『SONGS〜美輪明宏 第二夜』 (NHK)
神降臨。昨日の記事でも触れた「昭和の偉人」の一人。たとえばこの人一人をとっても、いかに昭和がすごかったかが分かります。今、こんな人いません。いや、人じゃないかも。少なくとも私たちと同じ種ではない。美輪さん、もちろん平成である現在もご健在ご活躍でありますが、やはり彼は昭和を色濃く反映した歌手であると思います。彼の周辺にいた人物名を挙げただけで、いかに昭和が濃かったか分かりますね。
彼もまた、戦争を、それも原爆という人類史上特別な体験をして、人間以上の人間になりました。ここ数日書いてきた、人間を昇華させるのは「とんでもない体験」であり、ある種の宗教的ステージに至るたには、我々の望まないものを経なければならないといことです。「命」や「愛」や「霊」に目覚めるためには、それをおびやかす体験をしなければならないということです。かえすがえすも苦しく辛いことですね。
さて、「命」をテーマにした第一夜に続き、今日のSONGSは「愛」をテーマにしていました。曲目は次の3曲。
ミロール
ボン・ヴォワヤージュ
愛の讃歌
本職であるシャンソンの世界を堪能させていただきました。シャンソン、カンツォーネ、チャント、カント、カンタータ…みな語源は一つです。日本で言えばまさに「歌」でしょう。本来の和歌の世界です。日本の和歌も、当初は即興による歌唱でした。言葉自体が歌い出すとでも言いましょうか。私たちが歌詞に節をつけて歌うのではなく、日本語自体が歌い出すんですね。
もともと、日本語はピッチ・アクセントですので、いわゆる節を持っています。リズム(ビート)よりもメロディーだったんです。ですから、私は日本語こそ「歌」にふさわしい言葉だと、最近再認識しまして、そういう日本語が歌い出すというような芸、たとえば美空ひばりや、平井澄子なんかに興味を持っているんです。
その点、美輪さんはまさに言葉の神です…いや、言葉自体が主体で、彼はメディアにすぎないのかもしれない。彼は優れた媒介者、ミーディアムなのかもしれない。その先にある「モノ」、言葉という「コト」もまたメディアであるとすれば、やはりその先にある「何か」を伝えるために、彼は歌っているのかもしれません。
その何かこそが「命」であり「愛」であり「霊」であるのでしょう。番組のインタビューにもありましたが、「無償の愛」、これは実に難しい。たしかに恋愛とひと括りにしてしまいすが、「恋」と「愛」はあまりに違います。「恋」は「乞ひ・請ひ」であって(…ちなみに私は上代特殊仮名遣否定論者です)、相手に願うことです。「恋」というのは、「好きな人が自分のことを好きになってほしい」という感情のことです。ジョン・レノンが的確に歌っているとおりです(LOVEを「恋」と訳すか「愛」と訳すか、その両方なのか、微妙ですが)。
「無償の愛」は乞いません。だから無償です。それは口で言うのは簡単ですし、それを標榜して行動する普通の人たちもたくさんいます(特に宗教関係者)。しかし、実態はそうなっていないことが多い。自己満足であったり、「情けは人の為ならず」を期待していたり。だから私はそんな大それたこと最初から言いません(笑)。
でも、たぶん美輪さんは本当の「無償の愛」を実践しているのでしょう。少なくとも彼の魂はそうに違いありません。なぜなら、彼の魂が人間世界の向こう側にあるそれに共鳴しているからです。彼は媒介者として、それを表現します。そうした崇高な何かから選ばれた特別な「人間」として。
その崇高な何かを神と呼ぶなら、彼こそが神の子と言えるでしょう。おそらくイエスもまた、そういうミーディアムであったのです。
彼の歌は、いわゆる音楽以前のものですから、音程とかそういう瑣末なロゴスを軽く飛び越えています。彼の歌をコンピュータで楽譜化することはほとんど不可能でしょう。コンピュータには魂はありませんから、彼の歌に、言葉に、その先の何かに共鳴することはできません。共鳴できる私たち普通の人間もまた、ある意味選ばれた存在なのですね。その幸せに気づくことこそが、この歌を聴く感動そのものであるのでしょう。
セルジュ染井さんのピアノ伴奏、お見事です。ご自身もまたシャンソン歌手であられるからでしょうか、歌とその伴奏の本質をよくご存知です。通奏低音奏者にとって佳きお手本となるでしょう。
私は数年前美輪さんの歌を生で聴きました。こちらの記事に書いてあります。やはり生はテレビの数万倍すごい。ぜひ、皆さんも一度生で「命」と「愛」と「霊」…すなわち「神」を感じてみてください。
ps YouTubeに別の番組での「愛の讃歌」がありました。よろしかったらどうぞ。
愛の讃歌
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