『木食白道 知られざるもう一人の木食』 (山梨県立博物館)
春の『木喰展−庶民の信仰・微笑仏』に続いての企画展。
白道は今から250年くらい前に今の甲州市(旧塩山市)で生まれた方で、師である行道とともに全国を廻国行脚した木食僧です。
たしかに師木喰行道に比べると「知られざる」存在ですね。私も正直名前しか知りませんでした。お作品を拝見するのは今回が初めてです。閉館間近の時間帯だったため、少し急ぎ足での拝観でしたが、心を打つものがありました。
偉大かつ個性的な師と比較すると、やや地味な印象をぬぐえませんが、逆にそこに魅力を感じましたね。なんといいますか、師を心から尊敬し、慕い、支えた様子が、それぞれの像から感じ取れます。たしかにスタイルの基本は師のものを継承していると思います。しかし、そこには単なる模倣にとどまらない…いや、おそらく意識的に師の真似を避けたのではないでしょうかね、その一歩下がった感が、こちらの心を静め和ませます。
ていねいに丹念に造形していく師の作品とは違い、より素朴でシンプルな印象を与えます。かと言って円空仏のような荒々しさはありません。サイズ的にも小振りなものが多く、そんなところにも謙虚さがにじみ出ているような気がしました。
師木喰行道と弟子木食白道とは、40くらいの歳の差があったということですね。師とともに東北を行脚した頃、白道は20代、行道は60代でしょうか。いくら異様なバイタリティーを持った(笑)行道と言えども、当時としては後期高齢者の域に入ろうかという年齢です。きっと、青年白道が師をいろいろな面でサポートして歩いたことでしょう。まあ、行道のことですから、まだまだ若いもんには負けんぞ!とばかりハッスルして造仏に励んだかもしれませんね。しかし、それもある意味白道のサポートと言えましょうか。
白道も師の熟達した技能を拝しつつ、しかし自らはあえて若さ溢れる作風を目指したのかもしません。そういう意味では、彼ら二人は師弟関係以上の良いパートナーシップを保っていたのでしょうね。
今回の展示には、師と同様に個性的な六字名号がありました。師の利剣に対して、白道のそれは笹書きです。これまたシンプルで素朴。利剣はいかにもアヴァンギャルドな先鋭性を持っていますが、こちらは柔らかさの中の切れ味とも言うべき、秘めた強さがありましたね。白道はこの種の名号を多く残しているとのことで、やはり師の「剣」に対して意識的に「笹」を使ったのでは、と思わせました。
と書いてきますと、案外、謙虚さの中に秘めた強い意志があったのかもしれませんね。師をライバルとまでは思わないにしても、二番煎じにならないぞという気概のようなものはあったのかもしれません。
作品中、特に印象に残ったのは、宇賀神像でしょうか。弁財天とも習合し、蛇頭人身の姿で表されることの多い宇賀神ですが、このように円筒状のデザインのものは初めて見ました。たいがい「ウンチ型」(笑)の表現になるんですけどね。これはちょっとカワイイ(萌え)かもしれない。
あと、展示物の中に、「木食白導一代記」という古文書がありました。大変保存状況の良いもので、かつ美しい文字で書かれた文書でした。情報量も多そう。しかし、まだ解読されていないとはちょっと意外。ヒマがあれば読んでみたいところです。
関東甲信や北海道では、その作品が多く確認されていますが、東北などにはまだまだ眠っている作品があるんじゃないでしょうか。これからの研究に期待注目したいと思います。
そのほか、一木から仏を彫り出す作業の意味についても考えましたが、それについてはまたの機会にいたしましょう。長くなるので。
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コメント
前略 蘊恥庵御亭主 様
いつも 拝読させていただき・・・・
的確な視点に感服いたしております。
白道様と木喰様 最高のコンビですね。笑
木喰展の図録の文章のなかには・・・
白道様が最初に木彫りを創めて・・・・・
木喰様が それを御覧になって・・・・・
「こりぁぁぁ・・・おもしろい」
とお始めになったと記してありました。
まぁぁぁ・・・詳細は愚僧には興味が
ありません。苦笑
画面上の御写真で拝見いたしましても
白道様の作品は とても 素晴らしいですね。
ひとのこころをうつ「作品」をものに
できる御方様に こころから尊敬の念を
感じる愚僧であります。 合唱おじさん
投稿: 合唱おじさん | 2008.06.14 09:14
合唱おじさん様、おはようございます。
白道さんが先ということですね。
そうだとすると、また面白い二人の関係になりますね。
年齢の差を超えた仏縁ですね。
感動的です。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.06.14 09:59