追悼 市川準監督
早すぎる…市川準監督が亡くなりました。新作の発表を間近に控えていたのに、あまりに急なことで驚いています。それにしても59歳は若すぎる…。
今年2月、本当に久々に監督の「トキワ荘の青春」を観たばかりでした。だからこそ辛いですね。ああ、こういう静かな日本映画いいな、新作もこういう感じかな、と思っていた矢先の訃報です。
映画監督としては、まだまだこれからだと思っていましたから。残念でなりません。
市川監督の作品に出会ったのは1984年か1985年頃ではないでしょうか。たしかカンヌの国際広告映画賞の金賞かなにかを受賞したのでした。タンスにゴンとか、三井のリハウスとか、禁煙パイポとか、サントリーオールドとか、タフマンとか、デューダとか…とにかく当時目に付くCMはほとんど彼の手によると言っていいほどの売れっ子CMディレクターでした。ああ、これも市川という人の作品なんだ、これもこれも、という感じで、彼の名前を知ることになったわけです。
そういうイメージの強かった市川さんが手がけた初劇場映画が1987年の『BU・SU』です。当時熱烈な富田靖子ファンであった私は非常に楽しみにしていました。喜び勇んで劇場へ。なんであんなカワイイのに「ブス」なんだよ、とか思いながら。そうしたら、見事に裏切られました。いろいろな意味で。
市川さんのCMのイメージもあり、また富田靖子自身も当時たくさんのCMであの笑顔を振りまいていましたからね、きっとポップな明るい作品だろうと思ったら(実際ポスターは明るい富田さんの笑顔がいっぱいだった)、とんでもない、どちらかというと暗い静かな重い作品でした。
しかし、私はそうして裏切られたおかげで、すっかり市川準監督のファンになってしまったのでした。そして影のある富田靖子にも惚れたなあ。
その後、国際的な賞もとった「東京兄妹」や「東京夜曲」など、それこそ小津安二郎へのオマージュとも言える静かで深みのある作品を続けざまに見せられ、私の中では、あのポップでどこかとぼけた感のあったCM群は、全く違う市川準が作ったものだという感を強くしたのでした。
そういう両面のある方でした…いや、待てよ。違うかもなあ。今考えてみますと、商業的なものでも、妙に印象に残っているのは、単なるドタバタや瞬間芸ではなく、ああいう中に人生や社会の本質を描いていたからではないでしょうかね。手法は違えど、やはり表現しているものは同じなのかもしれない。
いや、そんな単純化してもいけないな。でも、どちらもちょっとした悲哀感というか、やっぱり「もののあはれ」のようなものがありますね。人間の愚かさや切なさ、ユーモアやペーソス。
最近いくつか紹介している謎のβ群の中にも、いくつか市川さんのCM作品が録画されています。それも本当に20数年ぶりに観て、あっ市川さんだ!って思っていた矢先なんですよ。なんでこういうタイミングなんだろうなあ…。なんとも辛い。
つくづく残念です。ウチにあるいくつかの市川映画を静かに観ながら、ご冥福を祈りたいと思います。そして、来月の東京国際映画祭では遺作となってしまった「buy a suit」を観ましょう。
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