『ほんとうの環境問題』 池田清彦 養老孟司 (新潮社)
このおススメに何度も登場願っているお二人。そのお二人による夢の最強タッグが実現しました。
結果、あまりに上等なエンターテインメントが完成。予想をはるかに超えるのがエンターテインメントです。断絶していたものどうしを結びつけるのがエンターテインです。
何が断絶していたか。それは「人」と「自然」です。そして「私」と「『ほんとうの』真実」です。何が断絶させているのか。犯人は「カネ」です。そして「政治」です。
私は何度も何度も繰りかえしてきました。資本主義、市場経済を続ける限り環境問題は解決しないと。真剣に地球にやさしくするんだったら、もういっそのこと清貧に甘んじろと。いや、死んでしまえと。
私がいくら吠えたところで、そんなことは実現しっこありません。いや、このある種の天才二人がこうして吠えても、基本世の中は変わらないでしょう。カネは暴力と仲がいいのです。だから、一旦カネが本気を出せば、我々はひとたまりもないんです。
うん、そうだ。いっそ、カネの力を借りてカネを制すか。そういう楽観的な未来展望というのもずいぶんとなされてきました。どうせ最後は自滅するよ、人類なんて。この本にも少しそういう臭いがあります。石油は全部使ってしまえとか。
でも、それじゃあ、あんまり哀しいじゃないですか。人類というレベルではそれでいいし、そういうレベルならば人類ごとき絶滅しても、宇宙にとっては、あるいは地球にとっても、全然痛くもかゆくもないのかもしれません。でも、やっぱり、自分というレベルで考えると哀しい。
その人々共通の哀しさ、それは倫理とはちと違うのかもしれませんけれど、そこんとこにまたつけこむ悪い企業や政治家がいるわけです。それが今、環境問題として騒がれているところの本質だと思います。なぜ、今環境問題が声高に叫ばれるのか、なぜ温暖化論が加熱しているのか。それは、それがカネになるから、すなわち政治になるからにほかありません。
この虫好きオヤジ二人に共通しているのは、「ほんとうのこと」をいつも言ってしまうことです。それで商売している人です。それで虫採りの資金を稼いでいる。あるいは二人に共通していないのは、池田さんは私に好かれていない(たとえばこちら)けれども、養老さんは好かれている(たとえばこちら)という点です。その違いはどうして生じるのかというと、これはものの言い方によるものでしょう。ユーモアの質の違いでしょうかね。いや、虫としての質感の違いかな。ほら、虫の中でも、これは許せるけど、これは許せないっていうのあるじゃないですか。生理的に。
というわけで、とにかく面白かったんです。私はここでついても表明しているとおり、完全なる環境問題懐疑主義者でありまして、そういう意味において、この本は私の知識や想像力をはるかに凌駕していましたから、それはそれは面白く読みました。それこそ30分もかからなかったのでは。そして、その30分間、ずっとニヤニヤしてましたよ。ウンウンうなずいてましたよ。
内容については実際読んでいただく、あるいはAmazonのレビューを読んでいただけばいいですね。で、この本を読んで腹が立つ人ってどういう人なんでしょう。私の身近にもけっこういそうなんですけどね。なんとなく虫が好かないんでしょうか。スローガンやアクションで武装しなくちゃいられない人なんでしょうか。それともやっぱり自然よりカネ、すなわちワタクシ流に言えば「モノよりコト」の人なんでしょうか。
繰りかえします。やっぱり私は「心より物(コトよりモノ)の時代」を標榜して行動していきたい。この本を読んで笑いながら真剣にそう思いました。
Amazon ほんとうの環境問題
楽天ブックス ほんとうの環境問題
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コメント
僕は池田清彦の『環境問題のウソ (ちくまプリマー新書)』と『他人と深く関わらずに生きるには(新潮文庫)』のどちらも、読んでいるうちに不愉快になって途中でやめてしまいました。世間の常識のウソを暴くという痛快さを面白がる人は少なからずいるようですが、僕の場合はそれ以上に著者の語り口に不快感を覚えてしまうし、内容も信頼するに足るものであるようにはどうしても思えないのです。ただ、池田清彦のようなものの見方の存在は知っておいた方がいいでしょうね。
環境問題も所詮はカネだ、というのはその通りだと思いますよ。
投稿: mf | 2008.04.10 22:09
mfさん、どうもお元気ですか。
新年度いかがお過ごしでしょう。
さて、mfさんの途中まで読んだ2冊、私もしっかり途中まで読みましたよ(笑)。
まったく、正しいことでも言い方次第では相手にちゃんと伝わらないといういい例ですね。
私も常識のウソにはだまされたくない人なんですけど、言い方には注意しなくちゃと思いました。
結局彼や中島義道さんは原理主義者なんですね。
まあ、世の中こういう人たちも必要なのかなあ。
自分にはこういう勇気はないもんなあ…。
投稿: 蘊恥庵庵主 | 2008.04.10 22:23