー・ロゴフという人の録音でした。普段ならそんな知らない人のレコード(それも2枚組)は買わないんですけど、バッハのパルティータ1番と2番のほかに、シュトックハウゼンの「黄道十二宮(Zodiac)」から6曲が入っていましてね、当時まだかなりの天文オタクだった私は、なんとなくそのムジカ・ムンダーナな雰囲気にだまされまして(笑)、つい買ってしまったんですよ。
 バッハの方はなんかザクザクしていてそれなりに面白い演奏だった(…最近ネットでこの人のことを調べてたら、面白い情報が。なんでもこの録音はうまく行ったテイクの切り貼りで、ものすごいパッチワークというか、コラージュというか、モザイクというか、らしい…ホントかな?…全然わからなかった…デジタル魔術の走りですな)。シュトックハウゼンの方はというと、ヴァイオリンのソロで弾いているんですけど、なんとも聴いたことのない種類の音楽だったので、それなりに面白かった。というか、バッハはマネできそうになかったけれども、こっちはなんとなくそれらしく(もちろん即興で)できそうな予感がしたんですよ。さっそくお風呂でエコー効かせてガンガン弾いて、家族から苦情が来ましたっけ。
 ま、私にとっての現代音楽なんて、そんな感じだったんですよ。けっこう、つい最近までそうだったかもなあ。作曲家の自己満足、難解を高尚と勘違いさせる詐欺的行為くらいにしか思ってなかったかもしれないなあ。
 でも、私も少しは大人になったのでしょうか。ここのところ何人かの作曲家の作品を聴いたり、それからたとえば武満徹の文章を読んだりして、だんだん意識が変わってきた。少なくとも、作曲家によって好き嫌いがわかるようになってきた。これってすごい進歩ですよね。
 で、シュトックハウゼンはけっこう聴ける方です。久々に「黄道十二宮」も聴きましたが、(それもハンス・マルティン・リンデのリコーダーで!こちら)なんとなくいい曲に思えましたよ。昔ほど眠くならないし、なんというか、メッセージが伝わってくるというか、言語がわかるというか。
V2n1a3e1_2 というわけで、今日の「マントラ」です。「マントラ」というからには、真言的な要素があるのかと言えば…正直どこが?という感じ。1966年に来日した時に何かにインスパイアされて作ったという説もあります。そうすると、つまりドイツ人シュトックハウゼン的日本仏教解釈ということになるんでしょうか。私はその辺にはツッコミを入れないことにしています。だって、自分も思いっきり同じこと、いやそれ以上の「勘違い」をしでかしてますからね。
 純粋に音楽として聴きますと、これはですね、たとえばキース・ジャレットのインプロヴィゼーションのようにも思えてくる。つまり、ジャズ的だとも言えるわけです。もちろん、時代的なこと、あるいはキースの仏教への関心などを考慮に入れれば、両者はそれほど遠くないとも言えますよね。
 楽器はリングモジュールド・ピアノ2台です。この録音では、一人マニュピュレーターが付いていますね。サウンド・エンジニアが必要なわけです。実際の音を聴くと、それほど前衛的ではない。案外ナチュラルな感じです。リングモジュレーションも軽めにかかっている。
 楽譜を見るとわかりますとおり、案外古典的な感じですよね。ちゃんと、五線譜におたまじゃくしで書かれている。それまでのシュトックハウゼンは、ジョン・ケージの影響を受け、不確定性を重視する作曲法に傾倒していましたが、この作品からは比較的古典的な作曲法に回帰し、いわゆる「フォルメル技法」を確立していきました。
 全体的には古典に帰りつつ、それでも生涯新たな挑戦を怠らなかったシュトックハウゼン。常に時代の先端をとんがって走り続けた彼は、実は多くのポピュラー・ミュージシャンを育てたとも言えます。プログレッシヴ・ロックやテクノ、そしてジャズの世界で、彼の影響を受けた音楽家は数知れません。彼の名を冠したバンドも存在します。
 彼の音楽が、と言うよりも、彼の存在自体がかっこよかったのかもしれません(カールハインツ・シュトックハウゼンという名前がかっこいいのかも…笑)。
 シュトックハウゼンは2007年の12月5日に亡くなりました。その日は奇しくも、彼が敬愛するモーツァルトの命日でした。

Mantra, Work No. 32
Yvar Emilian Mikhashoff (ピアノ)
Rosalind Bevan (ピアノ)
Ole B. Orsted (電子楽器)
 
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コメント

バッハの無伴奏ですが、シャコンヌをグスタフ・レオンハルトの奥さんマリー・レオンハルトの演奏で聴いて、すごく良かったです。凝った装飾などないのですが、力強い演奏でした。奏者によれば、シャコンヌはなによりもまず「踊り」なのだそうです。
そういえばインタヴューで、リュート奏者のポール・オデットもジミー・ヘンドリックスと比較されて、「骨に響くようなリズム」について語っていました。

フランスのラジオ番組で聴きました。

投稿: 龍川順 | 2008.12.06 10:37

龍川さん,どうもです。
レオンハルトの奥さん、地味にいいですよ。
最近の若者のヴァイオリンはどうも…。
まあ、あの曲で踊れっていうのは酷ですが、バロックは全てダンスですからね。
ジミヘンもたしかに独特のリズム感があります。
最近、最後はリズム感だと痛感してます。
美空ひばりみたいなリズム感を見て聞いてしまうと、もうコンプレックスの塊になっちゃいますね。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.12.06 12:22

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