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2008.05.23

キム・カシュカシャン&キース・ジャレット 『バッハ ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ』

41wcbv92fql_sl500_aa240_ 近、音楽ネタが多いですね。いや、実は本も数冊読んでいて、それについて書かなければならないと思っているんですが、どうもその気になれません。自分の中で言語についてはかなり迷いがあるんです。一方、音楽については、いろいろと新しい発見があるものですから、ついつい。ま、こういう時もあるでしょう。良かった、ジャンルを絞らないブログで(笑)。そう考えるとやっぱり松岡正剛はすごいなあ…。
 さてさて、今、ソロ・コンサートのために来日中のキース・ジャレット。死ぬまでに一度は、生であのインプロヴィゼーションを聴いてみたいなあ(トリオは数回聴きました…すごかった)。
 今月の8日が彼の誕生日だそうで、なんともう63歳になったとのこと。病気を克服して第二の音楽家人生を歩んでいるんですよね。こうしてソロ・コンサートができるまで回復したということです。良かった良かった。
 私は基本的に彼の作品はどれも好きです。ソロもトリオもバッハも。これまでいくつか紹介してきましたね。検索するといろいろと出てきます。どちらかというと、彼の作品の中でも特殊なものを選んでおススメしてきたような気がします。
 本来の活動、たとえばトリオの作品はほとんど全て持っていますけれど、あれらについては語るのも野暮というものです。というか何も言えません。
 で、今日紹介するのも、またちょっと特殊な作品ということになるんでしょうか。バッハの「ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ」です。ここでキースはチェンバロを弾いています。この時点ですでにある意味特別ですよね。そして、ガンバのパートはヴィオラによって演奏されています。
 しかし、ここで聴かれる音楽は実に「正統的」とも言われそうですね。よくキースのバッハ作品に言われること、意外に(と言うか、ほとんど残念なほどに)普通というヤツです。たしかに比較的平坦なアーティキュレーション、テンポです。即興的な部分も案外普通と言えば普通。ちょこちょこ装飾音を付けていますが。とてもジャズ・ミュージシャンとは思えない表現です。たとえば、チック・コリアのモーツァルトなんかかなり期待を裏切りませんよね。それに比べると期待外れだと感じる方も多いことでしょう。
 しかししかし、古楽人からしますと、これは意外に(と言うか、ほとんど受け入れられないくらい)変なのではないでしょうか。他のチェンバロ使用作品、平均率の第二巻とかゴールドベルクとかもそうなんですが、いわゆるオーセンティックな奏法からかなり遠いところにあると思います。
 彼も彼ですから、当然そういう勉強をしていると思います。ガーディナーと競演したりしてますしね。しかし、いわゆる専門家と何が違うかと言いますと、あくまで彼は楽器が教えてくれるままに自らの演奏法を作り出しているということです。バッハの音楽の解釈もそういうことです。理屈や伝統以前に、楽器やバッハの音楽が示す通り、それを受け取った自分の感性の通りに演奏しているという感じです。
 ですから、ジャズ・ファンの期待も、バロック好きの期待も、両方とも裏切ってしまうんでしょうね。面白いのは、彼のバロック作品の全てが、ジャズの専門誌においても、レコ芸(!)においても、メチャクチャ評価が低いということです。私はそれを読むたびにしてやったりと思っていましたけどね(笑)。
 なんででしょうね、私はいちおうその両方の世界に属する人間だと思うんですが、不思議と彼のチェンバロ演奏が好きなんです(それでずいぶん変人扱いされましたけど)。このCDもずいぶんと愛聴しました。自分がガンバを弾けないヴィオラ弾きであるということもあるかもしれませんね。そう、キースもいいんですけど、ヴィオラのカシュカシャンがいいんですよ。
 カシュカシャンはクレーメルともよく一緒にやっている世界を代表するヴィオラ奏者ですね。ここでの彼女のバッハは実に美しい。ガンバのための作品であることを忘れてしまいますよ。音色もいいですねえ。バッハはヴィオラ弾きだったようですから、もしかすると、この作品も自らヴィオラで弾いたかもしれませんね。そんなことを想像させるいい演奏です。
 そう言えば、去年私もプロレス観たあとヴィオラで2番を弾きましたっけ(こちら)。
 ところで、ご存知の方も多い思いますが、キース・ジャレットのチェンバロと言えば高橋辰郎さんですよね。日本のチェンバロ製作家です。キースは高橋さんのチェンバロに惚れ込み、(おそらく)全ての録音に使用しています。この録音でも使われていると思います(クレジットがない)。
 高橋辰郎さんのチェンバロもまた、ちょっと正統派から外れているかもしれない。彼も必要以上にオリジナル主義にならず(すなわち遺産のコピーに終始せず)、自らの信念の下、独自の世界を持った楽器を作り続けています。私もずいぶん前になりますが、何回かお会いしたことがあります。面白い方でしたよ。刺激的なお話をしてくださいましたっけ。
 以前紹介したキースの隠れた超名盤『Book of Ways』で使われているクラヴィコードも高橋さんの手によるものだと思います。
 キースの演奏や高橋さんの楽器の音色を聴くと、オリジナル主義とかオーセンティックな奏法とかピリオド楽器とか…そういう「言葉」がバカバカしくも感じられるから面白いですね。私はどのへんに身を置こうかな…このCDはそんなことを考えさせられる名演奏です。
 
Amazon Bach: Sonatas for Viola da Gamba and Harpsichord

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