『数学ガール 上』 結城浩 (著),日坂水柯 (イラスト) (メディアファクトリー)
数学の先生にお借りしました。この前は化学の先生にこちらの萌え系を借りましたっけ。とうとう「萌え」は数学の牙城にまで迫ってきました。こっちは mathematical girls だ。
というか、もともと数学って思いっきり妄想世界ですし、ある種自分の理想のスタイルやデザインを追求する性質のものですから、案外私の定義する「萌え=をかし」観と近しい関係にあるんですよ。疑似的な永遠性を得ているわけですからね。
それで、たとえばペレリマンのような天才数学者はあっちの世界へ行ってしまった。究極の萌え感情は、ほとんど宗教と化しますので。
そう、「理系の人々」ではありませんが、実は不随意な「モノ」よりも、不変な「コト」を求める理系さんは、本来的にオタク傾向があるわけです。
一方、文系は「もののあはれ」に走っちゃうわけですね。それもまたある種のオタク傾向でありまして(国語のセンセイである私を見ればわかる)、結局すべての人間はオタクという極点に収束する…なんちゃって。
ま、それは半分冗談、半分本気としまして、この数学ガール。数学の先生曰く、数学の部分はなかなかしっかりしているとのこと。それも、専門の世界においては基本的なことばかりらしい。私にとっては初めて知ることが多く(もちろん解らないのがほとんどでしたが)けっこう楽しめました。
実はですねえ、高校数学でとんでもないコンプレックスを持ってしまった私は、ある時期までは完全に数学アレルギーになっていたんですけど、面白いもので、この本あたりから、その世界に興味を持つようになったんですよ。一種の憧れのようなものもあるんじゃないでしょうか。相変わらず数式などは全く理解できないのですが、なんというか、それを取り巻く人間たちの人間模様でしょうかね、数学という究極のフィクションが照らし出すリアルな人間像とでも言うのでしょうか、そういうものにとても興味を持つようになりました。
その後、「博士の愛した数式」あたりで、数学の美しさが文学や映画になったりしてブームになりました。なるほどそういう切り口からも数学の魅力を伝えることはできる。
で、このコミックはどうか。数学と青春…いったいどういう展開なのだろうか。結論から言いますと、一見この三角関係はですね、別に「数学」を介さなくても成り立つというか、それがスポーツであっても、アニメであっても、とにかく恋の媒介としては、まあなんでもいいわけですよ。そこに数学を持ってきたからちょっと新しい。けれども、これは数学である必然性はないな、と思ったのです。
しかし、なんとなくある瞬間、あっ、これは数学の不条理と残酷さでなければダメなのかも!と気づきました。
冒頭に出てくる「なぜ素数に1が含まれないか」という疑問に対して提示される、「素因数分解の一意性」。こういう定理や、その定理より前に存在している(存在せしめられている)公理というものの、恣意性やある意味での社会性やそれに伴う暴力性。これって案外美しいものじゃないなと(テトラちゃんも「そんな勝手な定義」と言っています)。
「一意性」は数学においてとっても重要なことらしいのですが、ま、ちょっとこじつけですけど、それって例えば「配偶者は1名に限る」というような法律につながるものですし、あるいはそれ以前に「恋愛の対象は特定の1名が望ましい」という不文律にもつながるように思います。
「定義は有用でなければならない」とありましたが、それはまさに社会的有用性ですよね。個人で勝手な定義を作るのは自由だが、それに全ての他者に対して有用性がないとダメだというわけです。
ですから、そんな、個人的にはかなり強引な足かせの中で、我々は明確な解答を求められ、そしてそのルールの中でその正しさを証明していかなければならない。そういう社会性が私たちに倫理を求めるのです。だから恋は難しくなり、文学の題材になっていく。
ある意味、数学というのは、宇宙規模での社会性です。少なくとも地球レベルではありますし、どうも宇宙でも通用しそうです。そんな厳しい公理や定理の中で、彼らの淡い恋の三角形(いや帯によると「3人が描く単位円の軌跡」)はどうなっていくんでしょうか(ちなみに数学の先生によりますと、単位円の軌跡はどうなるもクソもないそうですが…たしかにそうですね…笑)。
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