芥川龍之介と富士山
今日は山梨県立文学館にて研修。芥川龍之介と山梨についてお勉強いたしました。
私はおよそ国語教師とは思えないほど、いわゆる文学の世界に縁遠い人間でして、文学館に行くんだったら、隣の美術館、あるいは少し離れた県立博物館や考古博物館、科学館の方へ行きたいなと思ってしまうような困り者です。ですから、たまにこういう研修がありますと、自らの本業を思い出しまして、そして多少は勉強などして生徒に還元できればいいな、などとそれらしいことを考えるのでありました。
実際のところ、この文学館を訪れたのも4年ぶりくらいになりましょうか。久々にいろいろな資料を眺めまして、それなりに興味をそそられました。講演を聴いてから展示を見るというのは、やっぱりいいですね。俄然興味深くなります。
芥川龍之介はそれほど山梨とゆかりがあるわけではありません。ちょっと通りがかったとか、飯田蛇笏と交流があった(実際には会っていないが)とか、そのくらいでしょうか。富士北麓地域に関する資料としては、明治45年に友人の山本喜誉司にあてた書簡が紹介されました。富士宮の大宮浅間神社へ行く途中、吉田に一泊しています。
旅人よいづくにゆくやはてしなく道はつづけり大空の下
今日朝八時東京発大月下車七里の道を下吉田に参り候 空晴れて不二の雪さはやかに白く其処此処の山畑には桑の枯枝の下に菜の花の黄なるを見うけ候 宿の名は小菊 寒気つよく炭火をあかく起したるをかこみて之をかき候
四月一日
中央線で東京から大月まで来て、そこから吉田まで歩いたっていうことでしょうかね。当時は馬車鉄道が走っていたはずですが。標高差500メートルくらいありますから結構きつい徒歩の旅ですね。7時間はかかるでしょう。昔はそんなの当たり前だったのかな。
吉田の町の描写はシンプルですけれど味わい深い。たしかにそれだけだったのでしょう。よくわかります。このころ菜の花がきれいですし、夜なんかはかなり寒い。ここに暮らしている者としては、本当に実感として分かります。
泊まった宿は「小菊」。今はもうありませんが、たしか下吉田駅のすぐ前だったような気もします。十数年後、太宰治も泊まったんではなかったかな。ちょっと調べてみます。当時は吉田、というか富士山の玄関は下吉田でした。
翌朝吉田を出発した芥川は再び徒歩で富士山の西麓をまわり、富士宮へ向かったらしい。これまた10時間はかかる長旅ですね。今なら1時間もかかりませんが。昔の人は偉いなあ。でも、そういう歩く速度で世の中を見ていたからこそ、あるいはそういう「ムダ」な思索の時間があったからこそ、すぐれた小説も生まれたんでしょうね。うむ、どっちが豊かなのかな。
ところで、富士宮の浅間神社に行くのに、どうして東海道線を使わず吉田を経由したのでしょうか。富士山周辺をゆっくり逍遥したかったのかもしれませんね。これは憶測ですが、やはり下吉田を出発した芥川は吉田の浅間神社、すなわち下吉田の下浅間と上吉田の上浅間を参拝してから、河口湖、西湖、精進湖、本栖湖を巡って静岡に抜けたのでしょう。そういうテーマを持った旅だったのかもしれません。
いや、実は私はこの芥川の富士行には特別な意味があったと考えているんです。これは私の勝手な想像ですので、あまり気にしないください。私はけっこう自信あるんですけど、まあ、実証するものがありませんから。
芥川と言うと、まじめな文学者という感じがするかもしれませんが、実はかなりのオカルトマニアだったんです。彼が、当時流行していた千里眼や透視なんかに興味を持っていたことは知られていますね。今日の文学館の展示の中にも、福来友吉の著書を期待する芥川の言葉が紹介されていました。そんな趣味を少し希釈して表現したのが、彼の怪異的小説の数々でしょう。
で、この明治45年と言いますとですね、宮下文書(富士古文献)の研究で名高い三輪義熈が、富士王朝伝説を紹介しはじめた頃なんですね。たとえば「富士史」なんていう本を43年に発刊しています。芥川はそのあたりを知っていたんじゃないでしょうかね。
のち日本の神霊研究の父となった浅野和三郎と芥川龍之介にも不思議な因縁がありますね。そんな関係から、芥川は出口王仁三郎の大本にも興味を持っていたとも言われています。
出口王仁三郎・大本・富士山・浅間神社・宮下文書という一連のラインと芥川の富士行とは、なんらかの関係があると、私には思えてなりません。それこそ霊的な何かなのかもしれませんが。
ま、こんなこと言うのは私だけでしょうが、当たらずとも遠からずだと思いますよ。
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