« 『映画監督 押井守 妄想を形にする ~新作密着ドキュメント~』 (NHKハイビジョン特集) | トップページ | 『Japan Knowledge & 日国オンライン』 »

2008.10.29

レミオロメン 『風のクロマ』

61putxqq0pl_sl500_aa240_ うやく出ました。でも、なんとなくあっという間だったような気もします。この2年半を振り返ってみますと、あまりに濃いというか…。私自身も大きな人生の転機を体験しました。いろいろなご縁に恵まれ、たとえばこのレミオロメン一つとっても、ありがたいことにずいぶんと身近に感じられるようになりました。あり得ないことです。各方面において予想外の展開がたくさんあって、ある意味で自分へのこだわりが消えたというか、やっぱり自分は誰かたくさんの人たちに生かされているんだなと、今さらながら痛感した次第です。
 レミオロメンの3人も、もちろん私のような小人とはスケールが違うと思いますけれど、自分たちでは処理しきれないほどの縁を背負って、喜び、苦しみ、人を動かし、人に振り回され、大きな大きな変化を経験したことと思います。彼らは若いので、きっとそれを「成長」と呼んでいいのでしょう。
 「風のクロマ」…そんな彼らの「成長」のエネルギーが感じられるアルバムでした。昨日の押井守さんではありませんが、「大人」になるということには、非常に難しい意味があります。そこに至るまでには、当然苦しみもあります。第二…いや第三の誕生にかかわる「生みの苦しみ」ですね。
 2年半前の「HORIZON」の記事を自分で改めて読んでみますと、なるほどあのあたりが彼らの成長痛のピークというような気もしますね。なんとなく空元気というか、今となってみると、あの突き抜けた明るさや地平の先へ渡る視線というものは、足下が見えない現実の裏返しであったような気もします。
 その後、私も涙してしまった「アイランド」では、彼らは溺れかかりながらも、ある発見をします。それこそ藁にもすがるようにたどりついた島が、実は自分たち自身であったと。溺れかけ、流されかけていたけれど、そんな状況こそが実は自己の存在の本質であって、ただ自分たちが今どこにいるのか知ればいいのだと。考えてみれば、大海において自分の立ち位置なんていうものは、なんの意味もないものです。もしかすると、自分という島を海流が巡っているのかもしれない。そんな相対的で、また相互依存的な世の中の関係を、もちろんそんな言葉や理屈ではないけれども、彼らは実感したんじゃないでしょうか。
 私はそれを知るのに40年以上かかってしまいましたが、彼らは20代でそれを体験した。これはすごいことですね。私は彼らに感謝しますよ。考えてみれば、そんな彼らの姿から学んで、私も今の境地に至ることができたような気がするからです。おこがましい言い方ですが、彼らとともに歩んだ2年半だったのかもしれません…。
 そういう実感をもってこのアルバムを聴きますと、いろいろな部分で妙な懐かしささえ感じるのでした。アルバムの3分の2が既発表曲であるということはもちろん、もともと日本のこうしたシングル先行式の音楽産業のあり方に疑問と不快感を持ち続けてきた私ですが、なんとなく今回のレミオのアルバムはこれでいいような気がしました。こういう時間の共有の記憶としての音楽のあり方もありかなと。記憶をとどめておく「アルバム」として。彼らもそういう意識でこのアルバムを作ったのかもしれません。
 いつもなら、音楽的なことをいろいろと書きますが、今回はやめておきます。そういう表面的なことはどうでもいいような気がするからです。ただ一言書くなら、シンプルなバンドサウンドが案外よく聞こえてきたということでしょうか。
 この2年半の間、彼らがアルバムの制作よりもライヴを大切にしてきたのは、やはり彼らなりに原点に帰るという意味があったのだと思います。もちろんそれは音楽の原点でもあります。今年私は、山梨県民文化ホール静岡市民文化会館山中湖と、3回ライヴを聴きにいきました。それぞれ私にとっても思い入れ深い場所です。そういう中で、彼らがライヴ・バンドとして成長してきたのも、私なりに感じてきました。レコーディングは、結局そうしたライヴな音楽体験のコピーにすぎないわけですから、それこそリアルタイムでの本当の体験を追体験する記録としても、私にとってはこのアルバムは大きな意味のあるものです。シングルもまた、こういう全体の中にあって今までと違ったメッセージを送ってくる。新曲(?)も、まるで彼らが目の前で演奏しているようなアレンジが施されていて好感を持ちました。ある意味意外だったかも。コバタケさんもいろいろ学習したようです(笑)。
 なんとなくふっと肩の力が抜けて安心する自分がいます。聴き込むのはこれから。歌詞の世界もしっかり味わって、またこれからも彼らとともに地道に毎日を歩んでいこうと思っています。

Amazon 風のクロマ

不二草紙に戻る

|

« 『映画監督 押井守 妄想を形にする ~新作密着ドキュメント~』 (NHKハイビジョン特集) | トップページ | 『Japan Knowledge & 日国オンライン』 »

音楽」カテゴリの記事

コメント

同感です!(←最近の啓介くんのお気に入りフレーズ。
取材が多すぎて面倒になってるみたいで
どの音楽雑誌のコメントよりも沁みました。
お知り合いになって共に応援させて頂いてきた、
約2年を振り返りつつ、記事を読み返しては涙しております(かなりキモい)

HORIZONのまま行くようであれば
もういいかな、と思ったこともありました。
しかしアイランドが出た瞬間から苦悩、葛藤し続ける彼らが
気になりすぎて今日まで来てしまった感が。
苦悩萌?
そんなに苦しまなくてもいいよ、と思いながらも
苦悩しててほしいみたいな・・・
マヂメにレミオとレミオを通じて出会った皆様に
「生きる」本質を教えてもらっています。
今こうしていられることに感謝。

投稿: くぅた | 2008.10.30 22:45

くぅたさん、おはようございます。
苦悩萌え…笑
それってありですね。
日本文化の根底にありますよ。
でも、そういうところを通って彼らの詩も音楽も本当に深まったと思います。
あとはいつも言ってるように、聴く側がそこについていけるかということでしょう。
才能ある人たちは凡人の数歩先を行きますから。
それにしても、本当に「出会いは世界を変える一陣の風」ですね。
全てに感謝です。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.10.31 09:32

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: レミオロメン 『風のクロマ』:

« 『映画監督 押井守 妄想を形にする ~新作密着ドキュメント~』 (NHKハイビジョン特集) | トップページ | 『Japan Knowledge & 日国オンライン』 »