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2008.11.15

『地球の水が危ない』 高橋裕 (岩波新書)

4004308275_2 れはいい本ですね。私たちが当たり前のように思っていること、あるいはそれ以前に当たり前すぎて意識にすらならないこと。それらが実は当たり前でないということを教えてくれます。
 こと水に限らず、そういう「当たり前」「常識」というものが、実はいかに「有難い」のか。それを知ること、そういう視点を持つというのは実に大切です。自分にとっての常識が誰かにとっての非常識である可能性を意識することは、このグローバル化が叫ばれる現代において、ある意味身につけなければならない技術であるとも言えます。
 先日『「水」戦争の世紀』について書きましたが、それよりもさらに基本的な水問題について書かれているのがこの本です。
 そうですね、私の意識しなかった自分の常識、世界の非常識、あるいはその逆、自分の非常識、世界の常識を書いておきましょうか。

 ・水不足と水汚染で世界では年間400万人、8秒に一人が亡くなっている。
 ・世界の半分の人は屋内にトイレを持たない。
 ・地下水に自然のヒ素が含まれる地域がある。
 ・国際河川、国際湖がない日本は非常に特殊な国。
 ・キリスト教とイスラム教、ユダヤ教の争いの種は実は水?
 ・日本は大量の水を輸入している(食糧輸入および輸入木材による間接水の輸入)。
 ・ミネラル・ウォーターの激増は、海外旅行者増が原因?
 ・信玄堤は理想の治水哲学。
 ・水をいかに無駄遣いしないかが文明のバロメーター。

 そう言えば、少し前のNHKクローズアップ現代で、バングラデシュの井戸のヒ素被害の話が取り上げられていました。日本の若者たちがボランティアでバングラデシュその他の地域で井戸を掘ってあげた。現地の人々は冷たくおいしい水が間断なく出る様子に感激し、日本人に感謝する。その井戸にはそれを掘った若者たちの名前が刻まれている…と、そこまではなかなかの美談であります。しかし、なんとその地域の地中深くには天然のヒ素が多量に埋蔵されていたのでした。まさに寝た子を起してしまった状況です。深刻な健康被害が多数発生してしまいました。善意が救いがたい悲劇を生んでしまったのです。
 残念ですが、それはやはり軽率な行動だったと言えましょう。生物の命にとってあまりに大切な水なだけに、念には念を入れて、慎重にことを進めるべきでした。
 また、水という必需品の飢餓状況を、ビジネスに結びつけてしまうのもどうかと思いますね。たしかに、安全でおいしい水を手に入れられない人が世界中に12億人もいるのも事実です。しかし、それを商売にしてしまうのは、それはもう命の売買にほかなりません。食糧とは訳が違います。
 それにしても、日本がこんなに大量の水を輸入していると知りませんでした。たしかに、輸入している野菜などは、栽培するのに現地の水を大量に使っていますね。木材もそうです。私たちは外国の水で自分たちの食糧を作らせているわけです。私にはそういう発想は全くありませんでした。
 あと、国際河川がないということ。これも案外意識されない。これはもしかすると日本が平和な歴史を持つ理由かもしれませんね。たしかに、こんな国はそうそうありません。もちろんスケールを小さくしてですね、日本の中の国と国、今で言えば県と県、あるいは市と村などの水争いはたくさんありましたよ。ウチの近所の市でも、昭和の初めまでは、本当に争いが絶えませんでした。明治、大正あたりの新聞を見ると、しょっちゅう水を巡って大げんかをしています。
 いずれにしても、今日も私たちは一人数百リットルの水を使っています。「湯水のように使う」という慣用句がああいう意味で使われるのは、それこそ日本だけではないでしょうか。世界の常識なら逆の意味になるのかもしれませんね。
 前も書いたように、我が村は数十年前まで一人1日9リットルしか水を使えなかったそうです。いちおう今、世界標準では50リットルで最低限の生活だということですから、本当に苦しい生活を強いられていたんですね。しかし、これも昔話としては片づけられないのです。今、こうして使っている水、あるいは素敵なネーミングを施されて全国にガソリン以上の価格で売られているあの水たちも、電気の力で汲み上げられているのです。もし、何がの事情で電気が使えなくなったら…ま、単純に富士山が噴火して停電になったら、もう水は出ないのです。
 実は富士山には猿がいません。水場がないので住めないということです。もし、水道が止まったら、私たちも猿のようにここから出て行かなければないないのでしょうね。

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コメント

前略 薀恥庵御亭主 様
「水」は本当に大切ですね。
愚僧も「水」は絶対安全だと
信じきっております。笑
しかし・・・「毒素」が入っていても
無味無臭では・・・
絶対 気付きませんね。
水質検査はとても重要です。
愚僧も当り前に日々ダラダラ
無事に「日暮し」を
続けておりますが・・・・
この事は とっても
「有難い」貴重な毎日ですね。
今日一日を本当に大切にせねば
なりません。
愚僧も病院にて
体質検査をして
気付きました。
毒素の強い根性が
棲みついておりました。笑
合唱おじさん   拝

投稿: 合唱おじさん | 2008.11.17 10:24

合唱おじさん様、お久しぶりです。
そうですね。水も大切ですが、まずは自身の体が資本です。
いずれにしても、「当り前」ほどこわいものはありませんね。
まさにお釈迦さまはそこを戒めておられるのでしょう。
普通の一日の有難さに感謝して生きるのは、私たちには案外難しいようです。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.11.17 16:57

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