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2008.07.15

『私のこだわり人物伝 アンドレ・ザ・ジャイアント』 森達也 (NHK教育)

知るを楽しむ…愛しの悪役レスラーたち 昭和裏街道ブルース 第3回
Ac729447 形、結界、孤独…なるほど、そういう物語り方かあ…。なんとなく、今回の森達也さんのカタリには違和感を持ったなあ…。
 こう思ったのは私だけではないと思いますよ。彼はそんなに不幸な人間だったのでしょうか。私は逆にアンドレはけっこう幸せだったと思っています。早く亡くなってしまったのは残念でしたが、おそらく自らの異形性を利用して最も多くの金を稼いだレスラーでしょうし、なんといっても人柄が素晴らしく、誰からも愛された人物であったと思います。
 だいいち、彼をヒール(悪役レスラー)としてしまうのはどうでしょう。彼のレスラー生活の中では、ヒールであった期間の方が短い。私のイメージの中でも、彼はベビーフェイスですね。彼が異形であったことは、もちろん認めます。しかし、それが孤独を呼んだとは言えません。孤高ではありましたが。
 以前紹介したビル・ロビンソンの自伝にもこうあります。
「…アンドレは誰もが言うように本当にナイスガイで、人間的にも最高だった。他人への悪口ばかり飛び交うアメリカのプロレス界の中で、おそらく誰からも悪く言われなかったのが…いや、みんなから愛されていたのがアンドレだった」
 これが本当のところではないでしょうか。
 日本人は排他意識が強いとか、異形を見て、自らが異形でないことを確認して安心する…たしかにそういう見方もあるかもしれません。しかし、異形はそのように好奇や嫌悪の対象になるばかりでない。羨望や尊敬や信仰の対象になることもあるんです。これは逆に日本人の美点でもあるはずです。
 誰でも指を差されて好奇の目で見られることには嫌悪を抱きます。彼がそういう人たちに対して冷たい態度をとったのは別に特殊なことではなく、人間として普通のことでしょう。そして、晩年肉体的限界からプロレスをリタイアし、牧場で動物とたわむれていた、というのも、別に人間から逃げたのではなく、多くのヒーロー、人気者のご多分にもれず、単に静かな生活をしたかったからでしょう。お金がありましたし、その夢を実現したというだけのことです。私もこうして山の中に逃げてきたではないですか。あまりに人気があるんで(笑)。
 彼はラッキーマンであり、いやもっと言えば、我々にとってたしかに近づきがたい「神」であったのかもしれません。最晩年の全日本プロレスでの馬場さんとのタッグは、これはもう「神」と「仏」の連携ですよ。神仏習合。本当に癒されましたし、眩しいほどの優しさに満ちていました。
 元名レフェリー、アンドレの盟友であったフレンチー・バーナードの言葉が良かったなあ。
「優しいやつだった。リングで戦っている時はいつも相手の体を心配していたよ。彼は誰も傷つけなかった。世界中の誰一人としてね」
 そういう人だったのです。ビル・ロビンソンも言っています。彼は本当のグッド・ワーカーだったのです。プロレスの基本、相手(仕事のパートナー)を傷つけない。相手を活かす。これに徹して、つまり他者を愛し続けて、そして愛されたのが、アンドレだったと、私は思います。
 そう考えると、そんな「神」を傷つけた前田日明という男は、つくづくお馬鹿な若者でしたね。まあ、そういう人もたまには必要かもしれませんが。
 番組中、あのミスター高橋がいろいろと語ってましたっけ。プロレスを壊した男、タブーを破ってしまった男が今さら何を、という感じでしたね。結局自慢話か?アンドレのラリアットを喰らったのも、あれって高橋本人のアイデアじゃなかったかなあ。
 ま、そのへんはいいとして、とにかく今回の森さんのカタリには違和感、いや不快感すら持ってしまいました。あれじゃあ、逆差別だよぉ。それって、森さんの嫌いなことじゃなかったのかなあ…。アンドレが浮かばれないではないか…そういう意味でちょっと切なくなっちゃいました。
 ただ、昨日の実相寺さんもそうですし、ここのところたくさん取り上げている多くの偉人たちがそうであるように、やはりこういういろいろな「カタリ」を生み、死後どんどん成長していくのが、本当の「神」なのではないでしょうか。死ぬまで成長し続けたという伝説も持つ男アンドレ。死後もどんどん大きくなって、今頃身長5メートルくらいになっているのかもしれませんね(笑)。

Amazon 私のこだわり人物伝 2008年6-7月 (2008)

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コメント

前略 蘊恥庵御亭主 様
懐かしい。懐かしい。
アンドレ・ザ・ジャイアント様は完璧な善人の
オーラでしたね。笑
愚僧の例えでは・・・ドリフの「ジャンボマックス」
のような存在でした。
「そこに居るだけで・・・楽しい 嬉しい 有難い」
そんな「御力」をお持ちであられました。
懐かしい・・・・その一言です。
あの陶磁× 当時に戻りたい。笑
まぁぁぁ・・・
昔懐かしの洋画・時代劇映画のDVD化もレンタルも
少なくなってきている昨今。
懐かしい想いは募る一方です。笑
愚僧など・・・勝手に名画だと思っている・・・
シャチの復習劇× 復讐劇「オルカ」
【多分 リチャード・ハリス主演】
ですとか・・ロバート・デュバル主演の
「組織」とか DVD化して欲しいと熱望いたして
おりますが 叶いません。笑
あれも これも 懐かしがるのも・・・・
「おじさん根性」の業なのかも知れません。笑
合唱おじさん 拝

投稿: 合唱おじさん | 2008.07.16 08:01

合唱おじさん様、こんにちは。
そうですね。
単に懐かしいというノスタルジーではなく、
それぞれの作品自体の質が高かったと思います。
というか、それぞれの人が濃すぎましたね、あの頃は。
なぜ、こんなに全てが薄まってしまったのでしょう。
やはり、「普通」教育のせいでしょうか。
私たち教育者の責任重大ですね。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.07.16 18:41

前略 蘊恥庵御亭主 様
御返事 有難う御座います。
御亭主様の申される通り・・・・昨今は
「薄味嗜好」の時代ですね。笑
社会全体が健康志向ですね。
1970年代前半ぐらいまでが・・・・
「濃味嗜好」・・・「本物志向」?
が残っていたのかもしれません。
「ウルトラQ」「仮面ライダーカード」
「吉本新喜劇」それからぁぁ・・・
「うしろの百太郎」「がきデカ・・・笑」
うぅぅぅん。確かに濃いですね。
不健康の匂いもいたします。笑
愚僧などは・・・今日では・・・・
「バカリズム」様・・・「おぎやはぎ」様
に期待いたしております。笑
合唱おじさん  拝

投稿: 合唱おじさん | 2008.07.16 19:07

合唱おじさん様、こんばんは。
昔の不健康やエログロは、健康や芸術の素でしたね。
無粋で野暮な大人が、そういうものを排除しちゃったんでしょう。
子どもの時はそういう洗礼も必要だと思いますが…。
なるほど、バカリズム、おぎはやぎ、面白いですよね。
でも、お笑い界も全体にスマートすぎる感じもします。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.07.16 20:38

丁寧な返答ありがとうございました。
非常に参考になりました。

投稿: 沙羅双樹 | 2008.07.16 20:52

沙羅双樹さま、どうもです。
いえいえ、どういたしまして。
またおいでください。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.07.16 21:11

前略 蘊恥庵御亭主 様
誠に くだらない愚僧の話に御付き合い
いただき 有難う御座います。
笑いの「スマート化」現象といえば・・・。
愚僧の人格形成を培った・・・
アカデミー賞も獲得した・・・
「トムとジェリー」のドタバタ爆笑アニメ。
ウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラ
の天才コンビの超名作です。しかし・・・
保護者方の「残酷表現がある」との
御批判を受けいれ「スマート化」
し「健全な表現」を打ち出した途端・・・
超駄作とあいなりました。笑
愚僧の暮しの指南書「爆笑ドリフ」
のコントにも保護者からの批判が続出しました。
やはり「不健全」であると。笑
愚僧の最も愛する爆笑時代劇「素浪人花山大吉」。
「爆笑」の源は森田新様方の名脚本と
近衛十四郎様と品川隆二様の奇跡的な
連続爆笑ドタバタ演技にありましょう。
そして その内容は・・・「全部不健全」。笑
「不適切表現」の音波× オンパレード。
愚僧にはそれが「一番」
「一番魅力的」でした。
合唱おじさん 拝

投稿: 合唱おじさん | 2008.07.17 14:14

はじめまして。第一回を見逃したのですが、アンドレの巻、いい番組でした。
アンドレの人となりや不思議な能力。
前田については、アンドレの方から前田にセメントをしかけていましたが、それを頼んだのは新日本プロレスらしいですね。あの当時は喜んでいましたが、なんてことをやらせたんだと今は思います。
その試合のレフェリーが、今ああして牧場を守っていて、アンドレの人柄を伝えたという事実に深い感銘を受けました。
森達也氏の解説もよかったです。
合掌。

投稿: アンドレ | 2008.07.17 14:56

合唱おじさん様、どうもです。
世の中が偽善ならぬ偽健全になりますと、
人間は不健全になっていきますね。
言葉狩りはまさに逆差別を生みますね。
教育現場なんかひどいもんです。
私は毎日不健全、不適切発言のオンパレードですが(笑)。


アンドレさん、はじめまして!
アンドレさん御本人からコメントをいただくなんて(笑)。
前田との一件は、それ自体「伝説」「神話」「物語」になっていますね。
フレンチーさんが一番困ったでしょう。
新日本…すなわち猪木なら、そうしてプロレスを内部から壊しかねませんからね。
まあ、それがあの頃のいかがわしさそのものかもしれませんね。
あれは何だったんだろう、というやつが最近少なくて…。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.07.17 18:37

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