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2008.12.29

『完本 美空ひばり』 竹中労 (ちくま文庫)

4480420886 近すっかり私の音楽の師匠になっている美空ひばり。まったく今頃になってなんなんだ、と思う方もいらっしゃると思います。不思議なものですね。昔は何がいいのか全くわからなかった。それが40過ぎてからでしょうかね、突然わかったんです。これはとんでもない天才だと。
 私は御存知のとおり、ロックをやり、クラシックやバロックをやり、純邦楽やジャズもかじって、そしてちょっと前から昭和の歌謡曲をやりはじめて、そうして一つのゴールに到達したんですね。それが美空ひばりだった。全てのジャンルを超えて、いやそれぞれのジャンルの中でもことごとく最高だと言っていいでしょう。そして、彼女だけが持つ天賦の才能とは「リズム感」であると、確信するに至りました。
 もちろん、彼女の音程の正確さや、装飾技術の完璧さ、声質の調整の巧みさ、節回しの華麗さ、日本語の美しさも並大抵ではなく、まさに世界有数のレベルです。しかし、それらだけではない、ひばりの歌だけにあるあの独特の「ノリ」は、これはもうほとんど誰も真似できません。多くの歌手が彼女を目標に日々努力しています。しかし、どうしても何かが違う。上手なのにあのノリが出ない。もしかすると楽譜にすれば完璧にコピーしているのかもしれないけれど、どうしても近づかない何かがある。あるいは、コンピュータで分析して機械的に再現してもだめでしょう。これはどうしようもありません。
 このことは歌に限ったことではありません。あらゆる楽器奏者においても、彼女の生むストリームを再現できる人はいないと思います。もちろん私なんか話になりません。せいぜいヴァイオリンの演奏の時に、彼女の節回しをイメージするくらいです。
 と、こんな具合で、すっかり私の中の神になってしまった美空ひばり。ちょうど明日NHKのBS2で美空ひばりの特集番組をやるので、それに合わせてこの本を読んでみました。いやあ、熱いなあ。感動的だったなあ。すごい。
 もちろんひばりさんの人生のすさまじさ、歌への情熱、大衆芸術への誇りもすごかった。いわゆる文化人やゴシップ好きのマスコミとの対立、そしてあの小林旭との悪夢の結婚生活も痛々しいものがありました。それを語る彼女自身の言葉のなんと純粋なこと…涙なしには読めません。母親、父親、兄弟への愛…。
 しかし、ある意味それ以上に胸を打つのは、今や伝説のルポ・ライターとなった竹中労さんの異常なまでの「熱さ」でしょう。これは恋愛以上だとご自分でも書いています。神への信仰や畏怖にも近い。いや、もっとシンプルにこれは「思い入れ」でしょうね。最近ここまで思い入れた文章読んだことありませんよ。彼女へのはもちろん、彼女を支える人たちへの賛美、そして先ほども出てきた、彼女を脅かす存在への厳しい指弾。もう異様なほどの迫力です。
 竹中さんと言えば、私は「ビートルズレポート」でのまっすぐな熱さや、「たまの本」でのちょっと暴走気味な熱さの記憶があるんですけど、このひばり本は本当に病気と言っていいほどですね。いや、もちろんその気持ちよく解ります。当時私も竹中さんのような立場にあったら、そりゃあこうなりますよ。「お嬢と呼んで」なんて言われたらねえ…。
 さて、この本、非常に心に残る文章が多かったのですが、そうですねえ、今日はその冒頭と終わりの一節だけ紹介しましょうか。
 まずは冒頭のひばり自身の言葉から。これこそ世阿弥の言う「離見の見」でしょう。やはりこういう境地なんだ、芸とは。
 「歌います。すると、お客さまの心がピーンと伝わってくるんです。目をつぶっていても、隅のほう、大むこう、上手、下手、劇場(こや)のあらゆる場所から楽しい気分や悲しい気分が、はねかえってきます。それと一つになること、溶けこんでいくこと…。
 どういうふうにって、具体的に説明しろっていっても無理よ。そうねえ、網を打つでしょ。それをギューッと自分のほうにひっぱってくる。あの気分と似てるんじゃない?でも、そのとき、自分ってものは消えちゃうの。網のなかのお魚にね、自分もなっちゃわないとダメなのよ。むずかしいな。ともかくそんなふうなの」
 そして、最後の最後、世界の天才二人の邂逅のエピソードが…。あのハリー・ベラフォンテとひばりは会っていた!そして、ひばりはベラフォンテにせがまれ日本の唄を謡います。その時の様子は、竹中さん自身が作詞した「美空ひばり物語」という歌謡浪曲としても発表されています。YouTubeに天童よしみの歌うそれがありましたので、そちらでお聴きください。そして、もう一つ、その時歌った「唄入り観音経」もありましたので(これはレア映像ですね)、ぜひどうぞ。天才の面目躍如です。そりゃあハリーも…。

 「美空ひばり物語」

 「唄入り観音経」

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