『ウェブ時代の5つの定理 この言葉が未来を切り開く! 』 梅田望夫 (文藝春秋)
この言葉が未来を切り開く!?なんだか未来がアジの開きみたいになってるイメージが浮かんでしまった(笑)。
先日の「ウェブ時代をゆく」の記事にも書いた通り、情報化時代に疑念を抱きながらも、日々その恩恵にどっぷり漬かって、そしてそれをたっぷり使っているワタクシ。こういう状態って、たぶん産業革命の時とか、日本の明治維新の時とか、戦後民主化の時とかといっしょなんでしょうね。
基本、ウェブ世界というのは、自由、平等、そして正義がそこにあると信じられている世界です。ですから、アメリカ的なものと当然マッチしていますね。一見お金もかからないように見えますが、実はそこに大きな消費の可能性もありますし。
で、実際にウェブ時代のリーダーとなっているアメリカのシリコンバレーの金言を集めたのがこの本です。彼らが何を信じてこの革命を主導しているのか知りたかったので読んでみたわけです。
結論。彼らは自分たちがよりよい世の中を作れると信じている。世界を良い方向に変えようとしている。それが実現すれば経済的にも成功すると思っている。私も大好きなアップル社を引っぱるスティーブ・ジョブスもそう言っています。
グーグルの「Don't be evil(邪悪であってはいけない)」にも象徴されるように、そこには単純な宗教的ムードがありますね。性善説に則り、世界の改革を目指し、そして個人的幸福も得る。これは古今東西の宗教のシステムと全く同じだと感じました。
もちろんそれが悪いということではありません。どちらかというと健全な人間の精神活動だと思います。しかし、多くの宗教がそうであるように、どうしてもその最終目標や基本的な前提条件に対する自己検証がおろそかになっているような気もしますね。産業革命の時と同じですよ。豊かになること…すなわち、当時はモノを多く所有すること、今回はコトを多く所有すること…が幸せであるという、その絶対命題というか公理に対する検証はほとんど誰もしません。少なくともそれを主導する人、それを歓迎する人たちは。当たり前ですが。
私はまずそこのところに疑義を感じていたいんです。ま、ちょっと違った言い方をすれば、アメリカ教の信者にはなりたくないってことでしょうかね。世の中や人生を「成功」と「失敗」に分けたり、「正義」と「悪」に分けたり、自己の「夢を追いかける」ことを推奨したり、「自分に素直に生きる」ことがスマートだと捉えたりする、そんなステキなアメリカには私はついていけません。
まあ、これは現代社会に対応しきれない自分、努力や継続が面倒くさいという致命的な欠陥を持った自分、全てをハッタリで乗り切ればいいと思っている自分、そんな程度の自分の恨み節にすぎませんから、そんなに真剣に対抗しよう思ってるわけではないので、あしからず。
しかし、なんていうかなあ、なんかうまく表現できないんだけれど、根本のところで違和感があるのはたしかです。たぶん、それって現在の経済のあり方というか、カネに対する不信感が根底にあるんだと思いますよ。この数年というもの、まあ世の世間知らずの先生たち(失礼!)をだまそうとする、あのマンション経営やら先物取引やら、いろんな資産運用のつまらん勧誘電話にですね、「私はカネはいらない!カネこそが諸悪の根源であり、それを増殖させるなどという危険で卑劣なことをしたくない!」と大声で対応しているうちに、本当にそんな考えになってきちゃいましてね。
そういう「悪」の権化を対価として、さまざまな商品やサービスが存在するわけでしょ。だから、顧客のニーズなんていうのは、私にはとっても利己的で刹那的なものにしか見えないんですよ。もちろん、自分のニーズを省みてもそれは間違いないみたい。
ついでに言ってしまうと、個人の「夢」や人類の「夢」なんていうのも、そんなもんでしょう。この前の「人類の消えた地球」を観てあらためて感じちゃいました。
だから、この本の金言はですね、まさに金を得る言葉としては正しいと思いました。その正しさは、幸福を得る、あるいは安寧を得るための聖書をはじめとする教典や聖典の正しさと同じ次元なんです。それでいいじゃないか、という思考ももちろん可能ですし、あるいはそこまでも行ってないので、まずはそこまで努力すべきなのかもしれませんが、しかし、なにか違和感がある。なんだろう、最近のこのモヤモヤは…。
ですから、以前心から感動した、この伝説のスティーブ・ジョブスの演説も、なんだか素直に聞けないんです…なんて、こんな卑小な人間のたわごとを皆さんは気にせずに、この現代の神の言葉に耳を傾けてみてください。あなたの心はどちらの方向に動くでしょうか。最近の私の方には来ないことを祈ります。お金が逃げていきますよ、こっち側は。
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コメント
前略 蘊恥庵御亭主 様
愚僧・・・若い時分「情報技術」を
学んでおりました。
「情報」を・・・書き込む「紙」
にしても・・それを
入れる「箱」にしても
諸行無常であります。
「紙テープ」の時代から・・・・
現在に至るまで 随時 変化致しております。
坊主になったから・・・
という訳では ありませんが・・・
「手に職をつける」感覚が大切だと
感じています。
「身体に紙魚×浸み込む」感覚・・・
「身体に記録させる」というのでしょうか。
「心に留め置く」・・・
「膿×脳◎に定着させる」漢字×感じ◎ でしょうか。
飼葉×海馬◎だけに溜め込む訳です。
まぁぁぁぁ・・・・
忘れるものは・・・本来 必要のないことで
ありましょうから。
それに・・・・
頭の中の「情報」だけは盗めません。笑
愚僧も 馬鹿なりに・・・
学んだ死霊×資料◎を・・・
カセットテープやら
ビデオテープやら・・・
フロッピーディスクやらCDやら・・・
色色 記録しましたが・・・・
「情報」が もう・・・
どんどん産卵×散乱◎して
コンガラガッテ・・・何が何だか
訳がわからなくなっております。笑
記録したことに安心して・・・・
何処に記録したのか忘れて
しまうのです。笑
現実・・・・
「情報」が散らかりだすと・・・・
「世界」が崩壊します。
ある種 「核」より恐ろしいことです。
見えない「情報の氾濫」は・・・・
「地球温暖化」より ずっと深刻です。
私地震・・・・・
この語呂では「金輪際 一切記録しないことを・・・
記録しておこう」と考えて檻ます。笑
合唱おじさん 苦杯× 九拝◎
投稿: 合唱おじさん | 2008.09.29 23:40
合唱おじさん様、おはようございます。
情報というのは、人間の「シゴト」ですから、その時点でフィクションです。
つまりウソなんですね。
そういうウソが積もり積もったら、やっぱり何か起きそうですよね。
そういう「コト」からの解脱を目指したのが、お釈迦さまだと思います。
禅宗でも、教外別伝とか不立文字とか言いますよね。
情報では表せないというわけです。
だから、体で感じて納得するというのはとても大切なんですね。
理屈じゃなくて、対象と一体化する。
不二を目指したいなあ…。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.09.30 07:50