『食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字 〈上〉』 山田真哉 (光文社新書)
前書きにあるように1時間で読めてしまう本なので、単位時間あたりの単価はずいぶん高い本だと思いました(笑)。
あと、筆者の出世作『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の記事では、タイトルの勝利みたいなこと書きましたが、こちらはどうでしょうね。一瞬、いやかなりの時間タイトルの意味がつかみきれないのは、これはやはり戦略的なものなのでしょうか。そう、主語がわかりにくいんですよね。結論的には「客」なわけですけど、ちょっと文脈がないと無理ですよね、真意をつかむの。まあ普通に読んでしまうと「バイト」が主語だと思ってしまう。
これがまさに日本語の特徴ですけれど、「?」と思わせて手に取らせて読ませるという手法は、ちょっと詐欺的にも感じられます。
…と、そのへんもそれこそ計算済みなのかもしれませんね。つまり、この本では、そういう文学的、詐欺的、うそっぽい話がたくさん出てくるからです。つまり、数字のマジックというやつです。いかに我々が数字という言語にだまされ、振り回されているか。
ですから、内容的には以前読んだ『データの罠 世論はこうしてつくられる』や、『行動経済学 経済は「感情」で動いている』に近いものがありました。
つまり、これは数字リテラシーの本だということです。ま、極論してしまえば、経営も会計も経済も、みんな気分で動いている、あるいは気分を動かしてなんぼであるということで、そういう意味としては、これはまさに文学であるということでしょう。
数字はたしかに言語の一部としてとらえることもできます。しかし、筆者も語るように数字にはいわゆる言葉とは違った側面もありますね。そこに人は魅かれ、そして服するわけです。そう、私の「モノ・コト論」で言えば、不確実な「モノ」をですね、ある程度確実な「コト」もどきとして提示してくれのが数字なんです。本来捉えがたい「モノ」をあたかもそれらしく象って見せる。
ですから、私は数字のことをいつも神様だと思っています。実在しないけれども、概念としてはある。それもかなり普遍的な概念としてそこにあって、我々人間の些末な感情や事情にかかわらず、そこに厳然としてあるかのように振る舞う数字。これは神に似ていますね。
それが、人間の欲望と結託して悪神化したのが「カネ(マネー)」です…と私は考えています。実際の宗教でもそうですけれど、我々が「モノ(もののけ)」の恐怖から逃れるために作ったフィクション(コト)が、いつのまにか主人である人間よりも強くなってしまって、我々を振り回すようになってしまったんたですね。今の世界不況を見れば、その悪神の主人、いやその悪神のしもべたちの愚かさかよくわかります。
いつかも書いたとおり、資本主義経済や自由市場経済というのには、根本的な欠陥があると思います。それは人の心を堕落させるという点です。いかに人をだましてもうけるか。いかに人をだまして損させるか。いかに法律にひっかからないようにギリギリのワルをするか。あるいはそういうことをしている自分たちを客観的に観察しないようにするか。自分たちのやっていることがいかに善であると自己洗脳するか。特に、グローバル化が進んで相手の顔が見えないようになると、その傾向はどんどん進みます。
だから、私はいわゆる会計や、筆者の語る「数字がうまくなる」というものにも積極的に興味を持てないんですね。いや、今こういうシステムの中に生きているわけですから、そういうテクニックも身につけないと人さまにも迷惑をかける事態になるというのもわかります。でも、なんていうかなあ、自分が得するということは、誰かが損するということ、そういう単純な事実に目をつぶりたくはないんです。そりゃあ、わかりますよ、みんなが得をして幸せになるのが最終目標だという理想も。でも、人間だけでなく自然界全体のことを考えれば、やっぱりプラスマイナスゼロっていうのが、本当の会計学なんじゃないでしょうか。
タウリン1000mgとか、9割が泣いたとか、1980円とか、そういうことを恥ずかしげもなく言って、いやそれがギャグやお笑いだったらいいんですけど、大まじめな顔してまじめな人をだまそうするのは、あるいはそういう精神が称揚されるような世の中は、やっぱり変だと思うんですよね。
なんて偉そうなこと言ってますけど、実は私も仕事上そういうことばかりをしています(笑)。いわゆる演出による煽動や先導ですよ。損をさせるのではなく、得をさせるためと称してね。ですから、たとえばこの本なんかも、そういう演出の一つとして生徒にぜひ読ませたいとも思うのでした。ただ、難しいですねえ。だまされない方法を学ぶということは、だます方法を学ぶということにもなりますので…。
ま、プロレスみたいにお互いが上手にだましだまされて楽しければ、それは文化になるのかもしれませんけど、ガチのだまし合いはケンカや戦争の種にしかなりませんね。
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