« 歌謡曲バンド「みちのく」ライヴ | トップページ | 『台風クラブ』 相米慎二監督作品 »

2008.08.04

ドラマ 『こころ』 (東芝日曜劇場1991年)

Kkr1 かのクラスで漱石の「こころ」を読むのが夏休みの宿題となっているのを見て、あっウチではこれにしよう、と見せたのがこのビデオです。「こころ」って前半退屈なんだよなあ。あれが宿題だと大変だろうなあ。のべ何時間かかるんだろう…ウチは43分ですませちゃおう!なんていう、まあ国語の先生とは思えない発想です。
 「こころ」は最高のサイコ・サスペンス、いや、ある意味事件未解決だからサイコ・スリラーかな(笑)、いずれにしてもまさに人間の「心」を描いた超傑作であることは認めます。全体像はともかくも、それぞれの部分、特に「先生と遺書」の部分の心中表現や、心の屈折した反映といえる各セリフは、不自然なほどに計算され尽くされていると思います。
 さあ、それをなぜ私は映像作品で見せてしまうのか。それは非常に単純な話でして、さっきも書いた通り、ちゃんと読むのが非常に面倒くさいからです。そして、それを授業でやるとなると、もちろん全部読むことはできない(1年かけて全部読む先生も全国にはいらっしゃるようですが、なんとなく自己満足で終わっているような気もします)。教科書に載っているのもやはり「先生と遺書」の一部分だけ。つまり、サイコ的に一番面白く、一番ドキドキし、一番いろいろな解釈ができ、一番妄想力を発揮できる部分を、教室で読まねばならなくなってしまうわけです。
Kkr2 これは私には耐えられないことです。それは国語の授業でなく、個人的な「読書」でやるべきだと思っています(もちろん、私は国語は読書の時間ではないと思っていますし)。もともと読書というのは、人から押しつけられてするものではないし、ましてや人の解釈を押しつけられてそれを暗記してテストで答えるという性質のものではありません。そしてそしてもちろん「感想文」なんていうモノを書くための読書なんてありえないと思っています。
 と、こんな変な教師に習っている生徒は可哀想ですけど、まあ仕方ないですね。とにかく私のクラスはほかにやることがいろいろあるんで、読書はやりたいヤツがやりたい所で読みたいものを読め、というスタンスなんです。
 さて、「こころ」の映像作品ですが、私は5種類持っていました。持っていました…と過去形で書いたのは、ちょっと事情があって、今は(たぶん)一つしか手もとに残っていないからです。紛失した四つを含めてちょっと紹介しますと、まず一番古いのが1955年日活の映画、市川崑監督作品です。これは「私(先生)」役の森雅之の演技が素晴らしかった。比較的原作に忠実であったと記憶しています。
Kkr3 次が新藤兼人監督の映画「心」。これは1973年の作品で、まあ時代的なこともあってですね、かなり現代的、実験的な描き方をしておりました。教材としては…本当は一番面白いのかもしれませんが、いちおう使用を自重しておりました。
 続いて、今回見せたイッセー尾形主演のドラマです。これは1991年に「東芝日曜劇場」で単発ドラマとして放映されたもので、私の大好きな作品です。これについてはのちほど。
 そして、やはり90年代に放送されたものを録画したのだと記憶しているのですが、加藤剛の舞台版の映像です。NHKで放送したんだろうな。これもなかなか面白い演出が施されていて良かったのですが、教材としてはちょっと地味ということで1回使用したきりです。
 一番新しいのが、1994年にテレビ東京で放映された2時間ドラマです。これも原作にかなり忠実、かつ重厚な演出の佳作でした。先生役は勝村政信→加藤剛でした。お嬢さん役は葉月里緒菜→高橋恵子で、いずれもちょっと学生時代とその後の役者的連結がうまくいっていなかったかな(当然加藤剛と高橋恵子が圧倒的にうまい)。これは何回か授業で使いましたね。
Kkr4 さて、今日見せたイッセー尾形版(とあえて申します)のドラマですが、これはすごいですよ。だいいちあの長編を実質43分くらいにまとめちゃってるんですから。ほかの作品は、比較的長い時間をかけて原作に忠実に描こうとするが、そうしようとすればするほど困難な状況に陥っているのが伝わってくるのに対して、こちらは最初から割り切っています。そこがいい。演出もあえて写実的でない手法を使っています。つまりいわゆるテレビドラマの枠の中で作っていないんですね。最初の海のシーンからして、まるで舞台の書き割り、遠見のようです。その潔さによって作品全体が救われていますね。池田徹朗さんの演出と宮内婦貴子さんの脚本の妙です。
 そして、なんと言っても、イッセー尾形さんでしょう!彼が学生時代とその後の「私(先生)」の両方を見事に演じています。いや、彼の演技もとてもドラマのそれとは思えません。生徒たちなんか、とっても不自然に感じたんじゃないでしょうか。ものすごい存在感です。それに対抗するK役の平田満がまたいい。はまり役ですよ。こちらは普通にうまい(笑)。お嬢さん役の毬谷友子もいいですね。宝塚を退団後の名演技の一つでしょう。ちょっと笑いすぎな感じもしますけど、まあ原作にもそうありますから、まあいいか。今考えると、こりゃあすごいキャスティングですよねえ。あっちなみに遺書を受け取る学生役は別所哲也です。
Kkr5 あと個人的に印象に残っているのは音楽です。全編にわたってバッハの平均率が流れています。それも基本的にこちらのジョン・ルイス盤です!!これが漱石に合ってるんだよなあ。バッハと漱石かあ…思い出すのはグールドだなあ。とにかくこれが漱石とバッハの取り合わせが本当にいい。バッハのフーガと人間の運命が見事に共鳴している。
 うむ、これは伝説的な映像作品でしょう。今、こういう作品はできないだろうなあ。あの頃の東芝日曜劇場は単発で良かった。単発1時間枠だからできる面白さというのがあったと思うんですが。連ドラになってから全く観なくなってしまいました。
 この作品を観た生徒の何人かは、きっと原作に向かってくれることでしょう。それでいいと思います。こういう時代ですから、映像作品が文学作品の予告編でいいのです。つまり、これですね。

不二草紙に戻る

|

« 歌謡曲バンド「みちのく」ライヴ | トップページ | 『台風クラブ』 相米慎二監督作品 »

文学・言語」カテゴリの記事

映画・テレビ」カテゴリの記事

音楽」カテゴリの記事

コメント

はじめまして。
私立高校の国語の教員をしております。
「こころ」のDVDを検索しております時に、
富士山蘊恥庵庵主 様 のこのHPにたどり着きました。

おすすめの「イッセー尾形版」がビデオ化されていないか
TBSに問い合わせをしたのですが、販売されていないそうです。
富士山蘊恥庵庵主 様、ダビングしてはいただけないでしょうか。

投稿: つっちゃん | 2009.01.22 11:40

つっちゃん先生、こんばんは。
コメントありがとうございます。
のちほどメールにて連絡さしあげます。
しばしお待ちください。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.01.22 22:06

こんばんは、そして初めまして。

沖縄で教員をしております。

高校3年生の授業で「こころ」を扱い始めました。
何とか内容の力で食いついている生徒もいますが、
大半は「文章の量」に面食らって、気持ちが前を向かないようです。

市川監督の作品は購入しましたが、イッセー尾形版のコメントを読ませて頂いた限り、こちらの方が生徒にもすんなりと受け入れられそうです(以前に観た人からも、良かったとの話は聞いていました)。

上記の方にもありましたが、私ももし宜しければダビングさせて頂けますと嬉しいのですが…。

投稿: ぞんず | 2009.11.08 23:10

ぞんず先生、こんばんは!
のちほどメールいたしますので、しばしお待ちを。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2009.11.09 21:24

こんにちは、はじめまして!福岡の高校で講師をしております陽極と申します。

僕が高校生のときに国語の先生から見せていただいたのが、このイッセー尾形さんのこころでした。
そして、今度の授業でこころの映像を使いたいと思い、アニメの「青い文学シリーズ、こころ」というのを購入したのですが、面白いのですが二次創作の色が強く授業で使えないな……。と思っていました。

イッセー尾形版は自分が高校生のとき見た印象としてとても面白かったので、ぜひ授業で使いたいと思っています。ダビングさせていただけないでしょうか、ぜひよろしくお願いします!

投稿: 陽極 | 2010.06.30 17:20

陽極さん、コメントありがとうございます。
のちほどメールさしあげます。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2010.07.01 08:40

はじめまして。

北海道の高校で国語を教えている者です。
今度、2年生の現代文の授業で「こころ」を扱う予定です。
なにぶん、内容が長くて表現も堅苦しいため、生徒に映像メディアを見せたいと思い探していたところ、富士山蘊恥庵庵主 様のHPにたどり着きました。

イッセー尾形版のコメントを拝読しますと、長さが丁度良く、またおもしろそうだと感じました。
上記の方々の尻馬に乗るような形となり、たいへん心苦しいのですが、どうかダビングしてはいただけないでしょうか。
よろしくお願いいたします。

投稿: みんみん蝉 | 2011.08.19 16:59

みんみん蝉さん、おはようございます。
今からちょっと忙しくなるので、後日メールにてご連絡申し上げます。
少々お待ち下さい。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2011.08.20 06:45

はじめまして。
高校の国語の教員をしております。
「こころ」のDVDを探していたところ、
富士山蘊恥庵庵主 様 のこのHPにたどり着きました。

「イッセー尾形版」とテレビ東京の2Hドラマをダビングしてはいただけないでしょうか。

お手数かけます。よろしくお願いします。

投稿: しん | 2012.02.06 23:54

通信制高等学校で国語の教員をしている者です。
通信制高等学校では、スクーリング数が少ないため、
こころの授業をしたくても、なかなか出来ない状況がありますが、このイッセー尾形さんのこころのビデオがあれば、生徒もスムーズに理解できるのではないかと思い、ダビングを是非させていただきたいのですが。

また、2009年の『国語科教育』にこのビデオを使用したこころの授業が載っており、是非とも実戦してみたいと思っていたところです。

よろしくお願いいたします。

投稿: くろみつぱい | 2012.03.22 14:23

はじめまして。
突然の書き込み、失礼します。
広島県で高校の教員をしているものです。

紹介されていらっしゃる東芝日曜劇場「こころ」をぜひとも授業で活用してみたいと考えております。

身近なところで所有していらっしゃる方がおらず、いろいろと探していたところこのページにたどり着きました。

ぜひ動画データをコピーさせていただきたく思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

投稿: ハム二郎 | 2013.12.10 22:11

富士山蘊恥庵庵主 様

メールで失礼いたします。
茨城県の高校の国語の教員をしている者です。

こちらのブログで紹介されている
東芝日曜劇場「こころ」
当方も所持しており、授業で使おうと考えていたのですが
いざ使う段になってみると、VHSのテープの損傷がひどく
再生できない状態でした。

つきましては、可能でしたら動画のデータを譲っていただけませんでしょうか?
不躾なお願いで申し訳ありませんが、ご検討下さいませ。

失礼いたします。

投稿: おはむ | 2014.01.09 11:11

富士山蘊恥庵庵主 様

はじめまして、突然の書き込み失礼します
高校の教科書で「こころ」を初めて読んでから
すっかりはまってしまい東芝日曜劇場のイッセー尾形版
「こころ」もビデオに録画したのですが
劣化が激しく見れない状態になってしまい
探していたところここへたどり着きました
不躾で恐縮ですがイッセー尾形版の「こころ」のデータ
を譲って頂ければ幸いです、よろしくお願いします

投稿: にゃまちゃん | 2014.02.20 23:32

はじめまして。鹿児島の高校で国語教員をしております。東芝日曜劇場の「こころ」が忘れがたく、授業でも使いたいと探しているうちにこちらへたどり着きました、市川崑版は持っているのですが、ぜひ、こちらを生徒に見せたいと思っております。よろしければ、データを是非ともお願いいたします。

投稿: 廣尾理世子 | 2017.11.10 19:29

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/55913/42067978

この記事へのトラックバック一覧です: ドラマ 『こころ』 (東芝日曜劇場1991年):

« 歌謡曲バンド「みちのく」ライヴ | トップページ | 『台風クラブ』 相米慎二監督作品 »