『ビジュアル版 対訳武士道』 新渡戸稲造 奈良本辰也 (三笠書房)
新渡戸稲造博士と武士道に学ぶ会
昨日の続き…とも言えましょうか。ある意味殺人も一つの倫理観になりうるということです。
この本は、ある大学を受験する生徒のために買いました。その大学を受けるにはこの本は必読書です。試験で英語の小論文を書かねばならないのですが、この本はいろいろと使えます。もちろん、新渡戸博士のこなれた英語を引用させていただくという意味もあります。
いろいろある「新渡戸武士道」本の中で、生徒のためにあえてこれを選んだのにはもちろん理由があります。
まず、ビジュアル的でとっつきやすい。私もこういうのじゃないと、途中でリタイアしてしまいます。あと「抄訳」であること。分量が半分以下になっていて、リタイアを防ぐ効果が絶大です。私は全部読んだことがないので、どういう基準で抜き出しているか知りませんが、たぶん大事なところはちゃんと押さえてあるだろうから、初心者にはこれでいいんじゃないかと思います。あと、英語学習的には、本文と対訳が見開きになっているというのがいい。解説もわかりやすく、高校生の教科書としては最高でしょう。
さて、新渡戸の武士道については、以前こちらに少し書きました。その後この本でその一部を読みまして、まあそれなりに面白かったわけですが、やはり基本的な感想はあの頃と変りませんね。これが本当の武士道なのか?というのもありますし、キリスト教との関係の不自然さも拭えません。
それでも、あえて「武士道」という言葉を抜きにして考えれば、やはり名著だとも言えますね。Bushido という別の言葉だと思えばいい。外国人向けの日本解説書としては、たしかによく出来ています。
私たち現代日本人が失ってしまった古き良きニッポン。ま、それは美化されたニッポンでもあるわけですし、そこからあの戦争へ短絡していったのも事実ですから、それなりに注意して付き合わなければならない。
あっそうだ、前に「葉隠」についても書いたな。こちらです。「武士道というは死ぬ事と見付たり」ではなくて、「忍ぶ恋」そして「衆道」がテーマだというお話し。「葉隠」も本文を全部読んでないや。
もう一つついでに。その葉隠を素直に読みすぎてしまった(?)三島由紀夫のヌード写真集「薔薇刑」が来月復刻されます。もちろん撮影は土方巽・生誕80年記念イベントでお会いした細江英公さん。その細江さんを私は撮影したわけですね。我ながらすごいぞ(笑)。
さて、話を戻しましょう。殺人も倫理になりうるかということ。これは実に難しい問題なんですけど、以前古武術に詳しい友人から教えてもらったことによると、どうもなりうるような気がします。最も究極の状態、自らの存在を賭しての他者との関わり合いの中に、ある種の精神性が生まれるのは当然と言えば当然です。
本来の職業人としての武士道は、やはり命あっての物種であって、ある意味どんな手段であっても(卑怯であっても)とにかく生き残らなければならない、そのための方法論であったとも言えます。それは主君のため家族のためお国のためである以前に、自分のためでありました。少しひねくれた言い方をすれば、人の命を奪うという本能的罪悪感(および卑怯な手段を使うという倫理的罪悪感)に対するフィクショナルなロジックが必要だったんですよね。それがないとやってられない。イスラム教原理主義テロリストといっしょです。日本では宗教は原理主義になりにくい(日蓮宗とかは別として…)ので、別の形での論理が必要だったんでしょう。いろんな人がいろんな「武士道」を試みているようです。
で、我々が知っている、あるいは新渡戸が少し(だいぶ?)美化&国際化してしまった「武士道」は、江戸時代に形骸化したものをベースにしたものです。その江戸時代に発達した「武士道」の形骸化は仕方ありませんね。なにしろ、本来の基盤が失われてしまっているから。そうして、肉体性よりも精神性の方だけ残ってしまって、それが純粋なウソとして培養されてしまったという感じです。ですから、ヨーロッパやイスラムの形骸化、システム化した宗教の形に似て見えるんですね。
そのフィクションが、日本でも、また世界のいろいろなところでも、再び極端な実戦に結びついていくのは、実に面白いことです(…不謹慎ですが)。頭の中の「コト」が肥大すると、それに「モノ」たる肉体が反応して、自ら破壊行動に出るということでしょうか。考えてみたいと思っています。
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