『詩のボクシング14−燃えろ!声と言葉のファイターたち-』(NHK)
今年も楽しみにしていた「詩のボクシング全国大会」のテレビ放送。今年は1時間番組ということで、かなり内容が端折られ、多くの詩が割愛されていただけでなく、ゲストや審査員の言葉もほとんどなく、また、出場者の日常を紹介するコーナーなどもあまりに簡素になってしまって、正直残念な内容になってしまっていました。
これでは「詩のボクシング」のらしさが伝わらないなあ…まあ、考えてみれば実況も含めて、昨年までのはあくまで演出であって、生で聞いて見て感じる「詩のボクシング」とはまた別のものだったとも言えますが。
そういうわけでやや消化不良なワタクシであります。しかし、今年は山梨大会を初観戦したこともあり、また、夏には一昨年の全国チャンピオンである木村さんとも交流したりしたものですから、今までとちょっと違った視点で「詩のボクシング」自体をとらえることもできたように思います。
この競技の難しいところは、やはり「詩」の定義と「ボクシング」の形式でしょう。「詩」の定義については、昨年の記事に少し書きました。なんでもありの雰囲気の中にも、どうしても伝統的な詩的世界が要求されるわけで、そのへんのさじ加減が実に難しそうに見えます。
本来「詩」は音声言語として発せられて初めて生命を持つものであり、そういう点では音楽に近いものがあります。いちおう音楽をやっているものとして、この「詩のボクシング」を見て聞いていますと、これがいわゆるシンガーソングライターたちの発表会のような印象も受けますし、昔から大作曲家たちが通ってきた即興合戦のような様相にも感じられます。
いずれにせよ、本人の創作力とプレゼン力が同時に試されることになり、さらに基本お客さんに多く認められる一般性や社会性も必要ですし、なにしろ一回勝負ですから、作品の傾向や深さという面においても、その一回性に耐えられるだけの(あるいは複数回性をあえて避けた、反復による理解の進行という考えを捨てた)作品を提示しなければならない、そういう困難さもありますね。
形式ということで言えば、今度は格闘技の専門家(?)として言わせていただければですね、たとえば「ボクシング」と銘打っておきながら、同時的な打ち合いや、攻防におけるかけひきがほとんど見られません。ああいう形式であれば、あえてリングの上で闘わなくてもいいという考えも成立してしまいますね。格闘技は音楽で言えばセッションでもあり、二人の魂が響き合ってより大きな世界がそこに現出するという性質のものであるべきです。また、格闘技の中でも、ボクシングはより「精神力」が重視され、いわゆる名勝負が生まれるのも、そこのレベルの高さにかかっているとも言えます。その点、「詩のボクシング」はちょっと微妙な感じがしないでもない。
でも、私はなんとなく「詩のボクシング」が好きですし、共感できるんですよ。それは、やはり「詩」の世界に身体性を取り戻させたというか、独り歩きしていた「言葉」を「体」の方に再び引き戻したというか、そこにとっても大きな意味があると思うからなんですね。そのためにあえて格闘技にしたわけでしょう。単なるコンペティションではなくて。先ほど書いたように、実際的にはいろいろな矛盾をはらんでいますが、そうしてある意味暴力的(?)に連れて来ないと、どうも妙な「詩的世界」が出来上がってしまっていましたから、日本文学界にはね。
と、そういう観点で今回の皆さんの作品とパフォーマンスを拝見しますと、そうですねえ、どうも皆さん行儀がよくなりすぎているというか、そうした格闘技的な緊迫感というか、やるかやられるか的な意識というか、それをファイティング・スピリットと言うんでしょうが、そういうもののレベルが低かったような気がしました。そういう意味では、決してひいき目ではなくて、一昨年の全国大会のレベルの高さを再認識させられたような気がしましたね。
いや、私は偉そうなことを言いつつ、自分ではどうやって言葉と自分自身と、そして対戦者とお客さんと審査員と闘えばいいのかよくわかりませんよ。だいいち詩も作れませんし、きっと大したパフォーマンスも出来ないでしょう。得意な音楽でさえ、即興合戦になれば、中身のなさを露呈して終わるに違いありません。だから本当にお客さん的な身勝手な意見をこうして肉体を離れて語ることくらいしかできません。でも、いつの時代も、受け手というのはこんなふうに身勝手なものであり、それをして理屈やテクニックを超えて動かししめるのが表現者、芸術家の仕事だと思います。
消化不良の中で唯一、全てを見、聞くことができた決勝戦。ちょっとそういう相互格闘の感に乏しく、互いの単なる発表の場になってしまっていたように感じました。すなわちそこに選手の体がなかったということです。難しいですね。あらためて「詩」の、「言葉」の原点を考えさせてはもらえましたが。
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