『「水」戦争の世紀』 モード・バーロウ, トニー・クラーク (集英社新書)
ガソリンがだいぶ安くなりました。今日スタンドへ行ったら125円でした。いったい何だったのでしょう。
しかし考えようによっては、ガソリンは安い液体だとも言えます。原油を掘り出して、タンカーではるばる運び、そして精製して、各地に運搬して…ということ、それからあれだけのエネルギーを生み出すということを考えると安い商品だとも言えないでしょうか。
というのは、私の住む鳴沢村の水が1ℓ350円以上で売られているからです。350円ですよ。はっきり言ってひどい商売です。でも、とんでもなく売れてるらしい。いったい何なのでしょう。
たしかにおいしいですよ。圧倒的に。ウチの水道も基本同じ水ですから、そのおいしさはたしかに世界に誇るべきものだというのはよくわかります。山梨県の環境科学研究所の調査でも、この村、それもウチのあたりの地下水が最も高濃度のバナジウムを含んでいることはわかっています。でも、それをそんなメチャクチャな値段で売っていいんでしょうか。
先ほど書きましたように、原油は相当の手間がかかっています。しかし、水は基本機械で汲み上げるだけ。最近では加熱処理さえしない業者が増えています。いや、それを売りにしている。殺菌消毒なんてほとんどしません。する必要ありませんから。検査する程度です。つまり原材料費はほとんどタダ。水としての付加価値を上げるのは富士山が勝手にやってくれる。溶岩フィルターによってミネラルが豊富に供給される。それをただペットボトルに入れて、それで1リットル350円で売るんですから、それは法外です。ちなみにエネルギーは0キロカロリーです(笑)。
今、ここ富士北麓地方には水工場が乱立していまして、まったくひどい状況になっております。そこら中で地下水を汲み上げています。毎日大型トラックがそれらを積んで日本中に富士山の水を運んでいます。いや、いいんですよ。おいしい富士山の水を皆さんに飲んでいただくのは。でも、さすがにもうちょっと安くしたらどうでしょう。まさに水商売、ヤクザ商売ですよ。
…ということが、実は世界中で起きているんです。ここまでひどいとは知りませんでした。大学で水に関する勉強をしたいという生徒と一緒に、今いろいろと調べております。何冊かの「水戦争」に関する本を買って読んでいるところです。そのうちの一冊がこれです。まあびっくりしました。
20世紀は石油の取り合いの世紀でした。21世紀は水の取り合いです。ウォーター・ビジネス。まさに「水戦争」。石油は枯渇したら代替エネルギーを考えればいいでしょうけど、水は、これは生命の基本ですからね、何も代替になるものがありません。それを一部のヤクザな業者が牛耳ってしまい、独占して破格な値段で売り始めたら、いったい世界はどうなってしまうのでしょう。というか、もうその利権争いは始まっています。この本にもかなり具体的にそのヤクザたちの名前が挙げられています。
つまり、水が投資の対象になっているということですね。発展途上国での水道の民営化によって、先進国の投資家たちが、全ての生命の根本である水をカネづるにしようと考えているんです。つまり、それは私たちの命をカネで売買するということです。なんとも恐ろしいことです。
今や「水」で有名になった我が村ではありますが、数十年前まではとんでもない水事情の村でした。なにしろ、(おそらく全国で唯一だと思いますが)河川も湖沼も一つもない溶岩台地の村なんですから。井戸を掘っても全く水が出ない。溶岩下の伏流水は100メートル以上も深いところを流れているからです。とにかく水の確保は大変だった。天水を集めたり、裏山に横井戸を掘って少量の湧水を確保したり。一人一日あたり数リットルしか使えなかったと言います。今やアフリカでも1日10リットルくらいは使えるんですけどね。
で、井戸の掘削技術が進み、水道が敷設されて、今私たちは富士山の恵みをたっぷりいただけるようになりました。感謝すべきことです。1日平均一人200リットル以上の水をじゃんじゃん使っています。えっと、1リットル350円だから、1日7万円使っている計算か。家族と猫で30万円くらいですかね(笑)。まあ、それは冗談としても、いや冗談ではないな、実際そういう価格で村の外では売られているんですから。
あとそれぞれのミネラルウォーターの会社のホームページですね、ひどいのは。まあブランド名も笑っちゃうものばかりですが、とにかくひどく安っぽいイメージ戦略です。ある会社なんか、ウチの水は富士山の山頂に降った雪が400年かかって浸透してきたものです、なんて言ってる(笑)。噴飯ものです。だいいち、バナジウムというミネラルの効用は確認されていません。摂取しすぎは危険である可能性すら指摘されています。健康にいいとか、秘めたパワーとか書いてありますが、いったい何なんでしょうか。
繰りかえしますが、実際に世界一おいしい水ですから、皆さんに飲んでいただくのは実に結構なことです。しかし、それをむやみやたらにカネ稼ぎに使ってほしくない。水バブルになってほしくない。実際売れているわけで、見た目の上では均衡価格になっている、それだけの価値があると言えるのかもしれません。でも、やっぱり異常です。それが普通になってしまうと、世界で起きつつある「水戦争」はさらに激化して、そして弱き者が被害者になるんです。
道の駅「富士吉田」でも「なるさわ」でも、無料で水が汲めます。あるいはウチに来ていただければ、いくらでもおいしい水が飲めますよ(笑)。日本は基本どこでもおいしく安全な水が飲めます。皆さんの地元にもきっと、おいしい源泉があるはずです。まずは、身近なところの「おいしい水」に注目してみてはいかがでしょう。そして、たまには「水」について思いを深め、今世界で起きつつあるとんでもない戦争が対岸の火事ではないことを考えてもいいのではないでしょうか。もちろん日本人とし生まれた幸せを味わいながら。水を大切に…命を大切に…なんか珍しくベタな標語になっちゃったな。
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コメント
今日は~、「富士山蘊恥庵庵主」様、白州の森のペンネームでブログやホームページを作っている66歳のオジンです。
冨士山麓のバナジユーム水、私も通りがかりに飲んだことあります。山梨県では白州と同様に地下水採取量の多いところですよね。
私が20年前に建てたログの近くの白州蒸留所が、10年ほど前から儲かるとペットボトル水の工場を造って、今度は更に新工場を敷地内に造って、工場から離れた飛び地の、私の井戸のすぐ下で、大採取量の井戸を掘削しようとしています。ことの経過を綴っていますので、一度お立寄り頂ければあり難いのですが。
投稿: 白州の森 | 2008.11.15 22:22
白州の森さん、コメントありがとうございました。
サイトの方拝見しました。
たいへんなことになりましたね。
非常に詳細な記述で、勉強になりましたし、白州の森さんのご心配やご苦労がよ〜く解りました。
また報告よろしくお願いします。
私もこれを機に水についていろいろ考えてみます。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.11.16 23:01