『私の源氏物語 ~千年語り継がれたロマン~』 (NHK ETV特集)
日曜日に録画してあったものを観ました。
結論から言いますと、この前、『源氏物語 一千年の旅~2500枚の源氏絵の謎~』の記事の最後に書いた通り、「天皇家でもこんなんだし、いいか、我々小市民も」と「人間の心は千年やそこらじゃ変わらない」ってことじゃないでしょうかね。
いろいろな方のいろいろな語りがあって、田辺聖子さんが言うように大いに盛り上がる物語であると。なにしろ、皇室スキャンダルですから。だから、最近は悪く言われる、あの時代の源氏不敬論も、実はごもっともな語りなんですよね。あんまり美化、神聖化しない方がいい。
その点、林真理子さんの語りにはちょっとうなずかれるところがありました。まず、「王子様願望」ですね。私がよく言っている、女性の得意な「ゆかし→をかし」的感性を刺激するんですよね。で、最後は「もののあはれ」に行き着く。林さんも紹介してましたが、「更級日記」はその流れの典型です。
あと、面白かったのは、六条御息所から見た夕顔。なるほど、夕顔はいい女だがイヤな女です。男には好かれるけど、女には思いっきり嫌われると。男からするといい女だけど、女からすると最悪な女だと。林さん曰く、「本命がいるのに、すぐ他の男になびく。なんだか思わせぶりで男を惹きつけるし」。なかなかの「悪女」であると。だから、案外まっすぐな六条御息所は夕顔を許せなかった。よ〜くわかります。
あと、そうですねえ、面白い語り手だったのは、清水義範さんでしょうか。彼が言う、「地の文が敬語で書かれているのが珍しくすごい」というのは、なるほど面白い解釈です。
そう言えば、私の無手勝流源氏物語も敬語を正確に訳すことを心がけていました。そして、全体に谷崎のように「です・ます体」で書いています。やっぱりあの本文の雰囲気、宮中の女房たちの「物語…うわさ話」の雰囲気を出すには、当時の「話し言葉」の雰囲気を出さねばなりません。これは絶対です。
ところで、今回はこの物語の一つのクライマックスである「源氏と藤壷の密通」にこだわった内容でした。いろいろな訳、あるいはマンガなどが紹介されてました。まあ、そうですね。あそこは一番興味あるところでしょう、誰しもが。
面白かったのは、それらを朗読している高橋美鈴アナです。いや、面白がっちゃいけないんでしょうけど、なにしろ内容が内容のシーンですから、なんとなくね。特にケータイ小説版や、2ちゃんねる版の朗読はいけてました(ドキドキ)。
ところで、この問題の逢瀬のシーン、私は次のように訳しています。
王命婦はどのような一計を案じたのでしょうか、非常な無理をして藤壷の宮とお逢い申している間さえ、現実とは思われないのは、なんとも辛いことではありませんか。宮も、思いもしなかったあの夜の出来事をお思い出しになること、それだけでも一生の悩みであるのに、せめてそれだけで終わりにしなければと深く決心されていたにもかかわらず、再びこのような逢瀬を遂げるにいたってしまう、そんな自分自身がとても情けなく感じられるのでした。源氏は、宮が普通でないご様子でありながら、離れたくないほどにかわいらしく、しかし一方では他人行儀なところもあり、奥ゆかしく気品のあるご態度などが、やはり普通の人とは似ていらっしゃらないのを、
「どうして、この方には欠点というものが少しもお混じりにならなかったのだろう」
と、ふと辛いほどまでにお思いになるのでした。いったいこんな束の間の逢瀬で、どのようなことを申し上げきれるというのでしょうか。二人は鞍馬の山にでも泊まりたいというような様子でしたが、あいにくの短夜で、とても思い通りにはなりません。それは、逢わないでいるよりもかえって辛い逢瀬でありました。
うむ、まあまあですな。悪くないと思います(笑)。でも、この前も書きましたけれど、ホントは全部訳し直したいんです。私の「モノ・コト論」に従ってね。実はここの部分にも、重要な「もの」が出てくるんです。
宮も、あさましかりしを思し出づるだに、世とともの御もの思ひなるを、さてだにやみなむと深う思したるに、いと憂くて、いみじき御気色なるものから…
この部分の「もの思ひ」を私も、その他の偉い人たちもせいぜい「悩み」程度に訳してるんですよね。いつも言うように「もの」は「外部・不随意」を表す言葉ですから、「もの思ひ」は単純に「悩み」じゃだめなんですよ。思い通りにならないことを思うんです。特にここでの「世」は男女の仲を直接指すものと考えられますので、一生の悩みなんていう軽いものではなく、男女の間のすれ違いや矛盾、嫉妬心や妄想、その他いろいろな「思ひ」がこめられているわけです。さて、なんと訳そうか。
それから、引用文の最後、「ものから」という表現もまた、そういう「もの」が持つニュアンスをちゃんと訳さないといけない。それも今勉強中です。いずれ、改訂版を出します(いつのことになるやら)。
とにかく、この前書いたように、死ぬまでに全文訳をしたいですね。そうすればさすがに何か得るものがあるでしょう。
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