『トンデモ日本史の真相』 原田実 (文芸社)
と学会的偽史学講義
これは面白い本。いい本です。
皆さん御存知のように、私はけっこうトンデモ世界側の人間ですよね。このブログでもそういうネタをたくさん披露してきました。だいいち、ライフワークにしているものが、なんだかんだ言って、この本で俎に上がっている「富士宮下文書」や「出口王仁三郎」に関係することだったりしますからね。私の存在自体、というか、ここに住んでいる理由自体が揺らいでしまう可能性すらありそうです。
では、私にとってこの本こそがトンデモかというと、そんなことはなく、私は案外著者原田実さんと同じような立場であるとも言えるんです。私はこの本で取り上げられている様々なトンデモ説を、正直愛しています。それがたとえフィクションであっても、いくらトンデモであっても、噴飯ものであっても、心から愛して止まないのであります。
そう、つまり、そういう物語を作り出し、そこに命をかけ(生活をかけ)、いつのまにか、自分のついたウソが自分の中では真実になり、トンデモ世界の住人になってしまった人間たちが愛おしいんですね。自分にもそういう要素がありながら、しかし、どこかで原田さんのように冷静な自分がいて、ブレーキをかけているからでしょうかね。多少の憧れのようなものすらあるんです。木村鷹太郎とかね(笑)。
世の天才と言われる人たちって、みんなそういう意味であっちの世界に行っちゃってる人が多いじゃないですか。結局、自分はそこまでバカになりきれないんでしょうかね。
原田さんは面白い経歴の持ち主です。なにしろ、最初はかの八幡書店の社員であり、そして古田武彦に師事していたわけですから。まあ、トンデモの最前線を行っていたわけですよ。それが、今やと学会の重鎮になって、こんな本まで出している。素晴らしい振幅の人生です。
この本は、そんな経歴による原田さんの力が遺憾なく発揮されている名著だと思いますよ。まず、とりあげられているトンデモ説の質と量がともに素晴らしい。たとえば、こんな感じです。
信長暗殺の黒幕はカトリック教会?/与那国島沖に海底遺跡がある?/豊臣秀吉は美濃墨俣に一夜城を築いた?/南太平洋のバヌアツ島から縄文土器が出た?/ペトログラフには古代シュメール文字が刻まれている?/源義経はチンギスハンになった?/アインシュタインは日本が世界の盟主になると予言した?/明治天皇すり替えの陰謀を明かす写真がある?/日本の原爆開発を止めたのは昭和天皇?/日本に世界最古・最大のピラミッドがある?/松尾芭蕉は隠密だった?/明智光秀は天海僧正になった?/武田信玄は騎馬民族だった?/聖徳太子はいなかった?/聖徳太子が使っていた地球儀がある?/秦の徐福が日本に弥生文化を伝えた?/北緯34度32分は祭祀遺跡がならぶ「太陽の道」だった?/安倍晴明は美貌の貴公子だった?/ホツマツタエ(秀真伝)は記紀の原本だった?/かぐや姫は中国からやってきた?/出口王仁三郎は日本の敗戦を予言した?/失われたアークは四国剣山にある?他
これらをですね、まず「巷説」として、トンデモ本風にそれらしく紹介します。そこだけ読んだ人は、それこそそのトンデモワールドにはまりかねません。そして後半、「真相」として、「巷説」を冷静に批判、否定していきます。
やはり、あっちとこっち、トンデモ的世界とと学会的世界の両方を知り尽くした原田さんならではの演出ですよね。ある意味、あっちの世界に対して(特に武田崇元氏と古田武彦氏に対して?)かなりの嫌悪感と復讐心(?)を持っているんでしょう。この本全体から、ちょっとそういう臭いもしてきますよ。かと言って、原理主義的な感じはしないんだよなあ。そのあたりの絶妙な立ち位置がいいなあって思います。
そう。私のトンデモに対する愛情って、プロレスに対するそれとおんなじなんですよ。フィクションだからといって、もちろん排除したくないし、野暮な理屈で否定したくない。そこに実は人間の「真実」や「真理」が読み取れるからです。すべて「事実」しか認めないというのは、なんとも味気ない生き方だと思うんですよね。いつも言うように「コトよりモノ」っていうことです。でも、フィクション自身は人間の脳内の「コト」です。その重層的、複層的な世の中の構造が面白いと、いつも思っているんです。
この本は、そういう意味でも、いい教科書になりそうです。いや、まずはメディア・リテラシーの教科書として教室で使えそうですね。こういう愛すべきトンデモ以上に、憎むべきウソが世の中には蔓延してますんで。こういう、ツッコミどころ満載なウソは可愛く美しいとさえ思えますよ。
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