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2008.05.29

伊藤秀志 『御訛り』

411checbbvl_sl500_aa240_ れはネタを完全に超えています。正直美しい。カミさんは大笑いしてましたが、私は「まんずさっぱりわがらね」から、この「外国語」の美しさと伊藤さんの温かい歌声に感激してしまいました。
 まずは有名な「大きな古時計」のサンプルをこちらで聴いてみてください。
 東北弁(特に秋田弁)を日常使っている方には、最初からこれが日本語であるとわかるかもしれませんが、他の90%の日本人には、これはフランス語に聞こえるかもしれません。伊藤さん本人も多少はそのあたりを意識しているかもしれません。彼の声質がそれに似合っていますし、まあもともと秋田弁の音韻はフランス語のそれに似ている…ウチのカミさんなんか秋田弁で近所のフランス人シェフと会話してますからね(笑)。
 今では中部地方を代表するシンガー、そして人気ラジオ・パーソナリティーとなっている伊藤さん、ウチのカミさんの故郷の隣の隣の町の生まれの方です(「の」がたくさんあるな)。ですから、カミさんはほとんど全て理解できる…かと思うと案外そうでもなく、歌詞カードを見て初めて大笑いというケースも多々あるようです。ま、英語のネイティヴでも英語曲の歌詞はもちろん全部聴きとれない…とマーティ・フリードマンも申しておりましたっけ。
 このアルバムに収められている曲目は次の通りです。

1. 夢の中へ(ZuZuバージョン)
2. 東京(ZuZuバージョン)
3. 赤ちょうちん(ZuZuバージョン)
4. 案山子(ZuZuバージョン)
5. BROKEN-HEART
6. SA・SYELE-TA
7. 亜麻色の髪の乙女(ZuZuバージョン)
8. サボテンの花(ZuZuバージョン)
9. SYMPHONY
10. 大きな古時計(ZuZuバージョン)
11. クラリネットをこわしちゃった(ZuZuバージョン)
12. UNDABA-SYEBANA

 どれも素晴らしい出来なんですが、伊藤さんのうまさが光るのは「夢の中さ」でしょうかね。本当にネタとかそういうのを超えて歌がうまいっす。ちなみにこの演奏には三味線が入ってますが、それがまた妙にオシャレに聞こえますよ。
 これら秋田弁ヴァージョンの独特の質感は、伊藤さんの訳詞の妙による部分も大きいと思います。彼は秋田弁にない言葉はそのまま使わず、しっかり秋田の人にもわかるように言い換えをしています。そのために単語の数が原詞の1.5倍近くになっています。それを同じメロディー、すなわち時間の中に入れるわけですから、どうしてもフレーズ内のシラブル数が増えます。それが独特のリズム感を出しているんですね。フランス語風に聞こえる理由の一つはそこにあると思います。
 ネイティヴであるカミさんに、そのへんを解説してもらいましょう。
 きどった表現は秋田弁にはない。それを全部日常語に訳し直しているところがすごい。たとえば、次のような部分。
 
「胸」→「乳」
「田園」→「田んぼ」
「走馬燈のように」→「盆につける灯籠みでに」
「やさしく微笑む」→「良ぇ風に笑った様に見しぇる」
「城跡」→「殿様の家の跡」
「キャベツばかりをかじってた」→「キャベツ何も付けねでかじってあんだ」
「おでん」→「醤油で煮だコンニャク・はんぺん・デゴン・玉子」
「消える」→「ねぐなる」
「造り酒屋」→「酒こしぇる家」
「レンガ」→「焼き土」

 つまり秋田では「おでん」という概念がないのである。いわんや「走馬燈」などという言葉はない!
「キャベツばかりをかじってた」が「キャベツ何も付けねでかじってあんだ」になるのは、説明するのは難しいが、ネイティヴにはそうとしか言えない「何か」がわかるんだよなあ。
 …ということらしいです、ハイ。私も秋田へのホームステイ(?)を重ね、最初0.3%だった理解率も30%にまで上昇しておりますが、まだまだですなあ。いやあ、日本語が単一言語だなんて誰が言ったんだろう。日本人が単一民族だなんて、とても言えませんね。
 ちなみに秋田弁は共通語からの距離の遠さは、ある研究によると琉球語に次ぐ2位の座を薩摩弁とともに争っているとか。たしかに津軽弁(青森弁)の方が私にはわかりやすかった。
 来月にはその外国をまた訪問する予定です。いろんな意味で楽しみですなあ。
 あっそうそう、収録されている伊藤さんのオリジナル曲「SYMPHONY」では、奥さんの言葉は標準語(共通語)、御自身の言葉は秋田弁と使い分けられています。私は曲を聴いても、あるいは歌詞カードを読んでもさっぱり意味がわからなかったのですが、カミさんにトランスレートしてもらったら、ようやく笑えました(笑)。
 
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コメント

「か買わねば!」(゜o゜;)
久々にそう思いました。アマゾンにてポチッとな。

投稿: LUKE | 2008.05.30 23:38

LUKEさん、さすが!
これはホントに買いですよ。
まず歌が非常に上手です。
秋田弁の不思議な響きとともに妙に癒されますよ。
訳詩の妙にも感心しますし、とにかく日本語や日本について考えさせられますねえ。
IIも近いうちゲットしようと思っています。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.05.31 07:21

近頃「お花畑牧場」で注目されている田中義剛さんが、随分昔に津軽弁で即興ロックみたいなのをTVで披露していました。
標準語と違って単語にシラブルが少ないので、非常に音楽にマッチしていて格好良かったっす。

投稿: LUKE | 2008.05.31 19:08

そうそう、東北弁は開音節じゃないんですよ。
洋楽のように一つの音符にいくつかの音節を乗せやすいんですよね。
だからこそ、私の脳では文字に変換されないんですがww

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.06.01 05:08

便利な時代です。昨日 CD が届きました。
「これは日本の歌をフランス語でカバーしたものである。」と偽って嫁に聴かせた所、種明かしをするまで全く違和感なくフランス語だと思い込んでおりました。タモリ倶楽部の空耳アワーのごとく、一度そう聞こえてしまうとそれ以外に聞こえないものですね。(^_^;)
ちなみに、歌手の伊藤さんの作詞には英単語もあったりするのですが、嫁にはその英単語の部分だけ“日本語に聞こえる”そうです。

関係ない所で一つだけ不満が。
CD を包装するビニールに貼られた POP に
「世界初!! 究極の癒し系~」
との文言が。
世の中何処まで癒されれば気が済むのでしょうかね。こちらは別に癒されたくないのです。また、“癒し”が“卑し”に通じるようで個人的に気持ち悪いという言いがかりも含め、安直な宣伝文句のお陰で私の心の平穏が大いに乱されました。
責任者出てこい!

投稿: LUKE | 2008.06.02 02:38

LUKEさん、どうでしたか。
なかなか良かったでしょう。
私も生徒に「何語だ?」と言って聞かせましたが、誰もわかりませんでした。
ロシア語、韓国語、ポルトガル語、ヘブライ語、いろいろ出てきましたけど。
そうそう、「癒し」と「泣ける」という言葉がどうも嫌いです、私も。

投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.06.02 10:40

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