「対称性の破れ」と生命力
リアル「理系の人々」。今日のNHKクローズアップ現代は、このたびノーベル物理学賞を受賞した3人のうち、日本在住のお二人を招いての対談。これがなんとも面白かった。
まず、いつもの失礼をお赦し下さい。
最近家族でアニメ版初代「天才バカボン」を観てるんですけど、なんていうかなあ、超一流の学者さんたちって、みんなバカ田大学のセンセイたちみたいですよね(笑)。なんかキャラが浮世離れしている。
いつかも藤原正彦さんのことをそんなふうに書きましたっけ。鈴木孝夫大明神もかなりぶっとんでましたなあ、そういえば。
まあ、だいたい大学のセンセイなんてのは皆さん浮世離れしていて当然というか、浮世離れしてるから大学のセンセイやってるっていうか。もちろんたまにまっとうな人間もいらっしゃいますが、たいがい素晴らしくキャラが立っている。爆笑問題のニッポンの教養とか観てても、それでだいたい笑っちゃう。
で、今回もなかなか皆さんいい味を出してますね。いやあ、やっぱり天才バカボンって真理だよなあ。今朝のニュースでインタビューに応じていたノーベル化学賞の下村脩さんもそうでしたけど、この番組でのお二人、特に益川敏英さんの日本語はわけわからなくて面白かった。
これはですね、単なる「老人力」じゃないですよ。絶対何かあります。言語って社会的なものです。で、彼らなんか社会との接点である論文は英語と数式で書きますからね。浮き世の日本語とはいつのまにか縁遠くなっちゃうんじゃないでしょうか(笑)。その点、小林誠さんは冷静に言葉を選んでいてけっこう普通でした。
さて、そんな話はいいとして、南部陽一郎さんの提唱した「対称性の破れ」。これを結果として証明したのが、このお二人の受賞のきっかけとなった「6元クォーク模型」の「小林・益川理論」と言えます。クォークの話にまでなると詳しいことはよく分かりませんが、まあとにかく、粒子と反粒子の数が不均衡であって、それによって、我々の世界(宇宙)がある、あるいは質量があるっていうことですよね。
それを聞いていて思ったんですけど、この益川さんと小林さんって、まさに対照的なお二人でして、つまり、どっちがどっちか分かりませんが、とにかく粒子と反粒子みたいな感じですよね。そして、お二人が完全に対称であったら、おそらくその才能やキャラは完全に打ち消し合って(光になっちゃって)、何も残らなかったかもしれません。
おそらく、お二人はとってもいいペアであったのですが、微妙に対称性が破れていたから、こうした偉業が残ったんでしょうね。ばっと見る限り、益川さんがちょっと出っ張ってるっていうか、勇み足気味ですね。すなわち粒子。
でも、ある分野やあるキャラやある才能においては、目には見えにくいけれども小林さんの方が抜きん出ていたんでしょう。まあ、そういうふうに、数式では表されない微妙で複雑な非対称が組み合わさって、こういう重みのある結果が残ったわけです。なんか、お二人が「対称性の破れ」を体現しているようで、実に面白かった。
こういう、対称性の破れや均衡の崩れこそが一つのダイナミズムになる、というのは、たとえば音楽など、いろいろな分野に見られることですね。全てにバランスがよく、安定し、調和しているということは、ある意味「死」を意味します。意外な不均衡や、意外な出会いによって、我々や世の中は生命力を帯びているわけです。
また私の「モノ・コト論」になってしまいますが、安定して変化しない「コト」よりも、無常で転変する「モノ」の方が生命の本質であると、私は考えています。つまり、昨日の話の続きから言いますと、実は理系の人々は「死」の研究をしているんです。文系は「生」。こんな乱暴な区分けをすると、それぞれから非難を浴びそうですけど、実はちょっと当たってると思いますよ。
だから、今回の「小林・益川理論」は、理論になって証明された時点で「死」にました。もちろんその「死」は負のイメージの「死」ではありません。目的とするのが「死」なのですから、それはめでたいことです。しかし、今度はその「死体」が残した遺産から新たな生命が生まれる。また別の生命体と結合したり融合したりして、新たな非対称を生んでいく。
過去と現在と未来の関係というのは、全てそういう「モノ」と「コト」、「生」と「死」の循環によって成り立っているのでした。
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コメント
昼のワイド番組で、受賞者の奥さんたちを紹介するコーナーがありましたが、益川夫妻はまさに漫才のようでしたよ。奥さんのツッコミがきついきつい。まあ、あのキャラならツッコミ甲斐もあるというものです。
投稿: 貧乏伯爵 | 2008.10.10 09:11
伯爵さま、おはようございます。
ああ、それ観たかったなあ(笑)。
まさに天才バカボンですね。
紙一重というか、戯画的というか…。
こちら側とあちら側、どちらが正常なんでしょうね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.10.11 06:31