浅草ジャズコンテスト (祝 金賞&浅草ジャズ賞受賞!)
我が校のジャズバンド部「ムーン・インレット・サウンズ・オーケストラ(MISO)」が、第28回浅草ジャズコンテストバンド部門で金賞と浅草ジャズ賞を受賞しました。おめでとう!一昨年、初出場の時と同じ成績です。長く重い伝統があり、プロへの登竜門とも言われるこのコンテストで、高校生がこのような成績を収めるというのは、これは本当にすごいことです。よく頑張った。本当に誇りに思います。
我が校のバンドは4時間に及ぼうかというコンテスト全体の大トリとしてステージに登場。演奏したのはカーンの名曲「Smoke Gets In Your Eyes(煙が目にしみる)」。現代的に複雑に編曲された難曲。
それにしても久々に緊張したなあ。もう最近は自分のコンサートでもそんなに緊張することがなくなったんですけど、生徒諸君の演奏が始まろうかという時は、もう心臓バクバク、手がブルブル。やはりコンテストならではの緊張感ですね。勝敗のある音楽の是非は別として、こういう緊張感もたまにはいいなと思いました。
コンテストは前半がボーカル部門。10名の一次審査通過者が自慢の歌を披露しました。全体的にレベルが高く、皆さんお上手だと感じましたが、結果的に私も投票した方がグランプリを獲りました。
審査員の方々のお話に共通していたのは、フェイクや装飾、ディナーミクなどに必然性が感じられるかという指摘だったように思います。これは、私も気になった点です。つまり、いかにもジャズ的な「雰囲気」を出すための発声法やリズムの崩しや節回しが、やたら耳についたのです。ある意味皆同じ。
これって、私たち古楽器奏者でも全く同じことが言えるんですね。それらしさはある程度誰でも出せる。しかし、それがテクニックに終わってしまっていることが多いんです。すなわち、こういうことです。例えばサッカーやバスケのフェイントなんかで考えてみてください。試合の中でなんの脈略もなくそういう技を出したとしましょう。それは、単なる個人技の披露でしかなく、無意味どころか、試合の流れを壊す可能性すらありますよね。演奏においても、そういうことがたくさんあるんです。
帰りの車の中で、今回のコンテストの審査委員長であられた原信夫さんも関わっている美空ひばりのジャズを聴きました。ひばりさんはもともとのメロディーをほとんど変えず歌っています。微妙なフェイクや、その他の装飾などは、それぞれの部分で美しく完璧であると同時に、全体としてもちゃんとバランスが取れていて、そして意味のあるものになっている。リズムも全体としての大きなリズム感を持っているので、聴き手はそれに乗って安心していられる。本当にうまいと、つくづく感じ入りました。
そのような狭視野的な解釈や演奏というのは、アマチュア(もちろん私も含めて)が陥る大きな落とし穴ですね。そういう意味では、後半のバンド部門にもある傾向があり、そして審査員の先生方がそこに厳しい評を加えていました。
そう、やはりこちらでもついついミクロなテクニックに走ってしまうバンドが多かったということです。ある意味それこそがアマチュアリズムであるとも言えるのかもしれませんけど、どうしても難しいことに挑戦して、それがちゃんとできるということを誇示したくなってしまうんですね。結果として、アンサンブルが甘くなり、すなわちメンバーそれぞれの自己満足になったり、楽曲の本来のメロディーがぞんざいに扱われたりするんです。
そういう意味で、究極の審査員評は、MISOに対する原信夫さんの言葉だったのではないでしょうか。生徒たちは本当に完璧に近い演奏をしました。だからこそ原さんはこのメッセージを熱く語ったのでしょう。会場の皆さんはお解りになったと思いますが、この言葉は決してMISOたけに送られたメッセージではありません。全てのコンテスト参加者、そして現代のジャズ・プレイヤー全てに送られた重い言葉でした。
『…今のアメリカっていうのはジャズがないんですよ。どういうことかというと、つまり頭でっかちになって…よく鳴ってます、バンドは。編曲もものすごく素晴らしいです。もう、びっくりするぐらいのいい演奏をします。何が欠けてるかというと、ジャズの精神がないんですね…ジャズ界とクラシック界と違うことは、アンサンブルがいいだけではないんです。精神が違うんですよね。ですから、このままいくと、クラシック界もジャズ界もおんなじになっちゃいます。クラシック界の人たちがジャズが好きだからやろうって言ったら、これはアンサンブルは最高ですよね。それとおんなじになっちゃいます。ジャズバンドは何が違うか。精神が違うんです。ですから、演奏の仕方にしても、譜面にないことがたくさんあるんです…譜面に書いてないところのジャズをやっていただきたいんです。それはどういうことかというと、今日はたくさんのお客様が来ています。まず胸に響く音楽なんです。ジャズはそういうものなんです。わあ、すごいなあ、テクがすごいなあ、いい音してるなあ、ではジャズではないんです…』
このあまりに重い言葉を引き出したウチの生徒たちの演奏は、やはり素晴らしかったのだと思います。今まで手放しで褒められることの多かった生徒たちは、ちょっとショックを受けていたように見えましたが、私は「ああ原信夫にここまで言わせたか」と思いましたよ。
原さんは世界中のジャズ・ミュージシャンたちに、このことを言いたかったのです。いや、この言葉はジャズに限らず、様々の音楽ジャンル、いやいや、音楽に限らないかもしれませんね。全ての芸術や芸能やスポーツに言えることなのかもしれません。あるいは教育や政治にも。本当に重い重いお言葉でした。
繰りかえしますが、そんな言葉を導き出した生徒たちは、そして顧問の先生は、本当に素晴らしい。私にとっても誇りです。ありがとう。おめでとう。お疲れさま。これからも頑張って、「胸に響く音楽」を皆さんに届けてください。
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