『小曽根真のミュージック・ラボ オスカー・ピーターソン 至福のジャズを大解剖!』 (NHKハイビジョン特集)
まさに昨日の続き。小曽根真さんが語る「ジャズ」は、昨日の原信夫さんの語る「ジャズ」と全く同じでした。
いやあ、本当に素晴らしい番組でしたね。昨年残念ながら亡くなってしまった偉大なるジャズ・ピアニスト、オスカー・ピーターソン。彼を敬愛し、彼の真似を自身の音楽のベースとする小曽根真さんが、多くの実演(再現)を含めながら、オスカーの魅力と秘密に迫る番組でした。
昨日のこともありましたし、まあそれ以前に本当に興味深い内容でしたので、食い入るように観て聴いてしまいました。90分があっという間に過ぎてしまった。
私もオスカーの、あの独特のスウィング感、スピード感、明るさに魅了されてきた一人だったと思いますが、このように非常に分かりやすく、なおかつ適切に彼の音楽を解説していただきますと、まさに目からウロコと言いますか、そう、いろいろな意味で視覚と聴覚が結びついて、脳や体全体で納得できたという感じですね。テレビというメディアの素晴らしさ、そして小曽根さんの音楽家として、あるいは教育者としての技量をまざまざと見せつけられましたよ。NHKさんもGJだったと思います。
オスカーの神技的テクニック。まずは左手の秘密。訓練によって培われた驚異の高速ストライド奏法。私もさっそくなんちゃってでやってみましたが、1小節で上腕がつりました(笑)。まあ、あれを目隠しして再現しちゃう小曽根さんもすごい!
そして、右手。早弾きで「物語」を伝えるための、あの粒立ちの揃った音。速ければ速いほど、実は間が空いているという驚き。そして、独特のタッチから生まれる倍音の美しさ。深い!
オスカーの旧友であるオリバー・ジョーンズのインタビューも良かったなあ。「才能+強い決意」。それが天才なんですね。
小曽根さんと井上陽介さん、大坂昌彦さんによるトリオの実演も実に良かった。特に面白かったのは、「後ノリ・前ノリ」の実演。ああやってレイド・バックとオン・トップを並べて聴かせてもらう機会はそうそうありませんからね。まさに、昨日の原さんの話につながるところでもありました。それこそ楽譜に表現されない「ジャズ」の一端を感じるコーナーでした。クラシック的というかコンピューター的なジャストなタイミングがいかに味気ないものか、色合いのないものか。人間ってジャストな存在じゃないんですね。
ベーシストのウィット・ブラウンの話も興味深かったし、よくわかる話でした。特に彼が言った「ジェットストリーム」という言葉。これはありますよ。私もそういう経験あります。一番強く感じたのはヴィーラント・クイケンに通奏低音を弾いてもらった時でしょうかね。ものすごい気の流れが伝わって来て、こちらは緊張するどころか安心して弾ける。普段弾けないところまで弾けてしまう。
聴いている立場でもそうです。昨日も書いた美空ひばりの与える全体的な流れと安定感は、実はその「ジェットストリーム」から生まれるものです。正直これは努力以前のものかもしれません。天性の何かでしょうね。最近、そのジェットストリームの存在こそ、一流の音楽とそれ以外の違いであると痛感することが多いんです。
そして、番組後半で分析、解説されたオスカーの即興演奏、すなわち作曲の秘密。これも興味深い内容でしたね。もちろん番組の性質上、表面をなぞっただけでしたが、それでもオスカーがコンポーザーとしても非常に優れていたということが分かりました。私も再びなんちゃって「Misty」の冒頭部をやってみましたよ。リハーモナイズというのには、本当にその人のセンスが現れますからね。オスカーっぽくやってみても(最高音のメロディーに隣の音をぶつけるだけですが…笑)、私のは単なる騒音になってしまいます。
それにしても、2004年モントリオールでの復活コンサートの映像、たまりませんでしたね。本当に「胸に響く」音楽でした。技術的なことはどうでも良かった。オリバー・ジョーンズとの音による心の交流、それが映像からもしっかり伝わってきた。
小曽根さんも最終的に語っていましたね。「テクニック、技術だけではだめ。テクニックの奥にあるJoy。自分の音に惚れる、自分の感動してければいけない。オスカー・ピーターソンを弾いている時、幸せでしょうがない」。本当に昨日の原信夫さんの言葉といっしょですね。それが「ジャズ」であり、いや、音楽であり、感動を与える人間の営みなのです。
「無条件で人を幸せにする音楽」…小曽根さんはオスカーの音楽をそう評しました。人種や言語や国や宗教をも超えることができる、そして人々を幸せにできる「音楽」は本当に素晴らしい。こうして、それを共有することができ、また、ほんの少しではありますが、自分でも表現できることは幸せなことです。もうすぐ、自分のコンサートもありますので、この幸せな気持ちを素直に表現したいと思いました。
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