『新書アフリカ史』 宮本正興, 松田素二 (編集) (講談社現代新書)
あさってから横浜でTICAD(アフリカ開発会議)が始まるということで、読んでみました。新書とは言え、600ページもある本ですし、今までほとんど興味がない分野だったので、けっこう時間がかかりました。でも、面白かったなあ。知らない世界のことを知るというのは楽しいし刺激的なものです。
TICADが日本で行われるのにはいろいろな事情がありましょう。ただ、最もわかりやすい説明としては、やはり日本とアフリカ諸国の関係が比較的良好であるということが挙げられるのでしょうね。もちろんヨーロッパとアフリカとの間に存する暗く重い歴史の裏返しとして、そういうことが言われるわけです。
この本では、もちろんそのような暗く重い部分も取り上げられていますが、ある意味より面白かったのは、非常に豊かで多様性に富んだ歴史と文化を持つアフリカという側面でした。
基本文字のなかったアフリカを学問的にとらえることは非常に困難です。そう、そこが問題なんですよね。文字(コトバ)が学問(科学)を生む、そしてそれを文明ととらえるという、私たちの常識にはいったいどんな根拠があるのでしょう。
はじめに言葉ありきという発想は、ヨーロッパが生んだ(ヨーロッパに採用された)、彼らに適した武器にすぎなかったはずです。
これはもちろんアフリカに限った話ではありません。日本の神話時代もそうですよね。また、それは音楽についても言えますね、楽譜なんてないのが普通の音楽のあり方です。楽譜を生み出し、それをもとに構築された近代西洋音楽を標準とする発想は非常に危険です(今、隣で娘がそれに毒された教材を練習しています…笑)。
ところで、私が日本人のネオテニー性を指摘する時、いつも使うのが「人類発祥の地からある意味最も遠い国日本」という表現です。もちろん、これは学術的な意味合いではなく、比喩であるわけですが、最近私が思うのは、柳田国男の方言周圏論みたいにですね、遠いところに古いものが残っているというのが、世界的にもあるんじゃないかと。つまり、日本に人類発祥の頃のアフリカの人々の記憶が沈滞しているんではないかと。
アフリカは砂漠ではなく、森林の大陸です。彼らが培ってきた(しかし、今や消されつつある)森林文化は案外日本に残っていたりするのではないでしょうか。
日本もある意味西洋化が進みましたし、戦争では負けてしまいましたが、しかし、アフリカと違ってあまりに小さい国土だったためか、植民地にはなりませんでした。おかげでいまだに英語すらまとも話せませんね。そう、それはまさに、ロゴス(コト)の侵略を受けずに生きているモノノケのままでいるということです。
私はかねがね、これからはコトよりモノの時代だと叫んでいますが、そういう意味でも、こうしてアフリカという、ある意味モノの発祥地と、日本というモノの終着点が仲良くするのはとってもいいことだと思いますね。別にアンチ欧米というわけではありません。そんなことをいちいち考えなくとも、モノ社会の方が生命体としては絶対強いと思いますので。
本の内容からはずいぶんと離れてしまいましたが、なんとなくこんなことを考えさせられてしまったのでした。まあ、日本に限らず、アジア的なモノとアフリカ的なモノが協力する時代が、これから来るんじゃないかなと予感したのでしょうね。
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コメント
数年前までアフリカ行き(チュニジア、カメルーン、コートジボワール等)を目論んでいたことがありまして、そのときはアフリカの情報誌を読んだりしていました。
最近、南アフリカではよその国から出稼ぎにやってきた人に対する人種差別的暴動が起っているようです。(イタリアでもルーマニア人を追い出したりしていますが)
投稿: 龍川順 | 2008.05.27 16:54
龍川さん、いつもどうもです。
アフリカの情報誌といいますと、やはりフランス語で書かれているんでしょうか。
一口にアフリカと言っても、とんでもなく広いですからね、アフリカ内部でもいろいろとあるようでしょう。
今年はもう少しアフリカの音楽も聴いてみようかなと思ってます。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.05.27 20:25
『若きアフリカ』http://www.jeuneafrique.com/ というのを読んでいました。
人類発祥、「森林の記憶」ということに言及されていますが、「音楽」と「言語」はどちらが先に生まれたのかとふと考えさせられました。たぶん、人間が森林と一体化していたのと同じく、音楽と言語も区別のつかないものだったと思うのですが。
投稿: 龍川順 | 2008.05.27 21:54
2歳の娘(トップページの黒猫の大ファンです)が、朝起きて上機嫌だと言葉に節をつけてずっとつぶやいています。子供のうちは分離しないままのときの記憶があるのかもしれませんね。
話は変わりますが、縦書きだと少なくとも倍の速さで読める気がします。数式などが入らない限り、優位性は明らかだと気がつきました。
投稿: 貧乏伯爵 | 2008.05.28 11:15
龍川さん、伯爵さま、そうですね。
人類と森林はまさに「コト」と「モノ」。
言語と音楽は「コトノハ」と「モノノネ」ですからね。
子どもにとっては両者はまだ分離分節以前なんでしょう。
大人になるって、分別がつき、物分かりがよくなるってことですから。
なるほど。
ところで、お二人はこの前円形ホールで会ってるんですよ。
不思議な感じがします。
縦書きを読む時の脳の状態に興味があります。
自分が書いたものでも縦書きにすると、他人のもののように感じます。
最初から縦書きで書いたものはそんなことないんですが、このブログのように横書きで、それもコンピュータのキーボードで入力しているものは、なんだか人が書いてるような感じです。
それこそ分離しちゃってるような…。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.05.28 18:53