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2008.08.05

『台風クラブ』 相米慎二監督作品

Pibd7074 日続けてのものすごい雷雨。そして停電。今夜は河口湖の湖上祭だというのにこの天気。
 落雷のため電車も動かなくなり、学校には帰るに帰れない生徒たちが残っています。
 ああ、じゃあ「台風クラブ」でも観るか、ということになりました。ちょうどこの前テレビでやっていたのを観たばかりですが、こうして学校で生徒と外の嵐の音を聴きながら観る「台風クラブ」も、なかなかいいものです。
 さすがにここは教育現場ですのでディレクターカット版ではなく、ずいぶん前に地上波でやったものの録画を引っ張り出してきました。たしかロケで使われた学校でも完成記念上映会をやるはずだったのが、あまりに刺激的(過激)な内容だったため、中止になったんですよね。このテレビ版、マニア的にはほとんど全ての肝心な部分がカットされてしまっているのですが、まあ仕方ないでしょう。それでも充分魅力的な観賞会になったと思います。こういうシチュエーションはなかなかないよなあ。
 さて、数年前に本当に若くして亡くなってしまった相米慎二監督。私も若い頃彼の作品にすっかり惚れ込んでいました。この「台風クラブ」はもちろん、そうだなあ、ワタクシ的には渋く「魚影の群れ」とか「光る女」とか、あと日活ロマンポルノの「ラブホテル」も良かったなあ。あれは感動したなあ。名作ですよ。
 相米さんと言えば長回しと言われますが、まあたしかにそれも特徴であるし、あの独特の緊張感はそこから生まれるのだと思いますけれど、私はそれ以上に光と影の使い方が上手だと感じていましたね。
 この「台風クラブ」でも、作品全体が「光と影」「明と暗」できっちりまとめあげられていますね。そこに「男と女」「日常と非日常」「大人と子ども」「都会と田舎」「家庭と学校」「純愛と性欲」「生と死」「昨日と今日」「今日と明日」などといった数々のコントラストが重ねられていきます。
Atg170 そうしたコントラストのそれぞれの境界線上におかれた中学生たち。大人になった私も、そして高校生もちょっと懐かしいそんな過去の自分にノスタルジーを感じながら、作品世界に引き込まれていきます。
 誰もが何かを期待してしまう台風の直撃。本来なら忌むべき存在である台風を待望してしまう後ろめたさ。何もかもを洗い流し、乱暴なまでに全てをはぎとってしまう雨と風。水と空気がこんなにも存在感を示すことはそうありません。そうした非日常性と祭性の関係は、日本の神道の本質とつながっているような気もします。そして、荒々しい通過儀礼を経て、私たちは一つの境界線を乗り越え、違った自分に生まれかわるのか…いや、そこにはまた変らない日常や現実や自分があったりするんですよね。
 そういう、不安定でありながら、しかしその不安定であることは普遍的であることを見事に表現した映画であると思います。私たちはそういうマージナルな不安定さに、不思議と魅力を感じ、あるいは憧れすら感じるんですね。大人になって、全てが固定化され、ある意味安定していくことに、我々はなぜか不安や不満を感じてしまいます。大人になること、きっとそれは世間というフィクションによって縛られていくことなのでしょう。
 このテレビ放映版では肝心な部分がカットされていると書きましたが、そのカットされている部分はちょっと意味不明なシュールな表現がほとんどです。相米監督は寺田農さんを仲立ちとして実相寺昭雄さんとも親交があったとのことです。時々現れるシュールなシーンは、もしかすると実相寺監督の影響かもしれませんね。現実に突如穴をあける異界への入り口。そこに意味など読み取らなくていいと思います。
 相米監督はたくさんの優れた女優を育てました。この映画での工藤夕貴は今では世界的な女優さんです。ほかに薬師丸ひろ子、牧瀬里穂などなど…。プロレスラーの武藤敬司さんやジャズシンガーのMonday満ちるさんも、相米監督に演技を鍛えられ、本業でもその経験が活かされたと語っています。
 そうそう、役者さんと言えば、この映画での、あの先生役の三浦友和さん。これは本当にうまい。こういう先生いる…というか、先生って本質的にこうですよ(笑)。二枚目路線からいきなりこれですからね。素晴らしい役者さんに成長しました。私もこの作品で彼のことを一気に好きになりました。たしかに、山口百恵が惚れるだけのことはあるな、と。
 最後に。相米監督は、「光る女」の頃から、武田泰淳さんの「富士」を映画化したいと考えていたようです。残念ながら実現しませんでしたが、「もしも」と考えて妄想するのもまた楽しいものです。私の中ではいくつかのシーンがはっきり見えるような気がするんです。
 
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