『スポーツは「良い子」を育てるか』 永井洋一 (生活人新書 NHK出版)
私はこれでも、昔は野球部に所属し投手をやっておりました。今や誰も信じません。完全な文化会系と思われることが多いんですね。ま、それも致し方ありません。このブログでもスポーツのカテゴリーはほとんどプロレスの話。プロレスをスポーツとすること自体、問題があると言えますし。今はほとんどスポーツらしきことをしていません。せいぜいエックスバイクをこぐくらい(笑)。ま、実際、気が向いた時に生徒とキャッチボールをしたり、ボウリングに行ったり、家族でスキーをしたり、くらいのものですかね。
そんなわけで、体育会系成分が微量にしか含まれていないワタクシではありますが、仕事柄体育会系の若者と接する機会が多くありますし、またそれと同じくらいか、あるいはそれ以上の頻度で文化会系の若者とも接しておりますので、それらの特徴や違いなどはよく分かっているつもりです。ですから、この本も大変興味深く読めましたよ。また、スポーツに限らず、趣味や習い事はどうあるべきか、まじめに考えさせられました。
よく授業中にこんな問いかけをします。「将来、世界がスポーツの国とオタクの国に分かれたら、どっちに住むか」。もちろん、シャレですよ。でも、生徒の中には真剣に悩むヤツもいます。もともとオタク(文化会系)の諸君は、これは迷わずオタクの国を選びますね。で、悩むのは体育会系の連中なんです。
いくらスポーツが得意でも、70、80までスポーツばっかりやってるワケにもいきませんし、あるいは、今現在のスポーツをしている状況(ほとんどがクラブ活動)が正直辛くてしかたない生徒もいるわけです。たしかにあの厳しい練習を勉強の合間にやる(逆かな…クラブの合間に勉強をするかも)のは、そりゃあ大変でしょう。心から彼らを尊敬しますよ。いくら若いからといって、あれはきついだろうなあ。
そんなわけで、彼らのうち約半数は結局オタクの国の住人になります。同じ得意なことを楽しむのにあたって、スポーツはきついというイメージがあり、オタクの方は楽で楽しいというイメージがあるのはなんででしょうね。実際はオタク道も厳しく辛いものなんですが…(笑)。
この本ではそのあたりの実情、つまり少年スポーツの悪しき実態や、そこから生じる様々な悪影響が紹介されています。もちろん、一方的な批判ばかりでなく、メリットや問題に対する対策も記されていますよ。しかし、全体としては、子どものためと言いつつ、結局彼らの体と心をゆがめてしまっている大人たちへの強い糾弾となっていると思います。
そして、これは実は少年スポーツに限った問題ではないわけですね。大人の世界、あるいはプロ・スポーツの世界でも考えねばならない問題なんです。たとえばプロ・スポーツ界での精神論や、そこから派生する「しごき」的なトレーニング…相撲をスポーツととらえていいか微妙ですけど、それが事件にまで発展することもある…、もうこれは時代遅れであるとはいえ、皆無とは言えないと思います。
もうすぐオリンピックがありますけれど、そこでも、単純な勝敗論、あるいはナショナリズムとの関係、ドーピングなどの倫理問題など、いくらでも問題は挙げられます。そうそう、去年読んだ「スポーツとは何か」がそのへんに詳しく分かりやすかったなあ。
問題はいろいろありますが、たしかに学校や会社という組織においては、体育会系の方が高く評価される傾向がありますね。ぶっちゃけ話、教育現場的、すなわち先生的に言いますと、これはたしかに体育会系の方が扱いやすいことが多い。彼らは大概(表面上の演技にせよ)礼儀正しいですし、根性もあるし、さわやかなイメージを与える。第一、体力と時間とをスポーツのトレーニングに取られていて、悪さをするヒマすらありませんから、それはたしかに「良い子」ではありますよね。
しかし、一方で、やはり現場的に申しますと、こういう事実もあります。そういった大変な演技と作業にいそしみつつ、圧政(?)に耐え、仲間を敵と思い、自らの能力に劣等感をおぼえ、親の過度な期待を裏切る苦痛やらなにやらにさいなまれながら、次第にストレスをためこんでゆき、そして突然崩壊する…これはずいぶんと極端な例ではありますが、全くのウソではありません。
実は、こういうことはスポーツに限らずあることですよね。勉強に関してそういう環境にいる子どももいますし、楽器のレッスンにおいて、こういう状況にある子どももたくさんいると思います。
それを乗り越えて立派な大人(社会で重宝される人)になる場合もありますけれど、逆に先ほどのように崩壊してしまったり、あるいはそこまで行かなくとも、得意で大好きだった「何か」が嫌いなものになってしまったり、そういうことってありますよね、いろんな分野で。
私は、地元の子どもたちにヴォランティアでヴァイオリンを教えています。それもかなり緩いやり方で。基礎的な訓練すらせず、ひたすら一緒に合奏する中で、技術も習得していくようにしています。自分で言うのもなんですが、けっこう好評だと思いますよ。別に皆さんプロを目指しているわけではなく、一生の趣味が出来ればいいという考えてやってますから。親も子どもも。もっと厳しいやり方、プロを目指すようなやり方をしたければ、そちらへ行けばいいわけですからね(なぜか誰も行きませんが)。
本当は、スポーツも音楽も、我々が幼い頃、家族との会話の中で言語を習得していったように、楽しく自然に身につけて行けばいいと思うんですね。そういう中で、とんでもない才能と意思と根性を持ったヤツを見つけたら、それなりの方向に導いてやればいいような気もします。
一番いけないのは、子ども本人の意思を無視して、親が自分の自己実現の道具として子どもを使うことでしょうか。あるいは、監督とかコーチの自己実現、あるいは国家としての自己実現のためにね。それはほとんど暴力の世界であり、いじめの世界となんら変らなくなってしまうと思いますね。
長くなりましたが、最後に一つ、大変に感銘を受けた冒頭の「はじめに」の部分を紹介します。昨日考えた「利他」の欲求の本質がここにあるなと思いました。
鳴戸親方(元横綱隆の里)は横綱になった時、「なぜ相撲を取るのか」「何のために相撲を取るのか」という哲学的な自問を繰りかえしたそうです。到達した答は…「それは愛だったね」。
そう、隆の里関は、それまでお世話になった無数の方々への報恩こそが、相撲(自らの仕事)の本質であることに気づいたのです。これは実に仏教的な発想ですね。美しく重い言葉であります。
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コメント
前略 蘊恥庵御亭主 様
愚僧も えぇぇぇ・・体力トレーニングは好きです。
しかし 長続きはしません。笑
基本的傾向といたしましては・・・・
やはり「三日坊主」です。
それでも・・・・
「称名礼拝」などは・・・・本堂にて・・・
体力維持や発声(複式呼吸)や血圧やコレステロール
の安定の為に一応 欠かさずにやっております。
あっ・・・信仰の維持の為にも・・・苦笑。
文化の方面・・音楽・楽器は・・・うぅぅぅん。
尺八や二胡や三線は・・・完全に素人遊びです。
出鱈目流・・・遊戯三昧です。笑
歌謡曲や演歌を尺八で滅茶苦茶に吹いております。
音程は・・・・全く滑稽であり出鱈目です。
うぅぅぅん。
壊れたバイオリンは弦を一本にして・・・
弓やピックで奏でております。苦笑
ギターの弦も・・現在 二弦しかありません。笑
まぁぁぁぁ・・・
それでも 家族は愚僧の雑音を楽しく聴いてくれています。
本当・・・本当に 家族には感謝いたしております。
まぁぁぁぁ・・・
楽器は本来・・・「楽しい器」ですから・・・・
少々壊れていても兵器× 平気ですね。
楽器の弦も学校教育も一緒で・・・・
張りすぎても・・・緩めすぎても・・・
良い結果は出ないようです。 合唱おじさん
投稿: 合唱おじさん | 2008.06.11 17:33
合唱おじさん様、いいじゃないですか。
声を出すのが一番いいですよ。
それから、楽器もいろいろと…が一番です。
いろんな楽器をそれこそ楽しくいじっているのが一番いいですよ。
私も全く同じです。
安い楽器をやたらと買っていじり倒し、弦が切れてもヘーキで舞台に上がってます(笑)。
でも、そういうところから、学ぶことが多いですね。
まさに「もの」が教えてくれる。
弦の張りすぎ、緩めすぎの話は、本当によくわかります。
一番よく響くテンションというのがあるんですね。
そして、それが一番長持ちするテンションだったりするんです。
人間も同じですよね。
そこを見極めるには、やっぱり何本か切らないといけません。
若い時は仕事上もいろいろと失敗しましたねえ。
悪いことしました。
最近ようやく加減がわかってきた…かな。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.06.11 18:28