厳しさ→プライド→本物
今日はいろいろなものを観て聴いて、感じること多々あり。テレビから学ぶこともけっこうありますね。
伝統と最新技術、経験と学問、職人の勘と科学。日本と西洋。そこに見え隠れする「プライド」。そしてそのプライドを生む「厳しさ」。結果としての「本物」。
まずオリンピックでしょうか。北島康介選手の金メダル、お見事でした。あの涙にはいろいろな思いがこもっているのでしょう。水泳もいつのまにか人間の戦いではなく、水着の戦いのようになってしまいました。しかし、やはり最終的には人間の、それも肉体以上に精神のレベルでの戦いなんですね。北島の泳法は、かつて短距離走の世界で評判になった「ナンバ走り」のように、ある意味非西洋的なものです。そこに最新の水着の技術が加わり、さらに精神力が加わります。それに至るまでの彼の努力や周囲の献身は計り知れません。そこに本人のプライドが生まれ、そして最高の舞台で最高の結果が出る。すごいですね。
北島の決勝が放送されている、その裏番組で「ラ・プティット・バンド」のコンサートの模様が流れていました。個人的にもお世話になったシギスヴァルト・クイケンや赤津眞言さんのお姿が。彼らの演奏はまさに経験と学究的姿勢の幸福なる結婚です。今回の来日でシギスが弾いたヴィオロンチェロ・ダ・スパラは、首から提げてヴァイオリン式に演奏する小型のチェロです。それをフィーチャーした「四季」など、本当に新しい発見と驚きに満ちた素晴らしい演奏でした。何が歴史的に正しいかというような次元を超えた「本物」をそこに見ました。それを支えるのも、経験と学究的態度に基づく「プライド」なんでしょうね。
続いて午後にはアンドリュー・マンゼとリチャード・エガーの演奏が放送されていました。こちらはなんというか、非常にウソくさくて面白かった。昨日の宝塚ではありませんが、よく演出され訓練されたキッチュさ(?)を堪能できる演奏でした。ただ、それが生きた「今」の音楽なのか、つまりライヴな「本物」なのかは、ちょっと…。ただ、バロックとはそういう胡散臭さそのものであり、また、ヴァイオリンという楽器ももともと胡散臭いものですから、あそこまでやってしまうのも一つの手かとは思いました。
ただ、純粋ならざる私としては、クイケンのヴィオロンチェロ・ダ・スパラにしても、マンゼの弾きっぷりにしても、さっそく真似してみたいという妙な欲求の対象になってしまうんですね。つまりは宴会芸のネタになりうると(笑…ごめんなさい)。
続きまして、バドミントンの「スエマエ」&「オグシオ」に興奮しつつ、録画した「唐招提寺 天平の甍を守った男たち~時代に揺れた明治の決断~」を鑑賞。これは本当に面白かった。まさに伝統と最新技術、経験と学問、職人の勘と科学、日本と西洋の葛藤と融合。厳しさとプライドに満ちた世界でした。関野貞、木村米次郎、伊東忠太、みんな個性的だし真剣だ。それぞれに違う考えと行動をとったのは事実ですが、プライドだけはみんな一緒。だから歴史的に見ると、みんな「本物」として評価されるのでしょう。やっぱりいかに真剣に対象(モノ)に臨むかですね。明治という時代は、そういう意味で異常に難しく、しかし一方で、だからこそ創造的な時代だったのですね。
そして深夜には「クイーン」のライヴが放送されていました。もう何をか言わんやです。私のような何ごとも中途半端でいい加減な人間には、当然「厳しさ」もありませんから、そこに「プライド」など存在しようがありません。そしてもちろんそんな所に「本物」が生まれるはずもありませんね。わかっていても、ちょっとショックだったりして…まあそれもまたポーズに過ぎないんですが…orz。
先日、ちょっと有名な板前さんとお話したんですが、なんであの世界って必要以上に厳しいのかと聞きましたところ、必要以上に厳しくしないと人には「プライド」は育たないんだそうです。そして、そのプライドだけが、正しい伝統を継承する、あるいは妥協や不正を許さない、唯一の礎なんだそうです。なるほど。その場だけ見れば「必要以上」なことだけれども、長い目で、それも自分という存在を超えた歴史全体を見渡す視点にあっては、まさに「必要」なことなんですね。
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コメント
前略 蘊恥庵御亭主 様
いつも拝読させていただいて
感じているのですが・・・・
蘊恥庵御亭主様は天才ですね。
もちろん その99.99%
は御本人様の弛み無き努力の
賜物でありましょうが・・・。
毎日の御文章の更新も然り。
愚僧の修行時代 僧堂で
中国の御坊様と一緒に生活を
いたしておりました。
天才的な頭脳を御持ちでした。
愚僧とは月と鼈(すっぽん)笑。
似てたのは頭が剃髪で丸い所だ
けでありました。苦笑
しかし夜中までいつも学問されて
おられたのも事実。
愚僧の心底 尊敬いたしております
捨て聖の「一遍上人」様。
蒙古の軍人も日本の軍人も・・・
共に手厚く供養されたとの事。
尊き怨親平等の慈悲心。
まさに・・・・僧侶の鑑。(プロ)
煩悩満載の・・・・「私」
こうなったらプロの愚僧を目指します。
合唱おじさん 拝
投稿: 合唱おじさん | 2008.08.13 23:20
合唱おじさんさま、こんにちは。
とんでもございません。
私は天才でもなんでもありません。
単なるハッタリ野郎ですよ。
ただ目指すのは天才バカボンですから、
ある意味「プロの愚僧」というのは理想ですね。
うん、プロの愚僧…かっこいい言葉です。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.08.15 14:39