『国語政策の戦後史』 野村敏夫 (大修館書店)
俺を常用漢字に入れろ!…と俺様が吠えております。ワタクシも賛成です。なにしろ「俺様」ですから。むか〜し、記事にしましたっけ、新明解国語辞典の「俺様」の項。久しぶりにまた引用してみましょう。
おれさま【俺様】(代)〔口頭〕偉大な力を持っているおれ。
う〜ん、いつ味わっても絶品ですなあ。素晴らしすぎます新解さん。で、その偉大な俺様でさえ、自らを「おれ」と仮名書きしなければならないのは、「俺」が常用漢字に入っていないからでしょうか(違うかな?)。まあいずれにせよ、こんな大切な言葉を漢字で書けないなんて、とんでもないことです。なにしろ自分が一番大切に決まってますからね。神より天皇より自分ですよ。
こういうとんでもないことを決めるのが政治の力です。この場合、どういう政治力が働いているかと申しますと、民主主義が行きすぎまして、国民それぞれが「俺様」を主張しすぎますと、これはもう国の政治が立ち行かなくなりますから、それを水際で防ぐために、ギリギリ名乗れない状況を作ってですね、そうして国民の真の力を削いでいるわけです。「俺様」より「おれ様」の方が、どう考えてもソフトになってしまいます。これが、国語における政治力です(笑)。
というわけで、いや冗談はさておき、珍しく仕事関係の堅い本を読んでいます。というか、読まねばならぬ状況です。秋にこんなようなテーマでちょっとしゃべる予定があるので。勉強、勉強。
私のような破格な(?)国語教師でさえも避けられない事実…「国語」とは政治的に作られたフィクションである、ということ。はたしてどれほどの国語教師がそれを意識して教壇に立っているのだろうか(もう教壇なんてほとんど絶滅してるか)。
…と、それも冗談でして、実は、先日も書きましたが、私は生まれてこの方「方言」というものを一切持ったことのない「国語人間」です。ですから、そんなこと意識せずとも、常に国語で語り、国語で思考し、国語で教えているんです。まあ、そんなんだから、逆に「国語」の不自然さ、気味悪さを日々感じているのかもしれませんね。
これは大問題です。なにしろ自分のアイデンティティーに関わることですから。言ってしまえば、私の母語が「国語」だということですからね。母語が「政治的フィクション」であると。これは非常にやばい状況ですね。私は国家の傀儡か?
で、今そう書きながら思ったんですが、たとえばこうして書いている文章は、決して教科書的じゃないじゃないですか。「やばい」とかフツーに使ってますし。フツーとか書いてますし。いわゆる2ちゃん用語を始めとするネット語や流行語を比較的躊躇なく使っていますし。
ああそうそう、この本を読みまして初めて知ったんですが、「フツー」のような「棒引き仮名遣い」、明治時代には小学校で正式な仮名遣いとして教えられていたんですね。「ラッパ ヲ フイテヰル ノ ハ タロー デス」のように。ううむ、結局「国語」の域を出ていないということか…orz。←「orz」はさすがに教科書で使われていませんね。いや、100年後にはわからんぞ(笑)。
まあ、それもまたまた冗談として、そうして私は、自らのフィクション性と戦っているような気もします。そうかネット方言を使ってるのか。ネット世界というある意味辺縁の文化構造の中の方言を使うことによって、抵抗しているのかもしれない。いや、あれこそ実は中央集権的世界ではないか!たとえば2ちゃんでの言語統制のすさまじさたるや、学校より何より過激である!との声も聞こえてきそうですね。
この本は、そんな(?)国語政策の具体的内容が列挙されています。これだけまとめて見ますと、さすがに異常な感じがしますね。教育の現場を通じて、(コロコロ変る)共通語を広め、国家というフィクションを作り上げようとする感じがビシビシ伝わってきます。
言語という「コト」によって、政治や国家という「コト」が形成されていく感じがよくわかりますね。昔で言えば「ミコトノリ」ですよ。もちろん、こんなことは当たり前で、世界的に見ますと、日本はまだ甘いんでしょうが。
ああ、なんかこの本を読んでいますと、自分の根無し草具合にガッカリしてしまいますね。もう山梨で四半世紀以上暮らしていますけれど、ほとんど甲州弁しゃべれないもんなあ。江戸言葉もダメ、静岡弁もダメ、秋田弁もダメ。全部リスニングはなんとかなるが、スピーキングができない。英語もそうだな。先日のカミさんの秋田弁での交流を見ていて、なんか自分がむなしく感じられましたよ。実は誰ともちゃんと会話してないんじゃないかと。
でも、現場で強く強く感じます。最近、生徒が方言を使わなくなった。ここ、5年くらい、それが顕著です。国家の(私の?)国語政策がうまく行ってるんでしょう。単にメディア言語がマザータングを駆逐してるんでしょうか。悲しいような、ちょっと安心するような…。
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