『私のこだわり人物伝 大木金太郎』 森達也 (NHK教育)
知るを楽しむ…愛しの悪役レスラーたち 昭和裏街道ブルース 最終回
朝鮮半島出身の力道山に憧れ、故郷と家族を捨てて日本への密航を遂げた金一(キム・イル)「大木金太郎」の知られざる姿に迫る番組。
グレート東郷、フレッド・ブラッシー、アンドレ・ザ・ジャイアントと続いた、森達也さんが語る悪役シリーズの最終回です。先週のアンドレに続いて、大木金太郎をヒールとして扱うのはどうかという根本的な問題もありますが、しかし、冒頭に書いたように実生活ではたしかに悪役だったのかもしれませんね。特に家族にとっては。4人の子どもを抱えながら、突如夫に失踪された奥さんの苦労は並大抵のものではなかったでしょう。
2年前ですかね、大木金太郎が亡くなった時、韓国では国民的英雄の死として大きなニュースになっていました。時の大統領も何かコメントしていたように記憶しています。故郷を捨てた男が、なぜ国民勲章を得るほどの英雄になったのか、正直分からない部分もありましたし、今日の番組を観ても、そのあたりのことははっきりしませんでした。
もろちん、対日(反日)感情との絡みから考えなければならないのでしょう。しかし、どうもなあ、そこのところがつかみきれないんだよなあ…いつも。単純に、一人敵地へ乗り込んで憎き奴らを懲らしめた英雄、ということなんでしょうか。
そこで思い起こされるのは、昨日も少し触れた秋山成勲のことです。彼は今、格闘界のヒールとして、日本中から大きなブーイングを受けています。それは当然であり、いや私などは、なぜ彼がリングに上がれるのか全く理解できないわけですが、しかし韓国ではそれこそ国民的英雄になっているようです。彼は在日として日本に生まれましたが、オリンピック韓国代表を目指して韓国に就職しました。しかし、予想以上に本国での反応は冷たく、結局帰国して日本国籍を取ります。まさに祖国を捨てた男ですね。その時の韓国からのバッシングはものすごいものがありました。しかし、日本でヒールとなった瞬間、手のひらを返したように英雄視されるようなった…。
繰りかえしますが、そのへんの事情については、わかるようなわからないような、妙な感じなんです。韓国の対日感情も、大木金太郎時代からするとずいぶんと変わりましたから、秋山の件を大木と同じような意味合いで解釈するのもちょっとどうかと思いますし。それ以前にマスコミの伝え方が日本と韓国ではずいぶんと違うのでしょうね。そこは歴史教科書問題、あるいは最近の竹島(独島)問題なんかと一緒でしょう。伝え方、語り方が違えば、その溝は永遠に埋まらない。
さて、話を番組に戻しましょうか。今日の収穫はタイガー戸口さんの姿を久々に見られたことでしょうか。かつてジャンボ鶴田のライバルとして活躍したタイガー戸口さんも、なんとも人の良さそうな普通のおじさんになってましたね。彼も偉大な在日レスラーです。
戸口さんの記憶によって、森さんは韓国で大木金太郎の親戚に会うことができます。どれほど家族や親戚は金一を憎んでいただろうと想像していたところ、決してそんなことはなかった、偉大な人物として尊敬の対象となっていた、いや偉大すぎて近づきがたかったのだ…というのが番組のオチでした。そういう意味で、彼の人生自体がギミックであったと。それにまんまとだまされていたというわけです。そうして、再び「虚」が「実」になり、「実」が「虚」になるという、そういう複雑なプロレスや人生を素晴らしいものであるとして、このシリーズは終わりました。
番組的には、あるいはNHK的にはあまり突っ込めなかったのかもしれませんが、やはり、そのギミックというのは「人」以前に「国家」に存在するのだと思いました。我々はいつも「国家」に洗脳され、煽動され、自らの人生を意味付けされていく。あるいは他者の人生を評価していく。それはたしかに「虚」であり「実」であるのかもしれません。歴史問題もそうです。歴史とは「自己」と「他者」への意味付け、評価の集積にほかならないからです。
そんなことを考えながら番組を見終えました。国家とはメディアとは教育とは何なのか。また、日本の大衆文化を支える在日の存在とは。なせ彼らは日本にこれほど大きなうねりを作り出せるのか。人間の本領は、異分子としてある時、真に発揮されるのでしょうか。いや、真に評価されのでしょうか。難しいですね。
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コメント
> もろちん、対日(反日)感情との絡みから考えなければならないのでしょう。しかし、どうもなあ、そこのところがつかみきれないんだよなあ…いつも。
豊田有恒さんの本によると、韓国人の感情をはかるには、過去二千年間侵略され続けてきた国民であることを考慮する必要があるそうです。おおよそ二年に一度の割合で侵略されては、じっと堪え忍んでいたら今頃国が存在していなかったことでしょう。私が思うに、侵略に対し常に抵抗し、反発し続けることで民衆が結束し、存亡の危機を乗り越えてきた。それは受け継がれ、現在においては逆に反発する材料を見つけることで、結束しようとしている気がします。
竹島だか独島だか知りませんが、両国にとってストレス以外何物でもありません。しかし、日本にとっては単なる悩みの種ですが、韓国の場合、とても生き生きして私には見えてしまいます。
そろそろラッシャー木村さんについての記事が読みたいなと思って、ふと気が付きました。「庵主様なら既に記事にしておられるのではないか。」と。サイト内検索したら沢山出てきましたね。後で読ませていだだきます。
投稿: LUKE | 2008.07.23 17:28
LUKEさん、こんにちは。
そちらは暑いでしょう。
お子様の健康管理にはくれぐれもご注意下さいませ。
う〜む、お隣の国はいろいろと難しいですねえ。
島国ニッポンとはずいぶんと違う歴史的経緯がありますから…。
まったくおっしゃるとおりでして、なにかあのエネルギーを違う方向に使えないかな、なんて思っちゃいますよね。
ラッシャー木村さんは、今どうしておられるやら…なんの情報も得られません。
富士急ハイランド大会でお会いしてお話ししましたが、本当にいい人でした。
なんかジ〜ンとして涙が出そうになりました。
仏様のようなたたずまいでしたね。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.07.24 11:51