『俺たち文化系プロレス DDT』 高木三四郎 (太田出版)
今日の「DREAM.5」、ネットでリアルタイム観戦しました。1ヶ月前、初めて総合格闘技を生観戦し、そして酷評したわけですが、その「DREAM.4」以上にグダグダな内容でしたねえ、今回は。まさにお客さん不在のトンチンカンな闘いばかり。もう何も言えません。ただ、これはあくまでも私の趣味と哲学の問題ですので、もちろん命をかけて戦う選手達には敬意を表したいと思います。
それにしても、プロレスラー柴田のやられっぷりには正直ガッカリ。もう結果は見えていたわけですが、それでもなんだかなあ。またまたプロレスラー最強幻想は崩れ去った。なんとも夢のない世の中です。これでは物語は生まれません。ただ「強い者勝ち」「我良し」の世界なんて、何も面白くありません。市場経済的な勝敗論になれば、ギリギリの悪さをしたヤツが勝つに決まっているわけですから(まあヌルヌルは完全にギリギリを超えてましたが)、人間も世の中も醜くなる一方です。それを避けるための、人類発祥以来の智恵が「物語」であったのに…。
しかし、そんな殺伐として渇ききった現代に、豊かな物語を紡ぎ続けている素晴らしい人たちがいます。そんな彼らは、今いろいろな方面から大きな注目を浴びようとしています。
そう、それが高木三四郎社長率いるプロレス団体「DDT(ドラマティック・ドリーム・チーム)」です。「DREAM」には夢がありませんが(あるいは悪夢はあるかも)、こちらの「D」には本当に美しい夢があります。
少し前に告知!キャンプ場プロレスという記事を書きましたね。そうなんです、本屋さんやキャンプ場でプロレスをする…もうそれだけでなんだか分からん夢の世界ですよね…団体がDDTです。その高木社長さんが書いた本がこれです。
この本の冒頭、総合格闘技の試合でプロレスラーが負け続けた現実が語られます。ジャンルが違うわけですから当然の結果であると。そうした現実の中で、プロレスは「最強」ではなく「最高」を目指すべきであると。「強さ」だけが「最高」ではない。お客さんが興奮し、楽しみ、盛り上がるのであれば、プロとしてなんでもするというのが、彼らの基本姿勢です。
ですから、彼らの試合(興行)にはしっかりとしたシナリオやストーリーが仕組まれています。しかし、そこにまたプロレスならではのアドリブやアクシデントが微妙に加味され、生き生きとしたライヴな物語が作られていくんですね。「勧善懲悪」「起承転結」「喜怒哀楽」全てが揃った時、プロレスは最高になると、高木さんは言います。また「ファジィさ」すなわち「胡散臭さ」を大切にしたいとも。そう、フィクションとリアルの狭間、いわゆる「虚実皮膜の間」こそが「物語」であり、「幻想=ファンタジー」であるということですね。私も全く同感です。まさ我が意を得たり、です。
高木さんはアメリカのエンターテインメント・プロレスであるWWEの影響を強く受けています。日本同様、というか、日本に先駆けて「リアル」な弱肉強食を求めてMMAを発展させたアメリカで、WWEはいちはやく自分たちのプロレスが「物語」であることをカミングアウトしました。そして、ある意味開き直って徹底的な作り込みをした結果、MMAとの差別化にも見事成功し、大変な人気ジャンルとなったわけです。日本のプロレス界の惨状とはえらい違いですね。高木社長はそんなWWEにヒントを得つつ、しかしそこにいかにも手作り的な、よりファンと近い物語り方を導入し、大きな注目を浴びることになったのです。
その10年間には、高木社長はじめレスラー(兼スタッフ)たちの才覚と努力のあとが見え隠れします。高木社長はいろいろな分野のイベントを企画したり、テレビ関係に進出したりと、時代の最先端をゆくエンターテインメント界での実績があります。また、「マッスル」を企画運営して高い評価を得ているマッスル坂井さんの映像分野での腕前は、そちらの世界でも有名です。アントーニオ本多さんも、美大で演劇活動をしていた方ですし、とにかくそういう「文化会系」のセンスとテクニックを、伝統的に「体育会系」であったプロレス界に導入したんですね。それが功を奏していると。
もちろん、プロレスは本来「文化」と「体育」の競演(饗宴)であるべきです。それが「体育」に偏りすぎたんですね。もともと「スポーツ」という言葉にも、単なる「強さ」や「早さ」などを競うという意味以上の意味があったのに、どうも最近の「スポーツライク」は単なる「ガチンコ」を求めているばかりで、結果としてなんだか痩せ細ったものになってしまったんですね。相撲なんかにそういう「スポーツ」を求めたのは、いったい誰なんですか。まったくぅ。
では、彼らのプロレスはそういうある意味茶番的なものばかりかと言いますと、これがまた違うんですね。たとえば飯伏幸太選手なんか、まじでありえない運動能力で我々を驚嘆させてくれます。そうそう、今度彼はノアのジュニアタッグリーグに出るんですよね。中嶋勝彦選手と組んで。これは楽しみですよ。そして、その最終戦(決勝戦)日本武道館大会の翌日、道志村のキャンプ場でプロレス&バーベキューですから!まさにファンタジーだよなあ…総合格闘技の選手の皆さん、こんなことできますか?
また、多くの大物選手がDDTに参戦しています。メジャー団体との絡みもけっこう多いですし、そういう点からも、DDTのレスラーの皆さんが、ちゃんとレスリングもできるということがわかりますね。ビシバシと体育会系のこともしっかり出来た上で、あえて文化会系の要素も取り入れる。あるいは文化によって体育を統率制御する。うん、シビリアンコントロールだな、こりゃ(笑)。素晴らしい。
というわけで、私、この本読んで本当に感動しましたよ。私が求めているプロレス、いやもっとスケールの大きいエンターテインメント、物語、文化、そういう全てが入っている気がします。私はさすがにレスラーにはなれませんが(たぶん)、企画運営だったら、かなり得意なような気もします。いろいろアイデアも浮かびますし。今度、バーベキューの折に、高木社長はじめ、坂井さん、本多さん、飯伏くんと、マジでいろいろ話してみようと思います。楽しみすぎます。
本当に心から応援しますよ。頑張れ高木社長!頑張れDDT!そして頑張れプロレス!!
Amazon 俺たち文化系プロレス DDT
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