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2008.04.11

源氏物語に学ぶ「通奏低音奏法」その2

Dftf 今日は、チェンバロ&ヴァイオリン製作家の卵がウチに遊びにいらっしゃったので、いろいろと話をうかがいました。そこで思い出したものがあったので記しておきます。
 以前、源氏物語に学ぶ「通奏低音奏法」という記事を書きました。平安のセクスィー部長光源氏さんによるチェンバロ奏法指南です。あそこのシーンでチェンバロ(和琴)の名手として挙げられている当時の内大臣こと「頭中将」が、さらに出世して太政大臣になっていたころ(巻名では若菜上)、彼の息子の柏木(衛門督)が和琴を弾くシーンがあるんです。お父さん秘蔵の名器で通奏低音パート(?)を担当します。今日はまず我流(無手勝流)の訳を載せましょう。本文は最後に。


 朱雀院の御病気が、まだ完治なさらないことから、楽人などはお召しになりません。御笛など、太政大臣がその方面はお整えになって、
 「世の中に、この御賀よりまた素晴らしく美しさを尽くすような催しはないでしょう」
 とおっしゃって、優れた楽器や奏者の限りをかねてから熟慮し準備なさっていたので、忍びやかに音楽のお遊びが催されます。
 とりどりに演奏申し上げる中で、和琴は、かの太政大臣が第一にご秘蔵になっていた御琴です。この楽器の名人が、愛情を注ぎ込んで弾き馴らしていらっしゃる音が全く並ぶものがないほどなので、他の人は音を出しにくくなさるので、衛門督が固く辞退しているのを無理に催促なさると、本当にとても素晴らしく、ほとんど父に負けないように弾きます。
 「何ごとでも、名人の後嗣と言っても、このようには継げないものですよ」と、感心しあっぱれだと人々はお思いになります。
 メロディーに従って楽譜の残っている曲や、演奏すべき音が決まっている中国伝来の曲などは、かえってどう演奏すればよいか尋ね知る方法がはっきりしていますが、心にまかせて、ただ弾き合わせるアルペジオに、すべての楽器の音が調えられている様子は、本当に素晴らしく、不思議なまでに響きます。
 父大臣は、琴の緒をとても緩く張って、たいそう低くチューニングし、響きを多く合わせて弾き鳴らしなさります。息子の方は、たいそう軽やかに昇り立つような音で、親しみやすく明るい調子なのを、「まったくこのようにお上手とは知りませんでした」と、親王たちも驚きなさります。


 どうでしょう。息子の柏木もなかなかやるようですね。お父さんに負けず、そしてお父さんのコピーに陥らずオリジナリティー溢れる演奏をしたようです。特に、楽譜通りでなく、他の楽器の音を自らの響きにおさめてまとめるアルペジオでの即興演奏は素晴らしかったと。これはまさにチェンバロやリュート、テオルボなどの撥弦楽器による通奏低音奏法の理想ですね。
 あと面白いのは調律法でしょうか。頭中将は低めにチューニングしたようですね。テンションを下げるとたしかに響きは豊かになります。
 そうそう、いきなり現代に話が飛びますが、最近復活したX-JAPANも半音下げチューニングしてましたね、たしか。あれはバロック・チューニングを意識したのだと聞いたことがあります。ホントかな。ちなみにBUMP OF CHICKENもほとんど全て半音下げですね。今度5月に彼らのライヴに行く予定なので確かめてきます。彼らも古楽的な要素を持ったバンドですからね。案外、我々古楽人のスタイルが現代ロックに影響を与えてるんですよ。
 洋楽ではヴァン・ヘイレンが有名でしょうか。ジャズでも誰かいたような…。結構いるんですよね。独特の響きを出したい時は頭中将流が手っ取り早いというわけです。
 というわけで、あいかわらず「古今東西・硬軟聖俗」めちゃくちゃな内容になってしまいましたが、いかがでしたでしょうか。では、最後にいちおう本文を載せときます。

 朱雀院の御薬のこと、なほたひらぎ果てたまはぬにより、楽人などは召さず。御笛など、太政大臣の、その方は整へたまひて、
 「世の中に、この御賀よりまためづらしくきよら尽くすべきことあらじ」
 とのたまひて、すぐれたる音の限りを、かねてより思しまうけたりければ、忍びやかに御遊びあり。
 とりどりにたてまつる中に、和琴は、かの大臣の第一に秘したまひける御琴なり。さるものの上手の、心をとどめて弾き馴らしたまへる音、いと並びなきを、異人は掻きたてにくくしたまへば、衛門督の固く否ぶるを責めたまへば、げにいとおもしろく、をさをさ劣るまじく弾く。
 「何ごとも、上手の嗣といひながら、かくしもえ継がぬわざぞかし」と、心にくくあはれに人びと思す。調べに従ひて、跡ある手ども、定まれる唐土の伝へどもは、なかなか尋ね知るべき方あらはなるを、心にまかせて、ただ掻き合はせたるすが掻きに、よろづの物の音調へられたるは、妙におもしろく、あやしきまで響く。
 父大臣は、琴の緒もいと緩に張りて、いたう下して調べ、響き多く合はせてぞ掻き鳴らしたまふ。これは、いとわららかに昇る音の、なつかしく愛敬づきたるを、「いとかうしもは聞こえざりしを」と、親王たちも驚きたまふ。

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