『少年スポーツ ダメな指導者 バカな親』 永井洋一 (合同出版)
おとといの『スポーツは「良い子」を育てるか』の続編。
タイトルはちょっと過激ですが、内容も…けっこう衝撃的です。衝撃的と言いますか、リアルと言いますか…。
今日は仕事上、ちょうどこの本の内容のような話をいたるところで聞きました。生徒から、同僚から、中学校の先生から、そして親から。
つまり、ここで紹介されている「ダメな指導者」「バカな親」というのが、非常に一般的であって、特殊な例ではないということです。私の実感もその通りです。
ここであえて言っておきますが、「ダメな指導者」「バカな親」というのは、「少年スポーツ」に限ったことではありません。いろいろな分野で観察される種です。さらに言えば、自分にもそういう部分があります。私も現代日本の「指導者」であり「親」であるからです。
『スポーツは「良い子」を育てるか』を読んだ時は、そうそう、少年スポーツの世界も歪んでるよな、自分はそういう指導者や親にはなりたくないな、と単純に思いましたし、今読むと記事もそういう論調ですね。
で、二日後の今日はと言いますと、また違った考えも湧いてくるのでした。
この本は合同出版から出ているということからも推測されるかもしれませんが、ちょっとあっちの香りがします。最初ほのかに香ってきて、それがある意味心地よかったのです。しかし、だんだんちょっと不快になってきた。私の場合よくあるパターンですね。
極論してしまえば、「教育者が絶対的な権力を行使し、子どもたちをしめつけ、ロボット化し、画一化するのはいかん。体罰なんてもってのほか。子どもの個性を生かし、自由に発想させ、そして彼らの自律と自立を促すのが理想である」という、どこかで聞いたことがあるような結論に至っているわけです。
そして、そういう論調のご多分にもれず、現状批判と理想の列挙はあれど、具体的な解決策が不足している。そういう気もします。勝敗、優劣を競うという命題と、その手段や過程とのすり合わせが、不備なんですね。
こういう議論というのが、「教育」の世界には無数にあります。ある意味、教育というのが、そういう矛盾の中にあるものだからでしょう。理想と現実の狭間にあり、道徳と経済の狭間にあり、心と体の狭間にあってフラフラしているものなんです。
今日もいろいろなところで感じましたよ。体罰を完全禁止したら、荒れ放題に荒れて、いまや生徒より先生の方が登校拒否の数が多い学校の話とか、厳しい学習指導の結果、数人が休学や退学に追い込まれた学校の話とか、親が徒党を組んで職員室に乗り込んできた末に物を壊して帰った学校の話とか…いやあ、ウチの学校は平和だなあと思いましたね(笑)。
とにかくですね、そういう微妙な位置にある「教育」においては、原理主義になることが一番いけないことなんです。さらに、原理主義を完全否定することもまた原理主義であるということも、忘れてはならないと思います。そこが日常的には難しいわけですが、結局は、「微妙」であることが本質である、ということを常に意識せよ、ということになりましょうか。
人間はそういう「モノ」ですし、教育もそういう「モノ」です。一方、理想や理念、思想や主義は「コト」。お互いあんまり「コト」にこだわりますと、すぐにケンカになってしまいますよね。あるいは「コト」に酔っていると、現実の「モノ」に置いてかれちゃいます。子どもは「モノノケ」ですから。
一方で、そのモノノケちゃんたちは案外タフなので、いかなる教育を受けようとも、それなりに成長していくものだったりします。環境に多少の理不尽があった方が、正常に自己を形成するというケースも多いようです。逆に、なんでも子ども主体、個性のびのび的な環境が不幸な大人を育てることもある。そういうものなんです。だから「指導者」や「親」は難しいし、面白いのでしょう。
…と、なんとなくまとまらず、そして奥歯に物が挟まったような言い方ですみません。しかし、これが教育現場の実感であり、「指導者」「親」としてのフラフラ感の実像であります。
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コメント
常習的に覗き見していましたが、初めてコメントさせていただきます。
少年スポーツやら何やらで「指導者」みたいなことをしていますが、理想と現実は離れるイッポウデス。理想は中道なのですが、いろいろ入り乱れてトンでもない方向に進みつつあるようです。 お酒飲んで忘れるようにしています。ダメですね。
投稿: 豚珍漢 | 2008.06.13 18:25
豚珍漢さん、はじめまして!
というか、たぶんお会いしたことありますよね…たぶん。
いずれにせよ、覗き見&コメントありがとうございました。
まったく、つらいっすよね。
たしかに中道を目指したいのですが、私もダメですねえ。
キャラはなかなか変えられそうにありません。
ただ、学校はいろんな先生(指導者)がいて、全体としてバランスが取れるところですので、もう最近は開き直って、私らしく「ハッタリ、チャッカリ、ボッタクリ(?)」を押し通してます。
今度、いっしょにお酒飲みましょうか。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.06.13 20:32
子供はタフなんですね。信じてみます。感謝です。
投稿: 鈴陀 | 2012.11.05 17:32