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2008.09.11

『キース・ジャレット&チック・コリア プレイ モーツァルト』 (1986年 NHK)

Keith Jarrett & Chick Corea play Mozart
Kctitle このところ思わぬものが飛び込んでくることが多く、もう何が来てもそれほど驚かなくなっているんですが、これはさすがに驚きました。驚いたというより大興奮してしまった。飛び込んできた、その飛び込み方もすごかったもので…。
 全く信じられません。こんなものがこんな形でいとも簡単に手に入ってしまうなんて。
 職場の同僚が、むか〜し撮りためたビデオをDVDに焼くためにオークションでソニーのβのデッキを落札したんです。それで、それが送られてきたから、使えるか試してみてくれということで、私のところに持ってきた。私は学校ではAV担当者なもので。
 で、そのデッキ自体も実に懐かしいものだったわけですけど、その先生が言うには、なんかオマケでたくさんのベータのビデオテープが入っていたとのこと。へえ、ずいぶんサービス精神旺盛な方だなあ、などと感心しつつ、そのテープたちが入っている袋をのぞいたら…。
 これが大変なことになっていたんです!もうここでその内容を書くと、ある意味暴動が起きる可能性があるので、やめときます。いや、ホントやばいんですよ。ざっと見たところ、85年、86年あたりにテレビで放映された音楽番組が録画されているようです。
Keith で、そのうちの一つが、こ、これだったんです!!これって幻も幻、いまや伝説化していてYouTubeにアップされた(あとでURLを貼ります)時も騒ぎになりました。最近キースのドキュメンタリーDVDにK.365の一部が収録されて、これも評判になりました。それが、完全な番組の形で手に入るとは…。それも何の苦労もなく…というか、勝手に来ちゃった(笑)。
 この公演が行われたのは1985年2月1日のことです。五反田のゆうぽうと簡易保険ホールで、田中良和指揮の新日本フィルハーモニー交響楽団をバックに、キースがK.488を、チックがK.466を、そして二人でK.365を演奏しました。この二人のこうした共演は世界初です。おそらく鯉沼さんのアイデアとご尽力によってこの奇跡は実現したんでしょうなあ。
 考えてみれば、この二人マイルス・デイヴィスのバンドではいちおう一緒にやってた時期もあるんですよね。交替交替でやってたみたいですけど。それ以来全く別の道を歩んでいた二人が、日本で、そしてモーツァルトで再会する…。
 で、震えながらテープをデッキに挿入して観てみましたよ。うわぁ!けっこうきれいに残ってる。さすがベータ!?22年前の録画とは思えません。多少のノイズはしかたないとして、音もはっきり聞こえて充分過ぎるほどに美しい。
 演奏部分についてはですね、YouTubeに全部(正確にいうと一部なんですが…それはなぜでしょう…ナイショです)ありますので、そちらでどうぞお聴きください。

Keith Jarrett plays Mozart
 K.488: 1. Allegro
 K.488: 2. Adagio
 K.488: 3. Allegro assai
Chick Corea plays Mozart
 K.466:1 Allegro
 K.466:2 Romance
 K.466:3 Allegro assai
Keith Jarrett & Chick Corea play Mozart
 K.365:1.Allegro
 K.365:2.Andante
 K.365:3.Allegro

Chick あえてはっきり言ってしまうと、完全にキースの方がうまい。ミスタッチもほとんどなし。チックはけっこうコケてます。緊張してるよなあ…。まあ、そんなことはどうでもいいですね。それより、ジャズの天才ピアニストにして、世界最高のインプロヴァイザーである二人が生むモーツァルトの素敵なこと。今ここに生まれた音楽のようです。
 もちろん、クラシックを専門に聴いている方からは、予想通りいろいろと難癖がつきましたし、今もつくでしょう。なぜそういうことになるのか、いちおう両方聴いてるし多少はやってもいる私はよくわかるつもりですけど、でももう私はそういうのにはウンザリですので、ここではやめてください。
 そうそう、ジャズの方からも、まあわがままがずいぶんと出ましたよ。なんでカデンツァが普通なのか!って(笑)。アンコールでも同じカデンツァだったじゃないか!とか。カデンツァって完全な即興だったわけじゃないですよ、皆さん。当然仕込んでおくものです。それも複数のソリストによるカデンツァなんか、当然それでなきゃできません。それこそ純粋なジャズになっちゃいますよ、完全即興でやったら。当時はそういう時代ではありません。
K388 それにしても、二人のリズム感というか、リズムの取り方がいいですね。アンサンブルの仕方がクラシックの方々とは全然違う。あとメロディーの歌わせ方。タッチやフィンガリングもクラシック系と違うし、なにしろ二人のそれらが対照的で面白い。
 ちょっと意外だったのは、リハでも本番でも主導権を握っているのは年下のキースだったこと。チックに比べて、キースはクラシックの演奏や録音を数々こなしていましたから、まあ当然と言えば当然なんですけどね。リハではほとんど先生みたいにチックに教えてます。
 で、ですねえ、実はこの番組のすごいところは、二人のインタビューやリハーサル風景が収録されていることなんです。ちょっとその一部をここに再現します。しゃべるのもほとんどキースです。

キース
「即興演奏家がモーツァルトを弾くと即興者としてのモーツァルトに焦点があてられるよね。彼が即興をした記録はあるけど録音はないわけだ。録音があれば楽譜との違いに興味があるね。すごい即興だったかもしれない。ベートーベンもそうだけど。もうひとつ大切なことは、僕は作曲家が生きていると思って即興することにしているんだ。世界各国にはモーツァルト研究家が大勢いて、モーツァルトはこう弾くべきだと言うけれど、モーツァルトは型にはめられるのをいやがると思うんだ。そのためにはできたてのつもりで演奏しなくてはね」
チック
「きょうの協奏曲の2楽章の最初のところは、骨組だけなんだけれどまるで歌のようなんだ。フィーリングいっぱいに弾くことができる。骨組だけでも十分美しい。即興してくれって誘惑してるみたいなんだ」
キース
「そう、フレーズというシンプルなものを忘れさせないね。それは花びんいっぱいではなくたった3本の花という感じだ。その3本は見るたびに違う。いっぱいにあるとひとつの物体となってしまう。モーツァルトはわずかな花びらだ。シンプルでいてむずかしい」
チック
「うん」
キース
「知りすぎていると新しいものは生まれてこないよ…決めすぎてはいけない。意味がない…そう、常に変化してるしね」
?(どっちかわからない。たぶんキース)
「演奏するには外面からと内面から迫る2通りがあると思う。即興演奏家ができることは内面性をもたせることだ。多くのピアニストは外面的な訓練しか受けていない。この人の曲はこう弾くべきだといったようなことね。そうなるともう興味がないね」

 う〜ん、素晴らしい。私の言いたいこと、全部言ってくれてます。そう、昨日の枕草子もそうなんですよ。いろいろ取っぱらって無垢な再創造をしたい。生まれたばかりのような輝きを目指したいんですよね、全てにおいて。単なる情報処理はオタクの皆さんにおまかせしてね(笑)。
 そして、究極的に感じたこと。「今生まれたようなモノは案外シンプルである…」
 このようなお宝に出会えたご縁にひたすら感謝いたします(拝)。

Amazon アート・オブ・インプロヴィゼーション ~キース・ジャレット・ザ・ドキュメンタリー

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コメント

> 全く信じられません。こんなものがこんな形でいとも簡単に手に入ってしまうなんて。

価値あるものは、己にふさわしい主を捜す。って、私は信じてます。実感として、そういうものって欲しい人のところに集まるものですよ。
しかし、キースとチックとモーツァルト。知りませんでした。どれも大好物なんですが、胃がビックリするというか...。(^-^; 焼きそばパンをおかずにご飯を食べる感じに、...似てませんね。(笑)

>クラシックを専門に聴いている方からは、予想通りいろいろと難癖がつきましたし、今もつくでしょう。

一方でキースやチックも、コテコテのジャズ好きには意外と嫌われてるんですよね。世の中にはジャズ以外にも、そしてクラシック以外にも素晴らしい音楽がたくさんあるのですが。

>知りすぎていると新しいものは生まれてこないよ…

あるアーティストが、ギタリストのエドワード・ヴァン・ヘイレンを指して、「真のギター・ジャイアントは本当に凄い。彼は今鳴っているコードが何かさえ分からずに演奏しているんだ。太刀打ちできないよ。」って言ってたっけ。

最後にオーケストラをバックにロックを演奏してみましたってやつを紹介。↓
Toto - Stop Loving You - Night of the Proms 2003
http://jp.youtube.com/watch?v=JjOW0y_cqMQ&feature=related

投稿: LUKE | 2008.09.13 02:38

LUKEさん、どうもです。
いや、ホント私のところに偶然に偶然が重なって(いろいろプロセスがあったんですよ)こうしてやってきたのは、もうこれは運命でしょう。
ラッキー!♡
クラシックファンもジャズファンも頭の固さは伯仲してますよね(笑)。
いつも言うとおり、クラシックもジャズも、あの音階とあの楽器を使っている限り、世界の中の特殊な(狭い)音楽であることには変わりないのに。
ヴァン・ヘイレンの話はいい話ですなあ。
我が校のジャズバンド部の天才トランペッターは、ホント世界レベルなんですが、なんだか全然わかってなくて、かわいいもんです。
私はいつも彼女のことを「最強」と読んでいます。
「天才」を超えた「最強」。
totoもいいですねえ。
ロックバンドとオケの競演ということであれば、ELOはもちろんですが、メタリカが最高っすよ。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.09.13 10:36

いま、古いビデオテープをDVD化しているところです。で、キース&チックのDuoコンサート番組の録画があって、放送日等詳しいことがわからず、ググッてみましたら、こちらがヒットしました。たすかりました。

投稿: おりりん | 2010.03.31 13:42

おりりんさん、コメントありがとうございます。
素晴らしい演奏ですよね。
感動を共有できてうれしいです。
いろいろな意味で貴重な映像だと思いますよ。
ほかにもいろいろありそうですね(笑)。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.04.01 08:03

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