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2008.06.23

『富士山噴火』 鎌田浩毅 (講談社ブルーバックス)

ハザードマップで読み解く「Xデー」
Fujisanfunka 士山に住んでおります。いつかも書きましたが、郵便物は「郵便番号 富士山 氏名」で届きます。そんなところに住んでおりますので、それなりの覚悟もしっかりできています。そしてそれなりの対策もしっかり…できてないなあ。
 まあ、いちおう情報網だけはそれなり以上に持っていますので、突然噴火に襲われるという可能性は低いでしょう。それでも分かりません。この本でも紹介されているセント・ヘレンズのような例もありますからね。その時はその時。
 富士山の噴火に関する最近の良書はこちら石黒耀さんの小説「昼は雲の柱」がありました。これはあくまで小説でありますが、しかしファンタジーとアカデミーのバランスがよく、右脳と左脳双方が激しく刺激されました。
 京都大学大学院教授であられる鎌田さんのこの本、冒頭4ページはなんと小説仕立てなんですが(導入として奏功しています。たぶん、鎌田さんも一度は小説的に書きたかったのでは)、あとは延々とアカデミックな世界です。そのアカデミックな感じが実に心地よい。本当に淡々と火山現象と被害ごとに解りやすい記述が続いていきます。文章にムダがなく冷静、しかし時に読者に語りかけるような口調にもなり、論文を読んでいるような堅苦しさは感じません。時々挿入されるマップや写真(多くがカラー)が記述にリアリティーを与えています。
 富士山の噴火に関する本やテレビ番組と言いますと、注意や興味を喚起するというよりは、不要に恐怖や心配を煽るようなものが多くなりがちです。そう、私たち人間は負の集団気分で結束していたいという変な生き物なんですね。それにこたえる商売(メディアや宗教)が成り立っちゃうんです。まあ、能天気で無防備よりは心配性の方がいいのかな。基本動物って本能的にそうできているのかもしれませんが。
 この本は、サブタイトルこそ「Xデー」などとして、そうした風潮に迎合している感もありますけれど(それこそ商売ですからしかたありません)、内容は実に立派な啓蒙書となっています。そのあたりのスタンス(善意)はブルーバックスらしいと言えるのかもしれません。
 この本は基本的に、2004年に発表された富士山ハザードマップの解説書だと考えてもいいでしょう。あのマップはなかなかよく出来ていると、私も思いますが、しかしシロウトには誤読の可能性もけっこうあります。あるいは読解自体面倒くさいという話もよくききます。地元では各戸に配布されているんですけど、みんな、自分のウチが赤い色の中にあるかないかぐらいしか確認せず、「まあその時はその時だ」みたいな片づけ方をしてしまっているんです。
 そういう意味では、この本を配布した方がいいかもしれません。正しい知識こそが防災の基本ですからね。たとえば、火山灰と言った時、一般にはタバコの灰のようなものをイメージしてしまうと思いますが、実はあれがガラスの粒だということは案外知られていません。灰が積もっても、まあマスクして雪かきみたいなことすればいいんじゃないかと思っています。しかし、実際にはそうしたガラス粒が自動車やコンピュータに入り込んだり、あるいは水分を含んで凝固してしまったり、あるいは乾燥していても風で常に舞い上がったりして、とんでもなく厄介なものなんですね。そういう事実はマップからは誰も読み取れないわけです。
 そういうことを最新の研究成果と、外国や国内での実際の被害例を示すことで、実にわかりやすく解説してくれています。そして、先ほど書いたように、単に恐怖や不安を煽るような記述ではないので、比較的冷静に「こうしよう」というシミュレーションができ、逆に安心を得ることができます。
 ウチのあたりは、火山灰はもちろん、火山弾や火砕流のおそれもあり、場合によっては2時間くらいで溶岩が到達するような地域なので、まずは逃げることが先決となります。あとはもう保険に入るくらいしか対策はないでしょう。ここまで来ますと、逆に覚悟ができるといいますか、悟りの境地といいますか、そんな感じになっちゃいますね。とにかく逃げるが勝ちですので、その手段だけは確保しておこうと思います。
 「よくそんな、世界の中でも特に危険とわかっている地域を選んで住んでるねえ、バカだねえ…」とその業界の方々に笑われますが、非日常的な危険よりも日常的な恩恵の方が圧倒的にその絶対量が多いと信じていますので、「まあなんででしょうねえ、危険な女に惹かれるのとおんなじじゃないですか」とかテキトーに答えています。質問者の「笑い」の中に、ちょっとした羨望の表情も読み取れますので。ハハハ。虎穴に入らずんば虎児を得ず。

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