宇多田ヒカル 『HEART STATION』
半年も遅れてますけど、とりあえず聴いてみました。どうしてこれほどに売れるのでしょうか。その秘密を知ろうと思って耳を傾けてみました。
まず第一印象。声の印象がお母さんに似てきたなと。ここであえてお母さんの名唱を二つほど。
圭子の夢は夜ひらく
新宿の女
顔も似てきたかも。というか、宇多田ヒカルってまだ25歳なんですね。なんかもうベテランという気がしてたんでビックリ。たしかに芸歴は長いけど。
さて、「圭子の…」は単純な短調の曲です。「新宿の…」は長調の四七抜きですね。ふむふむ。
で、娘さんの方はどうかというとですね、これがまあ面白いほど一つの特徴を持ってます。よって、私は全部同じ曲に聞こえます(笑)。もちろん、歌詞抜きで考えてですよ。そして、そこのところに宇多田らしさというのが現れていて、そして、そこのところに日本人が感じ入るということが分かりました。非常にシンプルです。
これは演歌ですね。新しい演歌。ほぼ全曲同じ手法によって作曲されている。つまり、音楽としては非常に単調です。しかし、ある意味新しい。古い手法だけれども、それを徹底することによって新しくなっている。そして、演歌と同様に微妙な差異や歌詞で聴かせる音楽になっている。これは面白い。
ちょっと音楽をかじったことがある人ならすぐに分かると思いますが、ほぼ全曲、重要なメロディーの部分のコード展開が4→( )→6になっています。そして、全体に調性感があいまいというか、長調なのか短調なのか微妙なあたりをフワフワしています。
メロディーは長調で言えば四七抜き、短調で言えば二六抜き、非常に単純でして、ブルーノートも全くありませんし(これでなんでR&Bに分類されるのか…笑)、短調における導音が半音上がることも全くありません。そしてしつこいほどのリフレイン…。
これは明らかに反西洋近代音楽であり、反黒人音楽ですね。いわば現代の洋楽からはかなりかけ離れている、日本独特の、まさにJ-POPだということになります。うん、たしかに『J-POP進化論 「ヨサホイ節」から「Automatic」へ』でも指摘されていたような気がする(内容を忘れてしまった)。あと、『歌謡曲の構造』ですね。小泉文夫さんが宇多田ヒカルを聴いたら、けっこう面白がると思いますよ。ああ、こういうふうに四七抜きと二六抜きが混合されていったかと。
まあそういう意味では、戦後発明された様々な日本的大衆音楽作曲法の集大成だとも言える。歌詞もちょっと面白いですね。案外アンニュイであり、しかし演歌と違って案外漢語が多く使われていたりする。今の若者たちの心にしみるのは、そういう漢語だったりカタカナ語(英語ではない)だったりするんですね。だって、いろんな病気の名前とか、社会問題へのネーミングとかって、みんな漢語やカタカナ語じゃないですか。あるいはローマ字略語。あえて例は挙げませんけど。
アレンジ的にはとってもデジタルな感じで、私なんかちょっと入り込めないわけですが、これもまたいかにも現代的なんでしょう。そんなところに藤圭子風の(!)肉感あふれる歌声が乗るので、とっても不思議な感じがしますね。まさに現代のテクノロジーや言葉たちに翻弄されるアナログな人間像です。面白いですね。
というわけで、私のようなオジサンからしますと、案外単純なしかけがあって、それで売れるんだなということが分かります。それにしても、全部同じに聞こえて困る。最初の2曲なんか、キーも同じだし。あえて言えば、タイトルが日本語になる最後の3曲(オマケは省く)で、オジサンは少し安心しました。
ま、それほど聴き込もうとは思われない作品ですが、今度は歌詞をじっくり読んでみたいと思います。
Amazon HEART STATION
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