『爆笑問題のニッポンの教養 「愛の政治学入門」~政治学 姜尚中」』(NHK)
あいかわらず政治の舞台はドンチャンやってるようですね。なんのための政治なのか、誰のための政治なのか、よく分からん状態です。私自身不謹慎にも、政治は演劇だ、みたいなことばかり書いてきました。それには一つ諦めみたいな気持ちも含まれているわけですが、それにしても、こういう姿勢の国民が増えれば増えるほど、ますます政治は本来の機能を果たさなくなってくるんでしょうね。
昨日放送された爆問学問の録画を観ました。東大の姜尚中教授の語る政治学は案外単純。人と人が言葉で交わりあうのがその本質であると語ります。
そのとおりでしょう。人が集まって社会ができて、それでいろいろな価値観や感情や利害が交錯するようになる。そのコーディネイトが本来の政治の役目だと思います。
今はどうでしょう。私の感覚からしますと、経済のための政治になってしまっている。たしかにカネがなければ人は荒みますし、言葉以前に暴力で食べ物を得ようとするものです。しかし、現代のようにある程度我々の生命の保証がなされている時には、本人の生命の危険というよりは、やはり不公平感が怒りにつながります。ですから、今国民が怒っていることや、政治家が叫んでいること、そしてニュースもほとんどカネの不公平の話じゃないですか。金持ちも貧乏人もみんな今よりカネがほしいと思っているわけですから、それはそうなります。
資本主義市場経済を採用しているかぎり、それは不公平をベースとしたシステムですから、その怒りや悩みは絶対になくなりませんよ。じゃあ、共産主義や社会主義ならいいかというと、それもまた本質的に不公平の原理をはらんでいますから、やっぱりダメです。
不公平感は怒りや嫉妬や憎しみを生み、それが暴力につながります。さらにそれが戦争になったりしますね。昔は食べ物という実質的なものを巡っての戦いでしたが、今は人間が作り出したカネを巡っての戦いがほとんどです。実質的なものは、自然の節理に従って変化しますから、ある意味人知を超えた部分があって、それで神に祈ったりする、いわゆる「まつりごと」を機能させる必要がありました。それが昔の政治でしたね。
でも、今は実質のない幻想の悪魔を巡っての戦いだからどうしようもない。全部人のせいにできる、というか人のせいにしたくなる。そうすると怒りなどは収まりようがありません。相手を消すしかなくなります。それが殺人や戦争です。
ですからね、私は、政治家は国民がカネだけに振り回されないようにするのが仕事だと思うんですよ。怒りや嫉妬や憎しみを小さくするのが、現代の政治の役割だと思うんです。神のご機嫌うかがいをする時代ではありません。本当はそれが一番いいのかもしれませんが、今は仕方ありません、人の心に巣くう悪魔を鎮めるのが先決になります。
あと、やっぱり、情報化社会の弊害。不公平感や嫉妬というのは、知るから湧き上がるんです。隣の青い芝生や赤い花が見えるから余計な気持ちがわくんでしょ。昔は地方に行けばみんな都のことなんか知りませんでした。知ったとしても、それはほとんど物語の世界でして、あっちの世界の話でした。それは憧れや夢というプラスの作用はあったかもしれませんが、妙な嫉妬を起こすようなものではなかったと思いますよ。
ネット社会、ウェブ時代になって、他人様の脳ミソの中や、生活の様子をのぞき見るのが、はたしていいことばかりなのか。情報開示、情報共有が本当に素晴らしいことなのか、もう一度考えてみる必要があるような気がします。全てが情報で判断されるということは、人の想像力がオミットされるということです。先ほどの物語力や、あるいは諦念、清貧といった方向での思惟力、自己解決力は消えてゆきます。
番組では、爆笑問題の太田が、言葉で表現し合うことの快感を語ってました。それもよくわかります。基本的に善意をもって言い合うのはいいことです。しかし、言葉によって心の中の悪魔が発動する可能性もけっこうあると思いますよ。
たとえば姜さんが在日だからといって、ワケもなく差別的な発言をする輩がいるでしょう。もし、そういう情報(名前も含めての言葉)がなければ、とってもいい人だと思って仲良くなるかもしれないのに。つまり、ここでも人間は自らが作り出したフィクション(コト)に振り回されてるんですよ。カネと同じです。コトの方がまるで本体のように振る舞い、私たちがそれに隷属するようになってしまう。
言葉をはじめとする様々なメディア(コト)は、たしかに私たちを結びつける善の可能性も持っていますが、逆に他者を疎外したり、あるいは自己を疎外したりする負の可能性も秘めているのです。
難しいですね。それでもぶつかり合った方がいいのか。ぶつかり合わないと理解し合えないのか。そのぶつかり合いを裁く、いや捌くのが行司さん(政治家さん)のシゴトなんでしょうか。本当に難しい。
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コメント
格差はあっても良いけど、やはり程度の問題なんでしょう。ワーキング・プアなんて言葉は、昔だったら要領の悪い奴の代名詞になったかも知れませんが、今の現象は全く洒落になりません。定職に就けなかった若者だけでなく、酪農、農業、漁業に携わる方々の過酷な現状。(あぁ、プアでこそないものの、医療、看護の現場も酷いものですね。介護はプアかな。)その一方で自分さえ儲ければ、後はどうなろうと知った事じゃないと言わんばかりの食品偽装問題。私など、近い所で事故米の一件では、怒りよりも寒気を感じました。日本ってそんな世の中でしたっけ?
今時の金持ちは頭がおかしいのではないかと本気で思います。あくせく働いて金を得ることが悪いとは思いません。しかし、金なんてカネの価値がなければ何の意味もないものだと言うことがよく分かってないようです。いくら金があっても、世の中が疲弊してしまっては使い道すらないのに、徹底的に他者から搾取することしか思い浮かばないようです。労働者を派遣することで得る金額のうち、実際に労働者に支払われる割合の如何に少ないことか。将来、日本はどうなりますかね?日雇い労働で生活を凌いでいる人々は、貯蓄も出来ません。彼らの生活保障は、結局国民全体への負担としてのしかかってくるわけで、対岸の火事ではないのですがね。
投稿: LUKE | 2008.10.05 00:18
LUKEさん、こんにちは。
まったくカネというものは、おそろしい悪魔です。
我々が産み落としてしまった化け物ですね。
人間の悪い部分を助長する困ったヤツです。
麻薬みたいなものなのかなあ…。
みんな操られてるように見えます。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.10.06 11:17