« 『三島由紀夫―剣と寒紅』 福島次郎 (文藝春秋) | トップページ | 「茜色の夕日(フジファブリック)」に見る「もの」と「こと」 »

2008.04.03

『山下洋輔のジャズの掟(オキテ)』 (NHK趣味悠々テキスト)

Jazz45 今週から始まった「[新]趣味悠々・国府弘子の今日からあなたもジャズピアニスト」を観て、10年前のこの講座を思い出しまして、久々に本棚から引っ張り出してきました。
 ジャズは理論が大切です。自由度が高いからこそルールもたくさんあります。ジャズの演奏をするのには大きな壁がいくつかありますが、この理論の学習も大変なことの一つですね。ジャズのそれに比べればクラシックの理論はちょろいもんです(私はもちろん両方とも完璧…なわけありませんが…笑)。
 私もジャズが大好きでして、楽器をやるものとしてジャズの演奏を志した時もありました。今では完全に諦めちゃってますけどね。そう、今までいろいろなことに挑戦してきましたけど、どうもゴルフとジャズに関してはセンスがないようです。今ではどちらも観る・聴くだけになりました。
 無理なことに果敢にも挑戦していた若かりし頃、何冊かのジャズの理論書を買いました。で、どれも最初の20ページくらいで放り出しちゃったんですね。まあ、音楽の習得は言語の習得に似てますからね。文法はつまらんわけですよ。早くペラペラしゃべりたい、その欲求ばかり先走りましてね。リスニングはそこそこできていたつもり(実際には雰囲気に酔っていただけですが)だったので、辛かったんですね、地道な学習が。
 一番たくさん演奏してきた古楽に関しては、文法の前に無理やり会話させられる機会が多かったので、比較的楽しく習得できました。そう、合奏の経験がすなわち会話の経験だったわけです。もちろん、ずいぶんと時間がかかりましたし、あいかわらずなんちゃってでネイティヴにはほど遠いんですけどね。
 ジャズではそういう機会は全くありませんでしたから。まあ、いきなりNew Yorkかどっかでジャズをやらないと喰っていけないとかいう状況に置かれていたら、今ごろできるようになっていたかもしれませんね、なんちゃってでも。
 で、話を戻しますと、いろんな理論書が無駄になった中で、この本だけは本当に役に立ちました。いや、これによって理論が習得できたということではなく、これによってジャズをあきらめた(そんなレベルじゃないけど)という意味において。
 これ、業界でもけっこう伝説の書なんですよね。とにかくあの山下洋輔さんが「掟」と言い、「掟」を破るなら自己責任で、そして人前ではやらないようにと釘を刺すんですから。一見(一聴)メチャクチャに聞こえる彼の音楽は、実はその掟をベースにして、それをギリギリまで破るところに存在しているのだ、いうことですね。説得力ありすぎ。
 この講座、カトリヤン教授こと香取良彦さん、大坂昌彦さん、納浩一さん、道下一彦さんというそうそうたるメンバーによる模範演奏もあったりして、初心者のみならずベテランをもうならせる内容でした。私も何回か録画しているはずですけど、見つけるの大変だろうなあ。今もう一度観るとまただいぶ違った感想を持ちそうな予感がします。
 とにかくテキストは読んでいて楽しい。理論なんて習得しなくても、ただ読んでるだけで楽しい。山下さん独特の言い回しが面白い。導入の文章は比較的まじめですけど、実践に入るともう山下節全開。リズムは「渋谷」と「御徒町」になるし、ハナモゲラ語まで登場する始末。
 最後、出演者によるジャムセッション(対談)は、ある意味またまじめモードに戻ります。これが深いんだな。全ての音楽を志す人に読んでもらいたい。ジャンルは関係ないですよ。そして、実は音楽に限らない真理もそこにあるんです。人間の生き方、社会のあり方、デモクラシー、喜びや楽しさとは何か…。
 本当に素晴らしいテキストです。もちろん理論書としても優れていますよ。特にブルースとモードの解説は絶品です。

Amazon 山下洋輔のジャズの掟

不二草紙に戻る

|

« 『三島由紀夫―剣と寒紅』 福島次郎 (文藝春秋) | トップページ | 「茜色の夕日(フジファブリック)」に見る「もの」と「こと」 »

音楽」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 『山下洋輔のジャズの掟(オキテ)』 (NHK趣味悠々テキスト):

» ちゃんとジャズる [もりもり@函館「洋琴庭」]
いつもライヴの時に弾いてるOn the sunny side of the street、 スタンダードナンバーだけど、楽譜見てほんのちょっとアレンジ するという位で、これ、もうちょっとジャズらしく弾きたいなあと 思っていました。思えば、「超なんちゃって」でやっているだけで 少し理論と...... [続きを読む]

受信: 2008.04.24 10:13

« 『三島由紀夫―剣と寒紅』 福島次郎 (文藝春秋) | トップページ | 「茜色の夕日(フジファブリック)」に見る「もの」と「こと」 »