『新しい文化「フィギュア」の出現 ~プラモデルから美少女へ~』 (NHK ETV特集)
夜NHKで放映されていた「フィギュア」観ましたか?いや、スケートの方じゃありません。その裏番組でやっていた「ETV特集」です。萌え系お人形のお話です(笑)。
ま、フィギュア・スケートも、まさに「フィギュア」が評価されるわけであって、両者は無関係ではありません。ずっと前に書きましたけど、浅田真央ちゃんにはしっかりと萌え属性があると思いますし。ですから、あのフィギュア・スケートって純粋なスポーツではありませんよね。芸術点とかあるし。プロレスみたいなものですよ。
接地面の抵抗を限りなく小さくして、それで非現実的な時間と空間を作り出すという意味では、アニメやゲームなどの世界に近いものがあるかもしれません。見目麗しい女性(男性)が、ああいうファッションで空中を3回転半も回らないですよ、現実世界では。
それはいいとして、こっちのフィギュアの番組です。最近フィギュアがかなり変化した(笑)岡田斗司夫センセイが案内役となって、カリスマフィギュア造型師ボーメさんの仕事ぶりの紹介を中心に、フィギュアの魅力に迫ります。これが非常に面白く勉強になりました。なにしろ、私フィギュアを一つも持ってないし、あんまり詳しくないので、こういう番組で耳学問というか目学問するしかない。
で、結論から言いますと、予想外で驚いたことと、予想通りだったことがありました。予想外だったのは、なんといってもボーメさんの仕事ぶり。無知な私は、フィギュア作りがこんなにも手仕事で、まさにクラフトマンシップに溢れた作業だとは知りませんでした。今までも、海洋堂の仕事は何度かテレビで紹介されていて、なんとなくは見ていましたけれど、ボーメさんの仕事はちょっと次元が違うなという感じ。これはまさに彫刻家ですね。もう、単純に外見的には芸術家でしょう。
2次元を3次元化するというのは、一見、昨日の記事、モツレクを弦楽四重奏に編曲するというのと、逆の作業のように感じられますね。ほとんど省略はなく、付け加えていくわけですから。しかし、すでに完成されたと思われるものを、違った意味で再構成し、違った価値と魅力を創造するという意味では、同じとも言えるかもしれません。
また、そのモデルがリアルな人間というよりは、想像上のキャラクターであるという点でも、宗教芸術に近いものがあるかもしれませんね。
いずれにしても、ボーメさんの到達している境地は、これはもう間違いなく芸術家と称されてよいものです。あの思い入れと卓越した技術(両者はたぶん同じものなのでしょうが)は、単なる職人を超えています。それもまた、ある種の宗教心のなせるワザではないでしょうか。まさに現代のミケランジェロ。感動しました。
で、リアル職人でもなく、リアル芸術家でもない(村上隆さんと布施英利さんは微妙かな)ゲストの皆さんのお言葉は、だいたい予想通りの内容でした。私が想像していた通りの展開。ま、私も典型的なそちら側人間ですから、当然と言えば当然か。
いちおうゲストの皆さんの解釈を紹介します。まずは芸大の美術解剖学の先生であられる布施英利さん。「網膜に映るのは2次元なので、それを3次元と認識するのは普通に人間の営みである」と。なるほど。ある意味我々がリアルと感じている立体感や遠近感というものはフィクションであるということですな。そうすると、私の提唱する独眼流立体視の術や独眼流美術鑑賞もあながち間違ってないということですか。
荒俣宏さん。「小さいものを作るのが日本の文化の原点。たとえば幕府の禁制のおかげでそういう文化が育った。制約が芸術の契機」。これはよくわかりますね。枕草子の「何も何も小さきものはみなうつくし」って、まさに「をかし=萌え」の原点ですよね。日本は禁制の前からどうもそういうミクロ指向が強かったように思えます。さらに、荒俣さんに対する岡田さんの言葉「こだわりの競争」っていうのもあったなあ。これはオタクの原点でしょう。いい言葉です。合理主義とは一線を画す、ある種の平和主義ですね。
村上隆さん。「ボーメさんは伝説のサーファー。私はそれを撮る写真家。サーファーは尊敬されるけど、写真家は伝えるだけ」。それにしては、村上さんもずいぶんと持ち上げられ、そして稼いでますな。写真家というより、丘サーファー(死語)じゃないかな。それでモテモテとか。アーティストって本質的にそういう胡散臭さがあってよろしい(笑)。
山田五郎さん。「本来アート(芸術・美術)とクラフト(工芸)は別れていなかった。近代博物館がそれを分けた。美術は時代を超えた普遍性を持たねばならなくなった。ポップ・アートの出現がその境界を再び曖昧にした。アートに行くかクラフトに行くかは個人の性格」。これは実に納得。岡田さん曰く、「何が素晴らしいか言葉で説明しなくちゃならない」。それもあるよなあ。それが面倒な人、苦手な人もいるよなあ。
詩人佐々木幹郎さん。彼の語る「ひとかた」「よりしろ」については、私もこちらに少し書きました。岡田さんの「恋愛対象になるのではなく、恋愛感情と美的センスをこめる」という解釈もまあよくわかります。「萌え」の本質問題ですね。「時間の川に流す」「記憶の層に埋没する」…これもまた、私の「萌え」論と重なる部分があります。
そういう意味では文化人類学者の上田紀行さんの話も、なんだか私の話とずいぶんと重なってました。「永遠の一瞬を切り取る」「一瞬の中に永遠を見る」…これこそ「萌え=をかし」ですね。ワタクシ的に言うと「時間を微分して疑似的な永遠性を得る」というやつです。
というわけで、とっても勉強になりましたが…私が最も萌えたのは海洋堂の猫ちゃんでしたね。
あっ、あと気になったのは、なんでもフィギュアになるかというと、そうでもないということです。たとえばBLの世界とかフィギュア化されないでしょう。そういう非フィギュアジャンルを考えると、フィギュアの本質が解ってくるかもしれませんね。
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