『ウェブ時代をゆく-いかに働き、いかに学ぶか』 梅田望夫 (ちくま新書)
ウェブ時代。それはよくわかります。私もこうしてその時代の、先端ではないけれども、そこそこ本流を行っています。一方、仕事柄、旧時代的なものも捨てられない私です。いや、仕事柄ではないかな。性格的なものか、哲学的(?)なものでしょう。たぶん。
いきなり言ってしまうと、私は「コトよりモノの時代」だと思うんです。ウェブ時代というのは「モノよりコトの時代」ということでしょう。だから、時代の本流を案外軽やかに疾走しつつ、そんな自分に危機感も抱いているんです。自分というか世の中というか。
だから、梅田さんのおっしゃる「いかに働き、いかに学ぶか」は、とってもよく理解できるし、間違っていないと思うんですが、自分でそれを実行したいかというと、やはりしたくない…というか、そればかりになってしまうのは、ちょっと…。
時代に取り残されるというのは、お金もうけができないということです。それでは生きていけないので、とりあえず流れに乗っかって行きますが、そんな自分に無反省でいたくありません。
世の中は「コト」と「モノ」で全てです。それは言い換えれば、自分の認識という集合と、その補集合で全体集合ということです。
情報は「コト」です。コトは人間の脳内の現象(あるいは存在)です。そして、絶対的に不変です。一度生まれた情報は経年変化を起こしません。個人の認識や考え方、印象は時とともに変わるような気がしますが、ある時点でのそれらは変化しません。それが情報(コト)の特徴だと考えています。
一方の「モノ」は脳内のコト以外のものです。自分の肉体も含めて、「モノ」は時とともに変化します。その時々の状態(たとえば何年何月何日のある瞬間の自分)はたしかにあって、それは不変なような気がしますが、それは情報(コト)であって、モノの本体ではありません。
ちょっと科学的な言い方をしますと、エントロピーが増大するのが「モノ」の特徴、その流れに逆らって減少させようとするのが人間の「ワザ」であって、その結果が「コト」だと言っているのです。ですから、人間のあらゆるシワザはネゲントロピーだと言えるわけです。人間は自然則に逆らう存在なんですね。
だからでしょうか、どうも自然の立場に立ちますと、人間のシワザ、そしてその結果としての「コト」が跋扈してると、なんか不安になるんですよね。刹那的には楽しいし、幸せなのかもしれません。でも、なんか急に違和感や不安に襲われるんですよ。なんか、ちょっぴりお釈迦様っぽいな(笑)。
で、世の中ではどうかと言うと、たとえばウェブ時代とか言われて、今「コト」が大量に流通するようになっていて、それがいいことだ、物流より事流の方が地球に優しい、とか言われてるんですね。それもなんとなくわかりますが、こんなに「コト」が大量に生み出され、コピーされ、消費される(情報の消費とはつまり再生産になるわけですが)時代は、これは人類史上初めてのことなんですね。
だから、モノを使いすぎたりすると、どうなるかというのは、科学がそれを扱ってきましたから、だいたい分かるんですよ。で、世の中は騒いでいる。じゃあ、コトの方はどうかということは、全然分かっていないし、ほとんど誰も気にしていない、いや、それこそ梅田さんのように、非常にオプティミスティックに捉えられてるんです。
でも、本当のところ、ネット社会の闇…とかそういうレベルでなく、コトの濫造、濫費が何を引き起こすのか、おそらく誰も分かりません。
昨日の記事で、私がふざけて「情報が温暖化の原因だ!」なんて冗談を言ったは、そういう意味でのアイロニーです。
この本を読んで、とっても納得する自分がいる。でも、その自分はなんか表面的な自分であって、もっと奥底の自分は、やっぱり本質的に間違っているとも思うんですね。梅田さんなんか、本当のところどう思ってるんでしょうか。ただ、今を上手に生きていけばいいのでしょうか。
ということで、この本はコト的社会での処世術を知るには、ほとんど最高の本と言えます。なにしろ、そういう社会で実際に第一線を走っている人のお話ですから。でも、その先にあるのは、本当に幸せな世界なのでしょうか。情報の高速道路の先にはどんな世界が待ってるのでしょうか。
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