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2008.08.07

『平井澄子の世界 雪 残月』

M0009582901 「中能島欣一の至芸」の記事にコメントを下さった岡山の若冲さんのご厚意により、聴かせていただくことができました。
 この録音も今では廃盤になり、たいへん希少な存在となっております。私も初めて聴きました。
 これは、中能島欣一の至芸とは全く正反対のすごさを感じる音楽ですね。こちらを聴きますと、中能島先生の表現したものが、西洋風にさえ感じられます(実際そうなのでしょうが)。
 私は多少邦楽をかじったとは言え、さきの記事にも書いたとおり、それは何もわからずやっていたに過ぎず、ここ数年でようやくその面白みや聴き方がわかってきた程度のリスナーであるわけです。ですから、偉そうなことは何も言えません。西洋音楽だけが音楽ではないとはわかっていても、弾く方も聴く方も圧倒的に西洋音楽が多いものですから、どうしても「耳」がそちら用に進化…いや退化してしまっていて、今ようやくそれをリハビリによって回復しつつあるという感じなんです。
 そんなリハビリ中の私の予感としては、最終的にはこの平井澄子さんの唄の世界に行き着きそうなんですね。この声、この歌はある意味衝撃的です。三弦もそうなんですけれど、平井さんの音は、たしかに邦楽の音です。武満徹の言う日本の音そのものです。
 西洋的な意味では、決してヴィルトゥオーソではありませんが、しかしたしかに名人です。至芸です。一音一音にかける魂。しかし,音を作るのではなく、あくまでそこに生まれるべくして生まれてくる音に忠実になっているのだと思います。
 こういうある種純粋に立ち上がる音世界に包まれますと、それこそ耳のリハビリは順調に進みます。耳から脳へ。私の中の純粋な日本人の脳がようやくよみがえるようにも思えます。
 小泉文夫さんも言っているように、西洋風(ドイツ風ですか)の音楽教育というのは全く恐ろしいですね。特にヤマハ音楽教室!ある意味言語統制よりもたちが悪いかもしれない(笑)。
 そういう意味では、私はようやく母語を取り戻しつつあるのかもしれませんし、いや小泉さんの言葉どおり、こういう平井さん的音世界は、もしかするとものすごく成熟した世界なのかもしれません。
 今、ちょうど何人かに「楽典」を教えているんですが、あまりにシステマチックで、あるいはシンプルで、それはたしかに驚きであり、また快感でもあるのですが、逆に人間はこんなに単純化できないよなあ、と思うのも事実です。西洋音楽はある意味宇宙の法則の発見に努めてきたわけですが、こうした邦楽はもう少し身近な自然の音、その瞬間瞬間の風のささやきとか、鳥のさえずりとか、川のせせらぎとか、そういうものと、そして今の自分の心…それもまた瞬間瞬間の自然の営みなのでしょうが…を表現しているように感じられますね。
 このCD、どの楽曲も素晴らしい演奏なのですが、やはり「熊野」における楽器群と歌の微妙な、すなわち微かで妙なる響き合い…それは全く和声的な響きではないわけですが…に感動します。目をつぶって聴いていますと、様々な風景が浮かんできますね。そこは行ったことのない場所でありますが、しかし間違いなく知っている風景です。
 平井澄子さんは山田流箏曲の家柄でありながら、生田流はもちろん、その他八雲琴や、地歌、新内、謡曲、また自作の作品まで、ジャンルやカテゴリーを超えて活躍された方です。おそらくそういう世間的な区分けを超越した境地に達していらしたんでしょう。ただただそこには「うた」があっただけだったのでは。
 大学時代、卒論のために「糸竹初心集」収録の作品を平井さんの演奏で何曲か聴いたのを思い出しました。当時の私は西洋音楽のオリジナル主義に入れ込んでいましたので、そういう意味で楽譜を読み解き、そういう意味で平井さんの演奏を聴いていたんですね。ですから、恥ずかしながら、感動しないどころか批判的な感想を持ちました。まあ、それは若気の至りということで。それこそ四半世紀ぶりくらいにその演奏も聴き直してみたくなりました。
 このような素晴らしい機会を与えて下さいました岡山の若冲さんに心から感謝致します。

Amazon 平井澄子の世界 雪 残月

「平井澄子の会」の部屋

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