BUMP OF CHICKEN『ギルド』の歌詞について(その2)
さて、昨日の続きです。昨日の前半部分だけでも、ずいぶんと異論が飛び出しております(笑)。それで大いに結構です。その考える行為、批評する(批判じゃないですよ)行為こそ、この歌の中で藤原くんが望むものに違いありませんから。
というわけで、気にせずどんどん行きましょう。後半です。後半は、これは本当に勘違いしがちですね。まるで、社会からのけ者にされたニートやらひきこもりやらの歌だと思っている生徒も多いようです。私は逆だと思いますが。言葉の顔だけを見ていても解りませんよね。もう一歩踏み込まなくちゃ。
2番のはじめ「腹を空かせた…」のところですが、まず申しておかなければならないのは、この2行は1番の後にくっついているということです。音楽的には2番の最初から新しい内容になるような気がしますが、詩としては「人間という仕事」というフレーズが一つの区切りになっていることを確認しましょう。
さあ、「腹を空かせた…」ですが、こういうマイナスのイメージ(顔)が並ぶと、それこそちょっと辛い生活をしている人なんかは「あっ、オレのことだ」とか思っちゃうんじゃないですか(笑)。
これは、私には、どちらかというと普通に社会生活を送っている人のことを言っているように思えるんです。昨日も書いたように、社会の中でまともな大人として生きるということは、ある意味自分を殺して、抜け殻になって、能動的ではなく受動的に生きることになりますよね。そして、多くの人に囲まれニコニコ悩みもなさそうに生きているというのは、裏を返せば、本来必要としているモノを手に入れられず、しかしそれに気づくこともなく、あるいは気づいても言い出せなくている状態とも言えます。そういうまともな大人としての自分が出来上がってしまっているから、そこからなかなか抜け出せないんですね。これは私もいつも感じていることです。まともな社会人として(笑)。
いいですか。ここは、非社会的な状態ではなく、逆に社会的日常的な状態を歌っているんですよ。そして、次の一節から様相が変わっていきます。このあたりから、言葉が時間や空間を自由に動き回りますから注意が必要です。
まず、「人間という仕事」をクビになるという意味ですが、これは今まで見てきたように「人間という仕事」自体が良からぬものであるという前提ですので、それをクビになるというのは、結果良いことになるわけです。社会性という枠の中では「クビになる」というとマイナスのイメージを持つかもしれませんが、実際には、ここまでずっと書いてきたような、気が狂うほどの社会の不自然さに気づいて、それに対抗する姿とも言えます。まあ、イメージ的には「こんな会社やめてやる!」って辞表を叩きつけるような感じです(笑)。「なんだか知らんが、汗水垂らして努力とやらをさせられてただけじゃねえか!」って。
それで、なんでそういう暴挙(?)に出たかという理由が次に述べられてるんです。「思い出したんだ 色んな事を」…これは、3ヶ月ほど前に授業でやりました「茜色の夕日(フジファブリック)」に見る「もの」と「こと」の冒頭、志村くんの「思い出すものがありました」と対照的な表現ですね。二人の詩人としての性格の違いをよく表しています。どちらが優れているとか、そういう次元の問題ではなく、大変に興味深いコントラストです。そのへんについて書き出すと、また私の「モノ・コト論」になってしまうので割愛…ええと、そうです、忘れていたモノを思い出したのでコトなんですが(ついでに「する(思い出した)」と「ある(ありました)」との対比も…それについてはこちらの本参照)、それはいいや…とにかく、本来のことを思い出したのがきっかけで、辞表を出しちゃったわけですね。これは辞めさせられたんじゃなくて、自分の意志で辞めたんですよ。そこが重要です。
ただ、多少迷いもありますし、リハビリも必要かもしれません。本来のコトはとっても眩しいものなので。ものすごく大切なので。だから、ちょっと躊躇して「向き合えるかな」と言っている。ひきこもりが外に出て眩しいと思うのとは全然次元が違いますよ(笑)。変な共感しないように。
さて、次。次も前節につながっていますから注意。社会性からの脱出における迷いの続きです。皆さん、「美しさ」とか「優しさ」とか、それらって絶対的なものがあると思いますか。ありませんよね。これこそまさに社会的に決められた約束事みたいなものです。それを一度投げうって生きるのは、とっても勇気のいることです。本当にそれで生きていけるのか?こう思うのは当然でしょう。なにしろ、「美しさ」や「優しさ」が、まるで神や貨幣のように流通している世界で生きてきたんですから。
次はまた別の話です。これはまだ社会の側にいる人間に対して、あるいは過去の自分に対して言っている言葉です。実際まともな社会人である私は、「その場しのぎで笑って」ばかりいます。鏡の前で泣きはしませんが(笑)。そういうホントのことを私たちは無意識のうちに隠して生きていますね。たしかに。そういう矛盾に、自分自身にも人にも気づいてほしいのに、気づけなくなってしまうのが、それが社会の魔術であり、ある意味我々はその魔術に洗脳されて、そこに属することを許されているんです。そうして、夜になって寝て朝に起きる日常に取り込まれていく。
次の「檻」は、今までの流れからわかると思いますが、決してひきこもった状態を表したりするのではなく、社会という枠、システム、ある意味宗教のようなもののことを言っているわけです。それに気づいてちゃんと表現し行動している藤原くん(というか、この詩の作者)が、そんな窮屈な檻から、我々を救い出そうとしているわけですね。詩を通じて歌を通じて。
もう我々は社会で生きてしまった。これは事実である。だからそうして本来の自然状態ではなく汚れてしまっているのだけれども、しかし、それを否定するのではなく、しっかり受けとめた上で、さらに次のステージへ行こうと。彼は向こう側(高いステージの上)から、そう叫んでくれているんです。
汚れてしまった(社会性を持ってしまった、あるいは大人になってしまった)自分に気づけ。しかし、それをやみくもに否定したりするのではなく、それを前提にして次の人間的ステージに行くべきだと歌っているんです。
これは冗談でなく、お釈迦さまのおっしゃっていることと同じですね。お釈迦さまも出家する前、王子として俗世間(社会)の栄華を極めていました。つまり汚れきってしまっていたわけです。しかし、結果として、お釈迦さまはその穢れのおかげで悟りを得ることができた。賢い人間はそうして前に進みます。
それも全て気が狂う程まともな日常…それ「も」です。そう、そういう崇高な行為もあくまで社会という日常の中で行なって意味があるんです。誰かのように解ったようなふりをして、自分を殺したり、他人を殺したりするのは、最も間違った行為ですね。お話になりません。
エンディングの独言のようなリフレイン。ここに今までの総まとめがあります。
我々は自然状態で生まれた。そしていつか「人間という仕事」を与えられた。そして自らクビになった。「何してんだ」…これは、迷いの自問かもしれない。あるいは向こう側からこちら側の人に呼びかけているのかもしれない。そして、最後「望んだんだ」「選んだんだ」…自ら感じ、決し、次のステージに進んだことをちゃんと表明しています。「仕事ではない」ことを「解っていた」から、そしてそれをちゃんと行動という形にしたから、今の作者の姿があるわけです。
このように読んできますと、この詩が非常に前向きな内容であるということがわかりますね。ただ単に思うように生きろとか、そういう単純なものではない。もっと高次元な詩です。だから、ああいう真に美しく優しい音楽が与えられ、そしてあの社会性を超えた親子の愛を表現した人形劇が与えられたのだと、私は信じています。かえすがえすも素晴らしい作品だと思います。
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