『死因不明社会』 海堂尊 (講談社ブルーバックス)
今日も一昨日、昨日の続きでしょうか。タイミングよく、NHKクローズアップ現代でも今日この話題がとりあげられていました。
知り合いに、東京都の監察医をしている方や、地方都市で検視をしているお医者さんの方がいらしたり、教え子に葬儀屋に勤めるのがいたり、それこそ「おくりびと」をやってるのもいたりして、死にまつわる隠れた実態を聞く機会が多い私です。その実態というのは、本当にここには書けないような内容ばかりです。
もちろんその原因は彼らにあるのではなく、日本のシステムと、それに起因する絶対的な人手不足にあるのは明らかです。最近のニュースにあった、緊急を要する妊産婦の受け入れ拒否の問題と同様、誰かを責めればすむという問題ではありません。構造的欠陥です。
この本でも、とにかくそういう実情が糾弾されています。そして医師でもあり、ベストセラー「チーム・バチスタの栄光」の作者でもあるこの本の筆者は、オートプシー・イメージング(Ai…死亡時画像診断)の導入を強く主張します。
なぜ、日本ではこれほど「死」がいいかげんに扱われているのでしょう。これは実に難しい問題です。単純なようで複雑、複雑なようで単純な問題です。
日本では古来「死」を忌むべきものだとしてきました。古文など読んでいると、「死ぬ」という忌み言葉に対する様々な言い換えに出会います。それだけでも異様なほどの忌み具合ですね。我々の日常でも、子どもの頃、お葬式をやっている家の前を通る時親指を隠したりしましたよね。
結局、我々日本人は、「死」を直視せずに来た部分があると思うんです。そして、死に関する言葉が形式化、フィクション化していくのと同様、葬儀の形もずいぶんと形式化、フィクション化しています。以前、NHKの「cool JAPAN」で「葬儀」がとりあげられていました。外国人からすると日本のお葬式やその周辺の一連の流れは、かなり不思議なものに見えるようでした。
ある意味そうして、現実的な悲しみや辛さから逃れようとしているわけですね。公的な形式を忙しくこなしていく中で、私的な感情から隔離される。そうして究極の社会的フィクションに守られて、「死」が感情ではなく概念化されていく。悲しみを感じている暇がない、とはよく言われることですね。まあ、今までもよく指摘されてきたとおりだと思います。
これはこれで日本の知恵です。しかし、これでは「死」を直視しない、あるいはそれと鏡像関係にある「生」をも直視しないということにもなりかねません。というか、実際そうなっています。簡単に言えば、日本人は「死」も「生」も諦めてしまうという、かなり思い切った技を身につけてしまったんですね。
死んで「仏」や「神」になるという発想こそ、ある意味究極のフィクションです。その結果、その仏様や神様の体を切り刻む「解剖」が拒否されることにもなります。
こうした文化的なこと、我が国独特の知恵が、現代の「死」をも我々の生活や実感から遠ざけしめ、その結果、死因が究明されず犯罪が隠蔽されたり、感染症の発見の遅れにつながったりしているわけです。
ですが、単純に欧米のような考え方や文化にしようとか、北欧のように全ての遺体を解剖せよとか、なかなか言えません。いや、言うのは簡単ですが、それによって失うものもあるということを忘れてはいけません。
こういう根深い文化的なものを変えていくには、やっぱり教育しかないでしょうね。いきなり制度を変えてもダメですよ。裁判員制度とかもそう。まず数十年の準備期間が必要なんです。消費税とか年金とかもそう。だいたい教育自体がいつも「いきなり」ですからね。日本の政治家はそういう長期的な政策というのが苦手ですし、国民も目先のことにとらわれがちです。
とにかく、こういう「生」や「死」に関することについて、我々はもっと真剣に取り組まねばなりませんね。もちろん私もです。
ところで、この本、最終的にはとってもいい本だったと思うんですが、ブルーバックスとしては破格の形で書かれていて、最初ちょっと面食らいました。普通のブルーバックスを期待していたからでしょうか、慣れるまで私はあまりいい気持ちがしませんでしたね。
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コメント
ほんと、その通りですね。。
先日の妊婦さんの件も、病院やお医者さん達はみんなギリギリの中でベストを尽くしているんだと思います。
だけど、もちろん、亡くなった妊婦さんや遺族の方に仕方なかったなんて言える訳はなく。。。
ご主人の会見、もって行き場のない悲しみがすごく切なかったです。
監察医制度も、後継者をつくることはもちろん、まずは啓蒙が必要なのかもしれないですね。
投稿: 紗耶香 | 2008.10.28 13:19
どうも。
紗耶香も法医学やったら?
クローズアップ現代でやってたけど、千葉大の法医学教室、一人1年で40体解剖するんだって。
忙しすぎてちゃんとできないって愚痴ってたね。
法医学に限らす、どうしちゃったんだろうね、ニッポンの医療。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.10.28 21:33