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2008.10.15

「クラウド・コンピューティング」という物語

5mincloud_01 んざんネット社会や貨幣経済というサイバー空間を敵視していながら、結局それに依存し、そしてそれに人一倍興味を持っているワタクシであります。
 はっきり申して、自分の仕事はITからかけ離れたものですので、たとえば新しい流行語である「クラウド・コンピューティング」なんて、まあほとんど関係ない話です。あくまで生身の、現前の生き物との闘いが仕事ですので。
 ただ、世界の動向としては大変興味があるわけです。ある意味、未来を占いつつ若者を正しい方向に導かねばならない仕事ですからね。
 そんなこともあって、ほぼ毎日NHKの「クローズアップ現代」は観ているのであります。逆に言えば、あの学校というある種のサイバー空間(?)につかっていると、時代に取り残されるというか、有形文化財化するというか、とにかくとっても危険で戯画的なことになってしまうので注意しています。
 で、今日の「クローズアップ現代」は「クラウド・コンピューティング」がテーマでした。これは面白かった。いや、その技術的なことはどうでもいいんです。そんなの昔から言われていたことですし、web-APIとかASPとかが普通になっている現代においては、当然次なる方向として、データの収納もOSも「あちら側」に依存するようになる、すなわち自宅にいわゆるコンピュータは必要なくなるというのは、誰しもが想像することだからです。
 私はMac使いなんですけど、アップル社の戦略というか、最近の動き方を見ていると、明らかにその方向に動いているというのが感じられますね。早めに手を打っているという感じです。ですから、いわゆるMac使いは、その思い入れが強ければ強いほど、あるいは昔のMacを知っていれば知っているほど、なんとなく淋しいし、欲求不満が拭えないんだと思います。昔の恋人がなんとなくつれなくなってるっていうか。なにしろ、スティーブ・ジョブスは、自宅のコンピュータをなくそうと考えているんですからね。つまり、Macから撤退しようとしているんです。
 いや、もしかすると、クラウド(雲)の上に巨大なMacを構築して、我々クラウド(地上の民)にそのおこぼれを給わすつもりかもしれません。実際Googleと組んで、そういうことをしようと考えているようにも感じますね。
 このような、まるで時代に逆行するような中央集権的、あるいは封建的な権力体制が、ある意味ではすでに我々を支配しているかもしれません。そう、ケータイがそうです。そのシステムは我々にとっては雲の上です。ま、ウチみたいにソフトバンクの権力が及ばない辺境の地では、わざわざ王様の家来が出張してきてリアルな機械を置いていきましたけど(これです…笑)。
 さて、私がこの「雲」に興味があるのは、自分の物語論に結びつけているからです。つまり、雲の上の出来事がそのまま物語だということです。私たちにとってつかみどころがなく、そして目に見えない「モノ」に、私たちがコントロールされている。私たちは自分たちの欲望を満たすべく「コト化」を推進すればするほど、実は「モノ」世界に回帰してしまうというパラドックスです。
 これは非常に面白いし、世界の本質を表していると思います。一番分かりやすい比喩は、科学の進歩ですね。突き詰めれば突き詰めるほど謎も増えてくるし、人間としての限界点も見えてくる。いや、もっと身近な感覚で言えば、ほんとに素粒子ってあるの?という疑問とかね。なんだか、私にとっては量子論の世界なんて、全て絵本の中の物語にしか思えません。
 私の「物語」の定義はまだ一つに集約されていないんですけど、まあ概要を言えば、「モノ」という未知で不随意な自己の外部を「カタル」…すなわち固める、形にするということです。内部に取り込むわけです。そういうことを他者に促すのが語る立場からの「物語」ですし、そうして自己の知りたい欲求を満たすメディアが、受け手にとっての「物語」です。
 そうすると、たとえば超現代的、すなわち未来的な「クラウド・コンピューティング」なんていうのは、まさに両義的に「物語」なわけですね。というか、そのシステム自体が古代的な神話に類似していると思うんです。まあ、神と人間の関係ってことですよ。
 で、ちょっとリアルな話をしてしまうと、今、世界ではいくつかの神による覇権争奪戦が行われているわけです。信者獲得洗脳戦とでも言いましょうか。あなたはどこの信者になりますか?Apple・Google教か、Amazon教か、それとも…まあいずれにしても、唯一神にはならないだろうな。世界史に照らし合わせてみても。
 どうせなら日本みたいに八百万の神が混在してる方がいいかもしれません。つまり、あれってどこにでも神様がいるわけじゃないですか。もちろん自宅にも。ある意味ユビキタスだし、中央集権的じゃない。中央集権的だと、やっぱり怖いですよね。それがご乱心になったり、あるいはテロの対象になったりして、一気にシステムが崩壊する可能性がある。八百万式だと一部に多少不具合があっても、隣のデバイス(神社とか)を使えばよかったり、だいいち敵からすると中枢がよく分からんから攻撃もしにくいし。
 ああ、なるほど。やっぱりそういう日本的システムっていいですね。ある意味最もクラウドかもしれない。群衆という雲の粒子にあらゆる価値が分散している。これって、案外安定的な物語なのかもしれませんね。
 そんな理屈抜きにしても、自宅に愛するMacがなくなるというのは哀しいですね。いじってカスタマイズして使い倒して、という愛情表現ができなくなるのは淋しすぎますよ。雲のクラウド・コンピューティング反対!群衆のクラウド・コンピューティング賛成!ってことかな(笑)。

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コメント

山口センセイ!!!!!!!!!!!
15年位前の生徒です。
月曜の1時間目はピアノひいてました。
たまたま、マッハペリカンを検索したら、先生のブログがヒットしたんです。
相変わらずなオタクっぷりには脱帽です。
いやー、お元気ですか?
私の事分からないかもですが、びっくりしすぎて、とりあえずここにコメントしてみました。
だって、記載されてるアドレスにはメールおくれなかったんだもん。

投稿: 渡辺薫 | 2008.10.17 02:49

あららら、薫ぢゃないか!
忘れるわけないだろ!
史上まれに見るぶっとんだ女だったからな(笑)
誰かの結婚式以来だね。
こんなところで会うとはなあ。
ネット社会というのは不思議なものだ。
相変わらずなオタクっぷり…とは失礼な!
はっきり言って数倍パワーアップしてるぜ(笑)。
まあ、ヒマな時にはここをのぞいてくれ。
マッペリも解散しちゃったし、オレは剃髪しちゃったし、
時は確実に流れているけど、楽しいことには変わりないね。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.10.17 04:12

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