「おかえりなさいませ、ご主人様」の不思議
え〜、本格メイドカフェやメイド教室(?)には行ったことはありますが、実はホンモノのメイド喫茶には行ったことがありません。ですから、「おかえりなさいませ、ご主人様」などと言われたことはありません。もちろんウチに帰ってきても、妻も二人の娘もそんなこと言うわけありません(「言え」と言えばギャグで言ってくれるでしょうけど、むなしいのでやめときます)。
さて、そんなメイド喫茶での常套句「おかえりなさいませ、ご主人様」でありますが、これって不思議じゃないですか?いや、別にメイド喫茶じゃなくてもいいんですよ。とにかく「ただいま」「おかえり」の「おかえり」です。
今日授業中、ウチのメイド…ではなくてギャルどもと漢文の問題を解いてる時、なんだかまた話が脱線して、挨拶の話になったんですね。それでふと気づいたんです。
「おかえり」「おかえりなさい」「おかえりなさいませ」
これって命令形じゃん!?
帰ってきた人に「帰れ!」って言ってるってこと?
私四十ウン年生きてきまして、もうおそらく何万回も言ったり言われたりしてきたんでしょうけど、今まで気づきませんでした。
たとえば「おやすみなさい」。これは命令形の尊敬表現として不自然ではないですよね、状況的に。もうそろそろ寝なさいということですね。お互いにそう言い合っても変ではない。
しかし、帰ってきた人に対して、「帰れ」とはどういうことでしょう。「なんだよ、もう家に帰ってきたのかよ。さっさと会社に(学校に)帰れや!」ってことでしょうか(笑)。
メイドカフェ風に言いますと、「なんだよ、このキモヲタ!さっさとジュースでも飲んでおウチに帰ってゲームでもしてろや!」っていうことしょうか(冗談ですよ)。
まあ、「おはよう」とか「こんにちは」とか「さようなら」とか「ただいま」とか「Hello」とか、とにかく挨拶語というのは、本来の意味を失った形式的なものになるんですけど、それでも今挙げたものたちなんか、語源に遡ればそれぞれ「なるほどね」と納得できます。しかし、「お帰りなさい」は納得できないぞ。どういうわけでしょう。
似たような命令形の尊敬表現では、「いらっしゃいませ」というのがありますね。これも似たような矛盾をはらんでいるんですけど、でもちょっと違うような気もする。基本、店の前を通過する人たちに「いらっしゃい、いらっしゃい(お店に入れ)!」と言って呼びかけるわけじゃないですか。それで実際店に入ってきた時に「いらっしゃい(ませ)」と言う。家で客人を迎える時も、基本玄関先で「いらっしゃい(ませ)」と言うわけですよね。そうすると、「Come in!」的なニュアンスで、「さあさあ、どうぞ中までいらっしゃい」という意味で使っているともとれます。店でも入り口から店の奥へ誘う感じがあるとも言えますよね。
それに比べると「おかえりなさい(ませ)」というのは、やっぱり異質です。たしかに玄関が開いた音を聞いて「おかえり!」と言う時もあります。それを「いらっしゃい」と同じように考えることも可能ですけれど、我々はもちろんそんな意識をもってこの言葉を使っているわけではありません。
歴史的に見ますと、どうも江戸時代にはこの表現があったようです。明治の初期の小説にもけっこう多くサンプルを拾うことができそうです。古いものを読んでいると、時々「今、おかえり」みたいなのも見かけます。これは「今、帰ったんですね?」的なニュアンスで分かる気がします。また、「おかえりなさい」の「なさい」を「なされ」の音便ととらえるのではなく、「なさる」の連用形「なさり」の音便と考えて、「お帰りなさりましたね」的に考えると、なんとなく納得できます。
しかし、「おかえりなさいませ」と「ませ」まで付きますと、これはもう命令としか考えられなくなります。あるいは「ませ」を已然形と考え、すなわち係り結びの係り部分の欠落と考える…こりゃあ、無理だな(笑)。
あと、出かける人に対して「お早くお帰り(なさい)」みたいな挨拶というのも実在しますね。これは完全に命令表現です。そういう願望があるからで、実現してほしいことだからです。しかし、帰宅時の「おかえりなさいませ」はそういうことではない…。
う〜ん、なんだか分からなくなってきたぞ。「おかえり」の意味の他の表現、古語や方言なんかを調べてみても面白いでしょうね。あるいはこういう不思議な命令表現がほかにもあるかもしれない。まあ、もちろんちゃんと調べて論文書いてる人もいるでしょうけど。
英語ではどうなんでしょうね。「ただいま」は「Hi, I'm home [back].」らしいけど、本当にそういうふうに言うんでしょうか。で、それに対する「おかえり」は、辞書にはただ「Hello!」と書いてある。実際のところどうなのか、今日ALTに聞いてみます。
というわけで、かなり気になり始めたので、私なりに研究し、いずれ「メイド喫茶における挨拶語に関する一考察」という論文を書きます(笑)。
| 固定リンク
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 光明寺さん(小山市)で思う(2025.05.23)
- 榮山寺のカオスとコスモス(2025.05.22)
- 吉野〜南朝の幻影(2025.05.21)
- 『超国宝』展 (奈良国立博物館)(2025.05.20)
- 私的「大鹿村騒動記」(2025.05.18)
「文学・言語」カテゴリの記事
- 岡崎市円山の神明宮と古墳群(2025.05.24)
- 古文訳J-POP(有隣堂しか知らない世界)(2025.05.12)
- 「ドアを閉めます」(名鉄)(2025.05.10)
- 能『杜若』(2025.05.01)
- 追悼 大宮エリーさん(2025.04.28)
「モノ・コト論」カテゴリの記事
- 地震と大相撲(2025.03.30)
- ハイデガーVS道元…哲学と仏教の交差するところに、はじめて立ち現れてきた「真理」とは?(2024.06.03)
- 文字を持たない選択をした縄文人(2024.02.14)
- スコット・ロスのレッスン(2024.01.12)
- AIは「愛」か(2024.01.11)

コメント